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どうにかして『脱走』してやるんだ!

--どうにかして『脱走』してやるんだ!--


あらすじ:串肉を盗もうとして石牢に入れられた。

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オレは鉄格子に背を向けて丸まって寝たフリをして待つことにした。


他にやり様なんて思いつかねぇ。石でできた壁も床も手でどうこうできる硬さじゃないし鉄格子はもっと硬かった。まぁ、何とか出来るんだったら桶に悪臭をばらまいたヤツがとっくにやっているだろう。


寝たフリをしてしばらくすると灯りと共にコツコツと足音がしてきた。やっと誰か来たみたいだ。こっから先はオレの演技力にかかっている。オレには村で奴隷のように扱われていた時に(つちか)ったサボるための演技力が有るんだ。コロッと引っかかってくれるさ。


「おい、起きろ!」


オレの噂をしていた牢番の1人が呼びかけてくるが、起きてはやらない。


「おい!変態!!起きろって言ってんだよ!」


「は…腹が…。」


まあ、腹が減っているのは事実だ。痛いとは言っていないし、嘘は少ない方が信ぴょう性が出るんだ。まぁ、本当に腹が減って痛いんだがな。丸くなって腹を押さえる演技をする。


「ちっ。メシだ。置いておくぞ。」


どうやら、『ギフト』封じの首輪を持ってきたわけではなかったらしい。オレの姿を見て何かを置いたら、牢番は牢屋も開けずに出て行ってしまった。


もう少し病人に優しくしようぜ。特にオレに。


灯りが消えて牢番の気配が無くなったので振り返ってみると、木のトレイにパンとスープが乗っていた。ドアの横にトレイを入れられる窓が開いていてそこから差し入れてくれたようだ。


メシだ!


腹の虫が大騒ぎする。大合唱だ。結局、腹が減って盗もうとした串肉にはあとちょっとの所で手が届かなかった。あれからさらに時間が経っているのだし、オレの腹は痛いくらいに空いている。


しかし、ここでメシを食うべきなのか?


隣にクソの臭いのする木桶がある。この臭いの中で食欲が落ちているのもそうだが、食ってしまえば当然、出さなければならない(・・・・・・・・・・)


いつ牢番が通るかも判らないこの牢屋で。


それに、作戦としては腹が痛い病気のフリをして牢番が近づいてきたところで不意を突きたいのだ。いつものように治癒の魔法が使えれば腹痛なんてすぐに治せてしまうから思いつかないだろうが石牢では魔法が使えないのだ。


治癒の魔法が使えなくて困っているオレの腹を治そうとして近づいてきた所を襲う作戦なのだ。そんな病人がぺろりとメシを食ってしまって良いのだろうか?オレの牢屋に入れられたトレイが空になっていれば、牢番は当然オレが食ったと思うだろう。


腹が痛いはずのオレがメシを残さず平らげている。そこに違和感を覚えるだろう。


チクショウ!


パンから香ばしい匂いがしてくる。クソの臭いに負けない良い香りだ。


そして、スープを見ると具がたくさん入っている。さっき食い損ねたテテの肉にハンデの根とジャンケが大きく切って入ってゴロっと入っている。こちらも良い匂いがする。しかも、湯気が立っていてメチャクチャ美味そうだ。このスープには絶対香草が入っているよな。ちょっとイイ感じのドスの葉か何かだ。あの辛めの味付けがされていると食が進むんだ。


ぐ~ぐ~ぐ~!


ぐるぎゅるるる。


腹が痛いほど悲鳴を上げている。


いや、食ってから寝たふりをしていれば良いんじゃないか。


病人だって食わなければ死んでしまう。


いつもは治癒の魔法ですぐに治してしまうのだが、こういう時はどんな反応をするのが正解なのか?腹が痛いとは言っていないぞ。まだ食っても大丈夫なんじゃないか?


それに放って置いたら冷めてしまうだろう。もったいない。


いや、万が一にも牢番が怪しんでしまってはいけない。


ココはぐっとガマンするべきだ。


何より、逃げる事を優先させなければならない。


一時の誘惑に負けてチャンスを逃すわけにはいかない。


『ギフト』封じの首輪を着けられたら終わりなのだ。


ガマンするしかない。


ぐるぐるるるぐる。


腹が鳴る。


さっきと同じ場所に寝転んで目を閉じる。


クサイ臭いの中に良い香りがただよっている。


ダメだ。目を閉じると余計に鼻が鋭くなって、まぶたの裏にさっきのパンとスープどころか、盗り損ねた串肉や、いつも食べていたヨーナルやコータの実までが浮かんでくる。


チクショウ。


鼻をつまんでガマンする。腹減りの人間の前に美味そうなメシを置いておくなんてどんな拷問だよ。


一口くらい食べてもバレやしないんじゃないか?いやいや、一口食べたらガマンできる気がしないぞ。


すぐに、牢番が戻って来るさ。



ガマンできるさ。



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「なんだ、メシを食ってないのかよ。そんなに具合が悪いのか?」


