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街の次は『森』に居た。いったいどうなっているんだ?

--街の次は『森』に居た。いったいどうなっているんだ?--


あらすじ:石牢から抜け出すために『爆宴の彷徨者』を使った。

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チチチチチチ。


遠くから聞こえる鳥の声に、もう少し寝ていたいと寝がえりをうつ。強烈な土の臭いに何やらゴワゴワとした感触が手に伝わってくる。


なめしていない毛皮なんて有ったっけか?


腕に当たった違和感に目を開くと、目の前にイッサラが居た。


「うわぁ!」


叫んで飛び起きるとイッサラも驚いて一目散に逃げて行った。


辺りを見回すと森の中の少し開けた場所にオレは居るようだ。うっそうと茂る木の間の柔らかくなった落ち葉に少しだけ日が差す場所、そんな所でオレは寝ていたようだ。


死肉を漁るイッサラは寝ていたオレをエサだと思って近づいてきたに違いない。オレの声にビビッて逃げてくれたから良かったものの、もう少し目を覚ますのが遅かったら美味しく頂かれていた所だ。パンツ1枚で。


って、体に虫がタカっているじゃないか!


チクショウ!どんだけ寝ていたんだよ。うわ、チクッと刺したぞ。


慌てて自分の体に水の魔法を連射して虫を落とすと、治癒の魔法を刺された場所にかける。たしか治癒の魔法は虫刺されにも効いたハズだ。普段は刺されないように風の魔法を使っているからよくわからない。


魔法のおかげで水でびしょびしょになったのは間違いないのだが。とにかく、すんでの所でイッサラのウンチにならなくて済んだようだ。まだ心臓がドキドキしている。


体の具合を確認した後に、もう一度、オレの居る森を(なが)めている。うっそうと茂る木々は密集していて、オレの寝ていた場所は光が差し込んでいるが、木々の間は薄暗くてジメッとしている。狩人が管理している森のこんなに奥に入った事はない。


不思議な事に『爆宴の彷徨者』を使う前の腹が痛くなるほどの強烈な飢えは治まっているし、魔力も元に戻っている気がする。街に転移した時はちぎれたハズの腕や足も治っていた。これも『爆宴の彷徨者』の効果かも知れない。


オレの『爆宴の彷徨者』は強力な治癒ができる上に、瞬間移動とか転移とかいうものが出来る『ギフト』で間違い無いようだ。前回は街で今回は森だったので間違いないだろう。


『英雄は死んでも不死鳥のごとく蘇り戦場に戻って行った。』


なるほど、死にそうな目に遭っても体を修復してどこか別の場所に飛ばす『ギフト』ならば、英雄の話にも説明が付く。こいつを使いこなせば敵の隙を突いた戦い方が出来るのかもしれないな。英雄はそうやって戦っていたに違いない。


転移なんて物語でしか聞いた事はないから、さすが英雄の『ギフト』と言える。


だが問題は、どうやって使いこなすかだ。


今まで2回、『爆宴の彷徨者』を使ったが、どちらも知らない場所に来てしまった。縁もゆかりもない場所に飛ばされて気を失っているのは非常にマズイ。


街で女に悲鳴を上げられるのはともかく、イッサラやもっと凶暴な肉食獣に襲われでもしたら『爆宴の彷徨者』を使う暇もなく死んでしまうかもしれない。いや、女に見つかるのも嫌だが。


それに、最大の問題はパンツだ。


いや、パンツも問題だけど服を着ていないって事が問題だ。おかげで街では女に悲鳴を浴びせられて追いかけられるはめになったし、さっきも素肌の上を無数の虫が歩いていた。今も血を吸う虫がオレの体の周りをぶんぶん飛んでいやがるから、風の魔法を体にまとわりつかせている。


どうやら、このパンツ以外のものを手に入れても『爆宴の彷徨者』で移動する時に持って来れないらしい。またパンツ1枚に逆戻りだ。


このパンツを英雄が愛用していた理由は、きっと『爆宴の彷徨者』を使っても一緒に転移して来るからだろう。


もしも、このパンツを村長のジジイに履かされていなかったら、街の女はオレのJrを見てさらに大きな悲鳴を上げていただろうし、街の大通りで大勢のヤツにJrを晒しながら走り抜けなければならなかっただろう。


