爆宴の彷徨者が嫌われる『理由』
--爆宴の彷徨者が嫌われる『理由』--
あらすじ:海でもお姉様にお仕置きされたよ。
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「ところで、オモラシ君は『爆宴の彷徨者』について、どれくらい知っているの?」
オレは水の来ない安全な場所に足を折り曲げて、膝をそろえて座らされている。『セイザ』と言うらしい。足がしびれる拷問のようだが、崩すわけにいかない。
「英雄の使った『ギフト』で、爆発を使って魔物の群れをなぎ倒して、倒れても不死鳥のように復活したと聞いております。お姉様。」
語尾にお姉様を付けるのを忘れてはならない。せいぜい女の気分を良くしておかないと、いつまた体を動けなくされるか判ったものじゃ無い。オレはまだ死にたくはないからな。
「それだけ?」
「それだけで、ございます。お姉様。」
「それじゃあ、英雄については?特に最後について知っているの?」
「『英雄』と呼ばれていた事以外は、まったく知りません。英雄の最後には、いったい何が有ったのでしょうか?お姉様。」
街の牢番も同じような話をしていた。
『あの有名な呪われた『ギフト』を取ろうなんてヤツは居ないだろう?話のオチを聞いたら絶対に取りたくなくなる『ギフト』だ。』
牢番が言っていたオチはずっと気になっていた。村でオレを奴隷のようにしてしまった『爆宴の彷徨者』のオチ。何があるって言うんだよ!?
「あら、自分の『ギフト』なのに知らないなんてダメな坊やね。良い?『爆宴の彷徨者』の力は自爆する力。敵の目の前まで行って自分を爆発させて相手を殺す。自分の肉体が無くなったら、どこか別の場所でリスポーンするのよ。」
「自爆?それが英雄の最後だって言うのですか?お姉様」
自爆するだけならオレには問題が無いじゃないか?まぁ、好きな場所でリスポーンできないのは面倒だし、自爆したら全裸になってしまうのは大問題だけどな。
「オモラシ君にとっては大したことじゃないけど、周りの人にとっては大問題なのよ。隣で笑っていた人間と、ちょっとしたケンカをして怒らせたら肉片をばらまいて、いきなり爆発するのよ。その上、爆発した本人は無傷どころかケンカで傷付けられても治ってしまうし、毒も消してしまう。周りの人間からしたら厄介極まりないわ。」
「ちょっとまて、英雄の最後は人間に殺されたのか?」
語尾のお姉様を付け忘れるくらい驚いた。
もしも、相手が爆弾だったら、そりゃ腫れものを扱うようになるのも能力を封印したくなるのもわかる気がする。
「お姉様が抜けているわ、オモラシ君。まぁ、ある意味、そうとも言えるわね。人間は英雄になった彼に近づかなかったし、街からも追い出してしまった。オモラシ君は爆弾と結婚する勇気がある?手料理が美味しくなかっただけで爆発するかも知れない旦那を持ちたいと思う女は居ないわ。」
なんてこった。それじゃあ、オレは一生結婚できないではないか?結婚相手に『ギフト』を隠すなんて事はまず無い。なにせ『ギフト』が生活に直結しているんだぜ。だいたいはギフトを生かした職業に就いていることが多いし、女の中には結婚のための『ギフト』を好むやつだっているくらいだ。
『ギフト』を偽っても、一緒に生活していればすぐにバレてしまう。
オレは一生童貞のままなのか?いや、風俗はどうだ?娼婦ならワンチャンあるかもしれない。
「英雄は腫物を扱うような街の人たちに嫌気がさしてやがて街を出て行ったと言われているわ。その後、彼を見た者はいない。つまり、一生懸命、人間のために戦っても人間からつまはじきにされてしまったのよ。」
そうだ、オレだって村でつまはじきになってしまった。村の女だって誰も近づいては来ない。おかしいと思っていたんだ。英雄としてチヤホヤされるつもりが、爆弾として嫌われていたんだな。
結婚してしまったら、いつ爆発するかも知れない旦那なんて嫌われるに決まっている。
そうか、オレはもう、一生結婚することは出来ないんだ…。
友達だって作ることは出来ないんだ…。
それどころか、街に入れないのかもしれない。
ああ、だから村では『ギフト』封じの首輪を付けさせられていて、他のみんなは『爆宴の彷徨者』を授からないようにしていたのか。
「本当に知らなかったみたいね。誰でも知っている有名な話なのに…。」
顔から血の気が引いているオレに女は呆れてつぶやいた。知っていたら取っていなかったわ!こんな『ギフト』!!
まぁ、取ってしまった物は仕方ない。
簡単に交換してもらえるものでもないからな。村に戻った時には復讐してやろう。娘を犯して村を蹂躙すれば気も晴れるだろう。なにせオレは爆弾だ。村長も英雄の話を知っている様だったし、村人が恐れるに違いない。
「ですが、なぜお姉様は死んでいないんですか?お姉様。」
そうだ、オレは女の目の前で『爆宴の彷徨者』を使ったのだ。自爆の『ギフト』なら、この女も爆発に巻き込まれていなければおかしい。
「あら、私だって女よ。しかも独り暮らしの。女物のパンツを履いた変態のオモラシ君の前に本体がノコノコと出ていくわけが無いじゃない。人形を使っていたのよ。」
「人形?」
「私の幻影を纏った人形を操って、オモラシ君の前に居たのよ。本物は家から人形を操っていたというワケよ。『爆宴の彷徨者』の保持者だとは思っていなかったからダメラには悪いことをしてしまったわ。」
聞いたことがある。森の中に毒や人形を操つる極悪非道の魔女が居ると。幼い頃はその魔女の名前で脅されたものだ。
「まさか、狂想の魔女様なのですか!?お姉様!」
あまり、口にしたくない2ツ名。
その魔女がねり歩くと魔獣、魔物の人形が狂喜乱舞して街を何個か潰して歩いたと言う。
その魔女の人形に男どもが弄ばれて、村がまるごと男と女に分かれての戦争が起こったと聞く。
その魔女が通った村から人間が居なくなったなんて話は両の手で数えきれない。
その悪名は高く、子供の頃に悪さをすれば必ず『狂想の魔女が来る』と言われて育った。
いや、今までオレが受けていた拷問なんてこの魔女にとっては子供の遊びとなんら変わりはしないのだろう。子供が羽をむしり取ってしまった虫と同じことを嗤いながらこの魔女はするに違いない。
「あら、言わなかったっけ?」
とぼける魔女の声にオレは戦慄した。
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次回:2つ目の英雄の『愛用品』




