1.外国人の知人はいません
「ピンポーン」
休日にベットで寝っ転がり、くつろいでいると、突然チャイムが鳴った。
あー?どうせ新聞の勧誘だろ?無視無視。
と、続けざまに連打されるピンポン。カレンダーを見、慌てて寝巻きを脱ぎ捨てる。
今月ももうあの時期か…
「ちょっと!杉山さん!いるんでしょ!」
「ちょ、今出るんで待ってください!」
ドンドンと扉を叩かれ、超特急で玄関へ走る。
「すみません、あの〜今月も家賃…」
『こんにちは!』
そこに居たのは、
やっと出てきたね〜と腰に手を当て悪態をつく大家さんーーと黒い布を被った女性。
女性にニコニコしながら会釈され、こちらも反射的に頭を下げながら呟く。
「いや、誰?」
■■押しかけ女房は石油王の娘!■■
『やはり覚えてらっしゃらないのですね』
目に見えて落ち込む女性に、大家のおばちゃんが優しく肩を叩く。
…おばちゃん、クラスの女子が男に泣かされた時の女委員長みたいな顔で睨むのはやめてくれ。
「うーん」
もう一度よく見てみるが、全く見覚えがない。
てか自分でいうのもなんだが、悲しいかな、俺には女子の知り合いなんていないし、ましてや外国人なんてもっと関わったことがない。
これ、テレビとかでしか見たことないけど中東の女性の服だよな?確か、ヘジャブ…だっけか?
「えーと、すみません。どなたでしたっけ」
苦笑いしながらそう言った後に、直球すぎたかと後悔するが、時すでに遅し。まあでも本当に分からないんだからしょうがない。
『私、マリヘフ・ベント・サウード・ベン・ハリル・ベン・アブドゥルと申します』
一呼吸置いて、彼女が問いに答えた。そのままぺこりとお辞儀する。
ーーいや、名前のインパクト!!長すぎない?!
思わず口から出かかった言葉を呑み込む。
こんな名前の人、知り合ってたら絶対忘れるわけない。やっぱ自分正しいわ!
「ごめんなさい。人違いだと思います。そんな名前の方は知り合いにいないので」
ていうかずっと不思議だったんだが、
「なんで筆談で会話されてるんですか?日本語理解されてるっぽいし、たぶん喋れるんですよね?」
そう、彼女はこれまで一言も発することなく、お絵かき帳にサインペンで書いて会話している。もう会うことはないだろうが、これだけは最後に聞いておきたい。気になって夜も、いや夜は寝れるけどしょうがない。
「えーっと、何でだっけ?」
おばちゃんが隣のマリ、えーとマリヘフなんちゃらさんに問いかける。マリヘフは先程まで同様、ペンを握りしめーー
「それはですね…」
口を開いた。
「いや、喋れるんかい!」
杉山はずっこけた。