表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

首輪と夜の『女の家』

--首輪と夜の『女の家』--


あらすじ:お姉様には勝てなかったよ。

--------------------------------------------------



「さてと、大体聞けたし、そろそろ私は帰るわ。」


話が終わる頃には日が落ちて暗くなりかけていた。


「帰るってどちらに?お姉様。」


「私の家に決まっているじゃない。」


「オレ…、私も連れて行ってもらえるのですか?お姉様。」


「嫌よ。女の子のパンツを履いてストーリーキングをするような変態を、女である私の部屋に連れていけるわけないでしょ?何されるか解ったもんじゃないわ。」


オレはそんな事しねぇ!とは言えそうもない。女の容姿はすこぶるいいのだ。ヤリたいに決まっているだろ。


だが今はそんな事より、屋根のある場所で安心して体を休めたい気持ちの方が(まさ)っていた。森よりましだとは言え畑にも変な虫が歩き回っていて仕掛けの羽と一緒にオレの体とJrををイジメ抜いてくれたのだ。


「私も部屋で寝たいです。お願いします。お姉様」


「あらあら、ワガママな子ね。そうだ。ミレの真似をし3回まわってワンと言えば考えてあげても良いわよ。」


ミレは人間に飼われている愛玩用のペットだ。その真似をするなんて…。


「どうしたの?しないの?」


「ワン!ワン!ワン!」


気が付くと、オレは何も考えずにミレの真似をしていた。


ミレの真似なんて屈辱的だがゆっくりと眠りたいという気持ちの方が勝ってしまった。安心して眠るなんて当たり前の事に思っていたが、気絶から目覚めた時に体を虫が這いずり回っていたあの気色悪さに比べればはるかにマシとしか思えない。


いや、この女の『ギフト』がオレにミレの真似をさせているんだ。そうに違いない。


「あはは、本当に自分からやるなんてね。はしたない子ね。」


「くっ。お姉様の『ギフト』で私を操っているのではないのですか?お姉様。」


一縷(いちる)の望みをかけて問いかけてみる。


「あら、人間を操るなんて『ギフト』聞いた事も無いわよ。もし、そんな『ギフト』が有ればその人は無敵になれるわね。」


それはそうだ。例えば人間を操って強盗でもさせれば、自分は安全な場所から大金をせしめる事だって簡単にできてしまう。それで心が痛むというなら、畑仕事でもなんでもさせればいい。操った人数分だけ収入が倍になるからな。人が人を操れるなんて簡単に出来てたまるか。


「さて、考えてあげたけど、やっぱり見ず知らずの男を私の家に入れるわけにはいかないわ。例え『オモラシ君』じゃなくてもね。」


「な、話が違うじゃないですか!お姉様!」


オレはミレの真似という屈辱的なことまでしたんだぞ。普段のオレなら少しくらいは躊躇(ためら)ったり悩むフリくらいするのに、まったくなにも考えずにただ安心して眠りたいがためだけに従順になってやったんじゃないか!


「ちゃんと考えて(・・・)あげたわよ。真剣にね。」


ニヤリと笑う女の顔は絶対に最初から考える気も無かったようにしか見えない。


チクショウ。


膝から崩れて地面に頭を付けると悔し涙しか出て来なくなってしまう。地面をオレの瞳からあふれた感情がぽたりぽたりと濡らしていく。


「あらあら、泣かないでよ。そんなに私と一緒に寝たかったの?うふ。モテる女はツライわね。」


楽しそうな女の笑顔は全然ツラそうに見えなくて、イタズラが成功して心底愉しそうな笑顔にしか見えない。


オレは屋根の下で寝たいだけなんだ。


冷たい夜風や湿った朝露に体を冷やす事も無く、土の上を気持ちの悪い虫が這いずり回ってもいない安心できる場所で眠りたいだけなんだ。


ついでに、トイレにも自由に良ければなおいい。


こんな変な女と一緒のベッドで寝るくらいなら、床で寝た方が100倍もマシに違いない。寝ている間にナニをされるか判ったものじゃない。


「ダメラ。おいで。」


女が声をかけると、木の影から大きなネレがぬっと出てきた。わんわんと吠えるミレを大きくしたようなそのシルエットは森の獣たちの中では異常に大きく、人間の身長を越える体を持っていて、野生のソレは人を(おそ)う。そのため人間には森の敗王とまで呼ばれている。