永かった。


もう夜になっているんじゃないのか?すでにメシも冷たくなっているだろう。メシの良い香りは薄くなってクソの臭いだけが鼻につく。だが、オレは勝ったのだ。思った通りに牢番はオレの具合が悪いと勘違いしてくれている。


「もうちょっと待ってろ。首輪を付けたら治癒の魔法を使ってやる。」


やっぱり、『ギフト』封じの首輪を着けられるようだ。これを着けられたら終わりだ。眠ったフリをしているオレに男が牢屋のドアを開けて近づいてくる音がする。


もう少し、もう少し引き付けよう。


牢番は少なくとも2人いると考えた方が良いだろう。今近づいて来ている男と、コイツと話していた男だ。もしかするともっと居るかもしれない。戦いのコツとか全然知らないから、不意打ちでコイツだけでも仕留めておきたい。そうすれば、追ってくるヤツが一人減る。


男の手がオレの首にかかる。今だ!


ゴロンと転がりながら男の顔面を狙って拳を振るう。どんな動物だって鼻は確実に急所になっているし狙いやすい。


しゃがみ込んでオレに首輪をつけようとしていた牢番が鼻血を出して吹き飛ぶ。


っふふ。やったぜ。


「どうした?」


チッ、やっぱりもう1人居たか、走って来る音が聞こえる。声を出さなくて正解だったぜ。


壁の陰に隠れて近づいてくるのを待つ。出来るだけ近づかせて不意打ちを食らわせてやるんだ。


牢番と言えども、どんな『ギフト』を持っているか判ったもんじゃない。カジルの『緊縛の夢』みたいに搦め手(からめて)の『ギフト』や弓や飛礫(ツブテ)のような投擲(とうてき)武器の『ギフト』を持っているかも知れない。


「大丈夫か?」


走ってきた牢番からは死角になっている壁の影のおかげでヤツはまだオレに気づいていない。それに、オレに殴られた仲間の牢番に気を取られているようだ。


どがん!


オレが牢屋の扉を蹴とばすと上手いこと、扉の前に立っていた牢番を巻き込んで吹っ飛んでくれた。


鉄格子が鼻頭を打ってくれていれば儲けものだが、気にせず蹴とばした勢いのままに牢屋から飛び出した。


数十個ある牢屋の間を走る。どれもこれもクサイ。中に男が入っているのが見えたりするが気にしない。気にしたってオレには何もできない。とにかくオレが逃げる事が先決だ。


並ぶ牢屋を抜けると結解を抜けた感覚が有った。村の石垣や門の所でも味わったことのある薄い膜を通り抜けたような感覚だ。これで魔法や『ギフト』が使えるようになっただろうから、急いで浄化の魔法をかけてみる。


これでクサいのとはオサラバだ!


次に水の魔法で口を(うるお)す。美味そうなスープを我慢していたので喉がカラカラだ。


よし、イケるぞ!


扉が見える。あの扉を抜けたら外に違いない。


扉の取っ手に取り付いてひねって見ると鍵がかかっていやがる。当たり前だよな、そうそう簡単に牢屋を出られたら、みんな犯罪者になっているさ。辺りを見回しても他に道なんてない。


チクショウ!ここまで来て外に出られないのかよ!チクショウ!!


どうする?牢番達はすぐに復活して追いかけてくるはずだ。


辺りを見回しても何もない。石の廊下に牢番の部屋があるだけだ。もしかして牢番の部屋に鍵があるか?いや、オレだったら鍵を牢屋の内側に置いておかない。置いていても簡単に見つかるようにはしておかないだろう。


「大丈夫か?」


「オレの事は良い。さっさとアイツを取り押さえろ!」


オレの居た石牢から牢番の声が聞こえる。マズイ。すぐに追いつかれてしまうぞ。


チクショウ!最後の手段だ。


使ったらどうなるのかよくわからないが、オレの『ギフト』が封じられる前に使わなければ首輪をつけられて奴隷とか強制労働とかさせられてしまう。



オレは『爆宴の彷徨者』を発動させた。



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次回:街の次は『森』に居た。いったいどうなっているんだ?




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