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服が手に入れば『大通り』を歩けるぜ。

--服が手に入れば『大通り』を歩けるぜ。--


あらすじ:出歯亀しようとしたら2階から落ちた。

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「なんだ、今の音は?」


男の声がする。


マズイ。この服は多分あの男の物だろう。女とイチャイチャしていた、あの部屋の住人だ。嫁とは思えなかった不倫でも楽しんでいたのだろう。


さっきまで男と女の営みを覗こうとして上気していたオレの頬が一気に冷めていくのが判る。早く逃げないと!ちょうど良いことに落ちた拍子にJrも元気を無くしているから、強く打ち付けた背中に手早く治癒の魔法をかけると、その場を後にした。


見つかれば、また追手が出来てしまうかもしれない。走り回ってクタクタなんだから、これ以上逃げるのは勘弁してもらいたい。さっさと安全な場所を探して盗んだ服を着てしまおう。そうすれば普通に歩いていても追われなくなるに違いない。


オレの村じゃ全員が顔見知りだったから知らない奴が歩いていれば噂になったが、これだけ大きな街では見知らぬ人が歩いている事は普通だと行商人のオヤジが言っていた。1人くらい知らないやるが増えても問題ないだろう。


オレに『爆宴の彷徨者』の『ギフト』の話を教えてくれた商人だからイマイチ信用ならないが、これだけ大勢の人数の顔を覚えるなんて難しい話だろう。たぶん何とかなるさ。


さらに辻を2つ3つばかり曲がってもう一度小さな路地に入りなおすと、盗んだ男物の服を着た。少しばかり大きくて湿っていて気持ち悪いが、先ほどまでの開放感あふれるパンツ1枚の姿より断然良い。


盗んだ服にはオシャレな刺繍が入っている。さすが不倫男の持ちモノだ。


手足の裾を折って長さを調整しなければならない。チクショウ。オレだって背が高ければそれだけでモテただろうさ。オレだって嫌われていなければ、もう少しモテる努力をしていたかもしれない。まぁ、オヤジだって足が短かったのだからしょうがない。


靴も履くとぶかぶかだったから紐を外して足首でぐるぐる巻きにしてやる。どれだけ押さえても空間が空いてしまって歩くたびに、かぽかぽ音がするが、今は贅沢を言っていられない。不倫男の服を着ると今まで素肌を()でていた風が当たらなくなって、やっと落ち着くことが出来た。


服を着れるって事はとても安心感が有るんだな。


誰かにパンツを見られる危険もない。追いかけられる心配もない。Jrがちょびっと大きくなってもバレる心配もない。


思い返してみれば、少々(たの)しかった気もするが…女がキャーキャー騒いでたしな。いや、自分から危険に巻き込まれていくのは止そう。他人の情事に気を取られて落下するなんて無様も良い所だ。


ぐうぅぅぅ。


安心したからか腹の虫が鳴いた。ずっと走り続けていてクタクタだったし眠気も出てきた。チクショウ。パンツしか無いから、金なんて持っているワケが無い。パンツの裏に小銭入れなんて付いてるわけが無い。


とりあえず、安全な寝床とメシが欲しいが、いくら走っても見覚えがある場所なんて無かった。それどころか見た事もない大きな通りが有ったのだ。ここはオレの知ってる村じゃないし収穫した野菜を売りに行ったことのある街でもなさそうだ。


なにか金を作れる手段が有れば良いが、売れるものは村長が無理やり履かせたパンツと盗んだ服しかない。これを売ってしまったら裸になってしまうので、また逃げ回る事になってしまう。


やはり、金も食い物も盗むしかないのか?まぁ、服も盗んだし今さら考えてもしょうがない。


とりあえず大通りに出よう。この街がどんな所かも知っておきたい。元の村に帰れるかも判らないから、どこかで仕事に有り付けなければ野垂れ死にの未来しか見えない。いや、元の村に戻るなんて、オレを魔獣の群れに突き落とすような悪魔の群れに帰るなんて考えたくもないな。


どうにかして、この街で生きていかなきゃならない。


それに、『爆宴の彷徨者』の影響だろうが、何が起きたのか、なぜこの街に来たのかも調べなければならないだろう。村に来る行商人が知っていたんだ。これだけ人がいれば誰か知っているかも知れない。


人のザワメキが聞こえてきて肉を焼く良い匂いがしてきた。香辛料も使っているのかもしれない。人影が見えるから、この路地を抜ければまた大通りが有りそうだ。


かぽかぽ音がする靴を引きずって路地を抜けるとオレは大通りに出た。


目の前に異世界が広がっているように見える。敷き詰められた石畳の上を何百人もの人間が歩いていて、村では見ないようなオシャレな馬車が走っている。あの馬車ならキーキーいう音に悩まされなくて済むだろう。オレの村にはこんなに舗装された道路なんて無かった。


大きな窓辺には花が飾られていたり色々な装飾品が見える。オレの村には窓辺にはボコが干物にするために干されているから少し腐った匂いがしているのさ。


大きな通りには何十件もの商店が看板を上げている。オレの村には商店なんて1件しか無くて大体は物々交換で手に入れていた。オレは奴隷みたいに扱われていたから物々交換だと良い物を手に入れられる順番がなかなか回って来なかったんだ。


それでも、その輪に混ざれなければ高い行商人と交渉するしかないから、輪から離れるわけにはいかなかった。


歩く人すべてが泥の付いていないオシャレな服を着ている。オシャレな帽子をかぶっているヤツまで居る。さっきまでは逃げる事に一生懸命だったけど、こうして落ち着いて見ると本当に別世界に来たようだった。


何より、屋台がいくつか出ていてオレの腹に効く。さっきから腹の虫の大合唱が収まらない。


金なんて無いから、食い物もどこか良い所を見繕(みつくろ)って盗まねばならないだろう。素知らぬ顔をして大通りを物色して歩くが、かぽかぽ音がするのを気にしてはいけない。誰もが気にしないで歩いているんだ。何とかなるさ。


しばらく大通りを歩いていると良い店を見つけた。


大きめの串肉を焼いて売っている。


何より場所が良い。高い家と家の間の小さな路地が、店の後ろにあってオヤジが1人で切り盛りしている。店の後ろの路地から近づけばオヤジに見つからずに盗めるかもしれない。


それに、美味そうな匂いがする。



あの店にしよう。



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次回:『串焼き屋』で腹ごしらえをしよう。



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