考えただけで恐ろしい。


ジジイが言っていた『爆宴の彷徨者』を使う時にパンツが無ければ即死してしまうと言っていた意味は、転移した時に素っ裸になって気を失ってしまう事にあるんだろう。


オレには関係ない事だと思うのだが、もしもあの時、パンツを履いていないJrを見て街の女に大笑いされていたら、一生立ち直る事ができなかっただろう。もしかすると英雄は大笑いされたのかもしれない。


まぁ、Jrを見せつけて走るか女物のシミ付きパンツを晒しながら走るかの違いだが…女にJrを見られて笑われでもしたら、全員が顔見知りの村では生き辛くなるだろう。出歩くたびに女に「小さい」とか陰口をたたかれれば死ねる。


オレのはにかみ天使だった9歳のコピットに「ちいさい」と鼻で笑われたら死んでいただろう。


考えようによってはパンツの方がマシなのかもしれない。


どの道、『爆宴の彷徨者』を使った後の転移の先を決められれば問題は無いさ。転移した先に服を置いておけば解決する問題だからな。『爆宴の彷徨者』を英雄は使いこなせていたようだし、何か手段があるに違いない。


行商人や牢番でも『爆宴の彷徨者』の事を知っていたのだから、誰かに聞くのが手っ取り早いだろう。


とにかく人の居る場所に向かわなければならないな。そう思いながら風の魔法を強くしてうっとうしい虫を弾き飛ばしてやる。


で、どっちに行けば良いのだろう?


右を見ても左を見ても木しか見えない。


だいたいにして森は狩人達が管理しているから一般のヤツらは中々入る事が出来ない。


『森の呟き』系のギフトを持つ狩人が他の人間を立ち寄らせない。オレのオヤジの『土の聞き手』みたいに森の声が聞けるようになる『ギフト』らしく、森から恵みを貰えるようになる反面、一般人が荒らさないように森の奴隷になった狩人が目を光らせている。


だから普段は狩人が許可を出した森の浅い部分にしか入ることが出来なくて、ちょっとでも奥に入ろうものなら狩人のオヤジが目を光らせて探しに来るからだ。


ガキの頃イタズラで入った時には、いくら隠れても即座に見つけてくるオヤジがスゲー怖かった。森が隠れ場所を教えてくれたと後になって聞いたが、あの時の恐怖は今も忘れられない。


まぁ、そんな狩人が森には居るんだから迷子になっていても、そのうち見つけてくれるだろう。


それよりも、狩人が来る前に着るものの代わりになるものを探さないとマズイ。森の中でパンツ一枚の男を助けてくれる優しいヤツだったらいいが、オレの村の狩人だったら話も聞かずに弓を撃ってきそうで怖い。


それに、いつまでも無防備な肌をさらして居るのもイヤだし、何より恥ずかしい。街で不倫男の服を着た時の安心感はすごかった。


深い森に布の服があるとは思えないから、毛皮…なめすのに時間がかかってしまうか、大きめの葉でも探して少しは肌を隠せるようにしたいな。


ぐさり。


「いてぇ!」


腐葉土に隠れていた小さな木の枝を踏んでしまって脚の裏に突き刺さっている。足の裏に浄化の魔法をかけてから治癒の魔法をかけると傷が塞がった。魔法が無かったらどうなっていたのやら、考えるだけで怖いな。


大昔の聖女様や神官に感謝しなければならない。できれば今の状況にならないような魔法を神様から教わっていて欲しかったのだが。


とにかく服を探すためにも靴が欲しいな。森の中は思った以上に歩きにくい。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」


慎重に足元を確認して歩こうとすると、唐突に激しい痛みを感じた。


オレのJrにぶら下がっている大事な玉を激痛が襲う。


無様に地面を転がりながら大慌てでパンツを脱ごうとするが、パンツは膝から下に降りてはくれない。混乱しながら浄化と治癒の魔法をかけると少し痛みが治まったが完治してくれない。


チクショウ!


転がり回りながら玉の裏を見ると小さな虫がくっついていて、大きなアゴでオレの大事な玉を咥え込んでやがる。


オレが気を失っている隙にパンツにもぐりこんだんだな。チクショウ!


さっさとこんな虫なんか引っぺがしてやる!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!やめてくれ!判った。判ったから。それ以上咥えないでくれ!」


虫をはがそうとすると余計に挟む力が強まってしまう。とにかく治癒の魔法をかけ続ける。チクショウ!少しでも緩和させないと身動きが取れない。


振りほどこうと地面をのたうち回るが効果はない。ますます虫が咥え込む力が強くなってしまう。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」



オレは、また気を失った。



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次回:初めの1歩の前に『靴』作り。



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