恐怖の『海』
恐怖の『海』
あらすじ:パンツはオトコの魂を編んだものだった。
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「ごめん!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ゆるして!!うぷっ!!おねえさま!!たすけて!!ぐぽっ!」
オレは泣き叫ぶように必死にお姉様に助けを呼ぶ。海の塩辛い水はすでに喉元まで差し掛かっていて波が来るたびに塩水を飲んでしまう。それでもオレの首から下はピクリとも動いてはくれない。
このまま海の水がオレの頭を越えてしまえば溺れ死んでしまうに違いない。
「た、たすけ、がぼっ!」
放置された最初は、まだ良かったんだ。波が足元まで来たときは嫌な気がしたが、太陽にさらされて火照った体が冷えて気持ち良かったくらいだった。
フトモモまで来るとJrに海水がかかっては風で冷えて太陽に当たっては熱くなって、こそばゆかったり気持ちよかったりと、昨日と同じようにオレの情欲を煽ろうと言う戦法だとタカをくくっていた。
だが、胸元まで来るようになると、太陽で真っ赤に焼けたオレの肌に塩水が触れてしみるのだ。めちゃくちゃ痛い。
畑仕事をしていて肌が焼ける事はよくある事だったが、塩水がここまで痛い物だと思わなかった。たかだか塩が溶けた水だとタカをくくっていたが、塩水がかかった赤く焼けた肌に砂の混じった風吹き付けられて更に痛くなる。
その時から心が折れて、お姉様に詫びを入れているのだが、まったく返事が無い。
とうとう、喉元まで海水が来てしまい今に至る。
もうすぐ死ぬ。
「何でもいいから返事を下さい!お姉様!!!イヤだ!死にたくない!」
波の隙間で無我夢中で叫ぶが返事はない。
希望の無い死の宣告でも良いから声が聞きたい。そうすれば諦めもついて、これ以上もがく事を止められるだろう。
すでに鼻水と海水で鼻も詰まっていているし、海水が目に染みて目も開けられない。体を動かしてもがきたくても、首しか動かすことが出来ない。それでも動かす努力は止められない。いっそ、本当に死刑宣告が聞きたい。
お姉様は偉大なのだ。どんなに遠くに離れていても、私に罰を与える事が出来るのだ。
オレには、お姉様を出し抜く事なんて出来ない。
ああ、このまま溺れ死ぬんだな…。
意識が暗転していく中で、もがいていた腕が唐突に動いた。慌てて転げまわって空気を探すとしよっぱい空気がオレの肺を満たしてくれた。
「げほっ!げほげほっ!」
「あら、死ななかったのね。」
のんきな女の声が聞こえた。
「チクショウ!!何度も呼んだんだぞ!!」
体が動けばこっちのモンだ!
「あら、まだ躾が終わって無かったのかしら?それにしても、こんなになるまでよく我慢したわね。『爆宴の彷徨者』を使えば逃げられたでしょうに。」
しまった。そう言えば、この首輪には『ギフト』を封印する効果なんて無かったんだ。村で付けられていた首輪のイメージが強すぎてすっかり使えないと思い込んでいた。
「ぜぇぜぇ、ぜぇ、はぁ。」
荒い息をして、呼吸を整えるフリをする。使えないと思い込んでいたなんて気づかれたら大笑いされるに決まっている。
「まぁ、逃げても良いけど、今度はオモラシ君の有ることない事を面白おかしく吹聴して周るだけだから覚悟していてね。」
なんだと?
「人がいる場所で『オレは女のパンツを履いている変態です。』と言うか、『オレは女に見られながらオモラシするのが好きな変態です。』と言うか、あれ?どっちも事実ね。無い事が吹聴出来ないわ。そうだ!人が来るまで私が叫べば良いのよ。『キャー!犯される~!!』ってね。それだけで、オモラシ君は牢屋に入る事になって、役人に女物のパンツを見られれば死刑が確定するわね。」
「やめてください!お姉様!何でもしますから!!」
オレは変態じゃないけど、女物のシミが付いたパンツは呪われていて脱げないし、首輪までされている。どんなに頑張っても言い訳できる気がしないし、オレが同じ人を見つけたら絶対に変態だと断定する。
「お、今、何でもするって言ったわよね。」
「はい!なんでもします!お姉様!だから、それだけは止めてください!」
村に居た時のように社会的な信用を失うなんてケチな話じゃなく、知らない街で変態扱いされればお姉様の言う通り、死刑にされることもあり得る。
実際に、痴漢しただけで死刑なんて御触れが出ている街も有るらしいから、言いがかりだと言い張っても貴族様の心象次第では、あっけなく死刑にされてもおかしくない。
「やっと、素直になったね。でも、覚えておいて。もうオモラシ君は私の言う事を聞かなければならないの。水浴びもトイレも自家発電も私に監視されながらする事になるんだからね。」
水浴びやトイレなら浄化の魔法を使えば隠せると思うのだが、自家発電だけはどうしようもない。
もしも、自家発電の最中に人を呼ばれて、『犯される』なんて女の声を聴いた人が居たならば、オレがJrを出している所に扉を蹴破って正義を振りかざして部屋に入って来るに違いない。
そもそも、女に見られながら自家発電なんて出来るはずがない。している最中に女の声でオモラシ君なんて呼びかけられたら、それだけで一気に萎えてしまう。
「自家発電したくなったら言ってね。その間は見ないようにしてあげるから。うふふ。」
その笑い声には揶揄の感情しか籠っていなくて、覗いた後にからかわれたりするかもしれない。どの道、『自家発電させてください。お姉様。』なんて死んでも言えるはずがない。
オレの自由はすでに失われているんだ。この首輪をどうにかしないと、オレは自由に生きていけないようだ。
女の言っていた英雄の愛用品なら、どうにかなるかも知れない。
いや、なって欲しい。
なってください、お願いします。
あの女にイジメられるのはもう嫌だ!
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次回:爆宴の彷徨者が嫌われる『理由』




