『奴隷』扱いされていたオレが助けるワケが無いだろう?
よろしくお願いします。と言いたいところだけど、こんな主人公の物語を読むくらいなら拙作『裏路地占い師の探し物』をお読みください。(宣伝)
第一章:魔獣に囲まれた村
--『奴隷』扱いされていたオレが助けるワケが無いだろう?--
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『爆宴の彷徨者』
それがオレの『ギフト』だ。
季節ごとに村に来る旅商人に聞いたんだがカッコイイ名前だろう?
旅商人の話だと、『爆宴の彷徨者』の使い手だった男は多くの魔獣を倒して英雄になったのだそうだ。
男は爆炎を撒き散らしながら何千何万もの魔獣がひしめく戦場を駆け抜けて、いくら倒れても不死鳥のごとく蘇り、また大暴れしにいくんだ。
そして、英雄は伝説になった。
貧しくて幼かったオレが英雄に憧れるのも無理は無いだろう?『ギフト』が貰える12歳の儀式の日に、オレは迷うことなく英雄の力を手に入れたいと願い、そして『爆宴の彷徨者』の力を授かった。
その日のうちに後悔することになるとも知らないで。
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「だからな、ちょっと村の外に出てチャチャっと魔獣を殲滅してきてくれ。」
「簡単に言うなよ!」
今、村は魔獣に囲まれている。数百年に1度起こるって言う森の大氾濫が起きているのだ。数百年に1度なのだから、「殲滅してこい。」と簡単にほざく村長のジジイだってはじめての経験だ。
実際に200年も大氾濫は起きなかったので、昔のヤツの夢物語だとか小さな魔獣の群れを誇張しているだけだって言うヤツの方が多かった。
そんなコトに村が対策を考えて備えていた訳がない。
だってそうだろ?起こるか解らないようなモノに金をかけるなら、不足している農具を買ったり、年貢を王都へ運ぶための馬車を新調した方が良いに決まっている。馬車なんてキィキィ音が鳴りっぱなしなんだぜ、隣村に着く頃には1日中聞いていた音が耳に残って夜に眠れなくなる。いつもオレが行かされるのだから、そろそろ買い換えて欲しいんだよ。
村は沢山の魔獣に囲まれているが、幸いなことに、大昔に作られたボロい石垣が村を囲っていたし、昔の偉い人間が『ギフト』で張った結界が有るので今までは持ちこたえる事ができている。
「200年前に森の大氾濫が起きたと石碑に書いてある。」とジジイが言ってたから、それ以前の物だろう。
石碑によると、200年前はあらかじめ投石用の石や使い捨ての木の槍をたくさん用意していて村人総出で追い返したって話だ。夢物語だとバカにしていた今の村には魔獣を追い返すような備えなんてあるわけない。むしろ200年前の結解がちゃんと動作した事の方が驚きだ。
「オマエの『ギフト』は英雄と同じモノだろ。こういう時に使うんじゃないのか?」
「だからって、『爆宴の彷徨者』を取ったオレを散々バカにして、奴隷のように扱われてきたんだぜ。今さらオレが助けると思うのかよ!?」
オレが英雄の『ギフト』を授かった時、村のヤツらは散々なことを言ってオレを蔑ろにした。
曰く。
「今の世の中、爆殺の英雄の『ギフト』なんて持っていても役に立つワケないだろう?魔獣を爆破させちまったら素材もダメになるんだぜ。金を稼げない『ギフト』に意味なんてねぇんだよ。」
「殺すだけの『ギフト』なんてサイテー。」
「オマエの父親の『土の聞き手』の方が野菜を育てられるだけよっぽどマシだよ。」
オレのオヤジの『土の聞き手』って言う『ギフト』は、昔ながらの農夫が多く授かるモノで、畑の声を聴くことが出来るって言うものだ。昔は『土の聞き手』を授かることで畑が豊かになって収穫が増えたそうなんだが、授かると自分の畑から
「水が足りない。喉が渇いた。」
「肥料を増やせよ。殺す気か!?」
「ホッキの実にばかり水をやって不公平だし!」
などなど、四六時中うるさく聞こえるようになってしまうそうだ、つまり畑の奴隷になるための『ギフト』だ。愛しの嫁とイチャラブしている時だって自分の畑から苦情が来るんだぜ。授かりたいと思わないだろう?
だから最近流行りの農夫の『ギフト』は『腐土の支配者』といって、畑の土壌改良をする『ギフト』だ。畑の都合なんてを無視して、作物に強制的に栄養を吸収させる肥料を作って収穫率がアップさせるから、コイツで金持ちになったヤツがわんさかいる。
でも、どうせならもっと上を目指したいよな。他人と同じ『ギフト』を貰ったって、ソイツを越える事は出来ない。だからオレは今は亡き英雄の『ギフト』を望んだんだ。
だが、願いが叶って『爆宴の彷徨者』を手に入れたオレを妬んだのか、授かってすぐに取り押さえられて『ギフト』を使う事を禁止された。ご丁寧に『ギフト』を封印する革の首輪まで着けられて、扱いは奴隷みたいなモノになってしまったんだ。
誰もが『ギフト』を持っていて当たり前なのだから、『ギフト』を封印されて使えないオレは役立たずとして仲間外れにされた。
村の共用貯水池を増やす時も、オレが独りで池を掘っていた。
年貢を納めるのだって、毎年のようにオレが王都まで行かされる。
誰かに作物の刈り入れを手伝ってもらおうと思えば、「オマエの所は収穫が少ないから、すぐ終わるだろ?オレの畑なんてオマエのトコの5倍もあって大変なんだぜ。オレの方が手伝ってもらいたいわ。」なんて嫌味しか言われない。
『ギフト』が封印されているオレは、村の役に立たないと言われて、誰でもできるような村の雑用があるたびに皆がオレに押し付けてきやがる。
オレは奴隷じゃないっつ~の!
だが、それよりもっと深刻な問題がある。オレには嫁のなり手が居ない。
「絶対に不幸になるバカに、誰が嫁ぐと思っているの?」
「他の人より金を稼いでから出直して来い。」
「死ねばいいのに。」
小さい頃から遊んでいた幼馴染も、優しかった姉さん的な女も、オレの後に付いてきていた妹分も、『爆宴の彷徨者』を手に入れた途端にオレに近づかなくなった。
それどころか、最近は挨拶もしてくれないし、ニコリともしない。視線すら合わせてくれない。
小さな村で村人全員が顔見知りなんだぜ。新しい出会いなんて同じ村どころか、3つ隣の村まで行かなきゃあるワケがない。
だから、オレは村の連中が嫌いになっていたし、200年ぶりに魔獣の群れが現れて今さら頼られたって、助けてやりたいなんてこれっぽっちも思わない。
今まで不等な扱いを受け続けていたんだ、いくら温厚なオレでもキレてるぜ。
あたりまえだよなぁ?
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次回:『交渉』すれば助けると思っているのか?