まぁ、魔獣には負けてしまうので敗れ去った王なのだけど。


ダメラと呼ばれたネレの首には首輪が付いていて、女が飼っている事を示している。もしもオレがこの女に乱暴を働こうとしていたら、この忠実なネレは森から飛び出して来てオレの首筋に噛みついていたに違いない。


そう思うとゾッとする。


チクショウ。ずっとこの女の手の平で遊ばれていたって言うのかよ。


女は腰の袋から鎖を取り出すと、ダメラの首輪とオレの首に取り付けられている何かを(つな)いだ。女の冷たい指がオレの首に触れてオンナ吐息が耳をくすぐる。こんな時にダメだと解っていても、女の匂いにオレのJrが反応してしまう。


女の指がオレの首に巻き付いている何かを引っ張っていたが首にオレの首にも首輪が付いているのか?


触ろうにも指先だって動きやしない。今度はダメラの獣臭い息がオレの顔に吹き付けられる。


チクショウ。


「さて、それじゃ動けるようにしてあげるわ。」


そう言って女が指を鳴らすと、オレの指がピクリと動いた。


手を動かして首に触れると、想像通り鎖の先には革で出来た首輪の感触が返って来る。村に居た時に付けられていた『ギフト』封じの首輪に似ている。


チクショウ!また、ギフトが封じられてしまっているのか!?奴隷のような生活に戻ってしまうのか!?


「ほら、さっさと付いて来て。丁度良かったわ、男の子が欲しいと思っていたのよ。」


自分の状況を確認している間に女は歩き出してしまった。嬉しそうな女の声について行こうとしたネレが歩き出すと、ネレとオレの間をつないでいた鎖が引っ張られる。


オレはまだ自分の状況を把握するだけでいっぱいいっぱいだから、首に巻き付けられた首輪が締まってしまって息が出来なくなる。


「くはぁ!」


オレより大きいネレの力に勝てるはずもなく、オレの体が畑の上を引きずられてしまう。


息をするために立ち上がろうとするが、鎖の長さが短すぎてちゃんと立ち上がることができない。そこにネレがまた鎖を引っ張ってしまって土の上に無様に転がってしまう。


「ほらほら、歩けないなら四つん這いで付いてきなさい。」


ヨツンバイだと…。オレは人として2本の足で歩くことも許されないのか?


「かわいい子でしょ?良かったわね。女の子なのよ。しばらくは彼女の家に居候してもらうわ。」


ネレと、動物と一緒に寝なきゃならないのか?


ダメラの大きな黒い瞳がオレをまっすぐに見つめてくる。絶望のあまりオレはそのまっすぐな瞳から目を離せなくなってしまった。


「あら、ダメラを襲う気?ダメよ。そんな変態さんなら、彼女の家も危ないわね。」


「いや、オレにネレと寝る趣味なんて…!」


言いかけている途中でネレがオレの首輪を引っ張る。まるでネレがオレに服従しろと命令しているかのようだ。


鎖に引っ張られてオレの体はまた土の上に転がってしまった。土まみれになって無様に腹を見せるオレの体の上にダメラの前足がのしかかってくる。


ダメラの黒い瞳がオレを見下している。


チクショウ!こんな畜生に見下されてなるものか!?


女に(もてあそ)ばれる一生で終わるのか!?


絶対にこんな場所から逃げ出してやる!!!



オレは祈るように『爆宴の彷徨者』を使った。



--------------------------------------------------

次回:新章/オトコの『タマシイ』



明日は幕間を入れたいと思います。今日中に何か思いついて書き上げる事が出来れば…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