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空想童話集

三羽の鳥

作者: 夏野ゆき

三羽の鳥と少女


 むかしむかし、あるところに心優しく、はたらき者の少女がおりました。

 少女は木こりの父と母親と三人で貧しくも楽しい生活をしていましたが、あるひどく冷え込んだ冬の日に少女は母親を病気でなくしてしまいました。

 木こりの父はそれをとても悲しみ、ある日いつものとおり山に行くと、そのままいなくなってしまいました。

 少女はお父さんが好きだったスープを作って帰りを待ちましたが、太陽がとっぷりとくれても、にわとりが朝日に鳴いても、少女は家にひとりぼっちだったのです。

 温かいスープがすっかり冷えてしまっても、木こりの父は帰っては来ませんでした。


 少女は一人になってしまったのをたいそう悲しく思いましたが、幸せを見つけに旅に出ることにしたのでした。

 お母さんが作ってくれたかばんには、お気に入りのお菓子、お裁縫箱さいほうばこ、お父さんがくれた毛糸の襟巻きをつめて。


 旅に出る前に、少女は森にすむというかしこ魔女まじょに会いにいくことにしました。長い旅になるのです。賢い魔女の助言を聞いて、楽しい旅にしようと考えたのでした。


 初めて入った森のなかは木が鬱蒼うっそうと生いしげり、お日さまの光もとどきません。じめじめとした空気のなか、こけをふんで足を滑らせたりしながら、少女はやっと魔女の家へとたどり着きました。


「なかへお入り」


 少女が魔女の家の扉を叩く前に、魔女が扉の向こうから少女を招きます。少女はそれにおどろきながらも、魔女の言うとおりに家に入ります。


とおいところからよくきたね。そして、どこへ行くのかね」

「旅に出るのです。幸せを見つける旅に」

「そうかい。それなら三羽の鳥を連れていきなさい。一羽目は私からおくろうね」


 魔女は美しく、賢そうなたかを少女へ贈ります。少女が鷹をでると、鷹はうれしそうに少女に向かって鳴くのでした。


「残りは旅の間に見つけなさい。何があっても、誰にでも親切にするんだよ」


 そうすればきっとおまえを幸せにみちびいてくれるだろう、と魔女はやさしく笑います。少女はそれにうなずいて、旅をしながら鳥を探すことにしました。


 少女は鷹をつれて森をこえ、山を歩きます。

 山を歩いていると、怪我をした一羽のモズに出会いました。


「おじょうさん、お嬢さん。ぼくを助けてはくれませんか。狼と仲よくしていたら、よってたかって殴られたんです」


 つばさを怪我したモズは少女をみながら、きいきいと鳴きます。かわいそうに、翼はいまにもちぎれてしまいそうです。これは大変、と少女はモズを助けてやることにしました。


「お嬢さん、お嬢さん。お裁縫道具を持っているでしょう。それでぼくの翼をい合わせてくれませんか」

「わかったわ」


 少女は丁寧ていねいにモズの翼を縫い合わせてやりました。翼が治ったのを見たモズは嬉しそうにきいきい鳴くと、「お嬢さんは何をしているのですか」とたずねます。少女が「幸せに見つけに旅をしているの」と答えると、モズは少し考えてからこう言いました。


「お嬢さん、お嬢さん。ぼくをつれていってはくれませんか」

「わかったわ」


 少女はひとつ頷いて、モズもつれていくことにしました。


 少女は鷹とモズをつれて山をこえ、町を歩きます。

 町を歩いていると、お腹をすかせた一羽のふくろうに出会いました。


「お嬢さん、お嬢さん。わたくしを助けてはくれませんか。大切にしていたりんごを、食べる前にうばわれてしまったのです」


 お腹をすかせたふくろうは少女をみながら、ほうほうと鳴きます。かわいそうに、ふくろうは今にも空腹くうふくたおれてしまいそうです。これは大変、と少女はふくろうを助けてやることにしました。


「お嬢さん、お嬢さん。美味おいしそうなお菓子を持っているでしょう。それを少し、わたくしに分けてはくれませんか」

「わかったわ」


 少女は鞄からお菓子を出して、いくつかふくろうにやりました。お菓子を食べたふくろうは美味しそうにほうほう鳴くと、「お嬢さんは何をしているのですか」とたずねます。少女が「幸せに見つけに旅をしているの」と答えると、ふくろうは少し考えてからこう言いました。


「お嬢さん、お嬢さん。わたくしをつれていってはくれませんか」

「わかったわ」


 少女はひとつ頷いて、ふくろうもつれていくことにしました。


 少女は鷹とモズとふくろうをつれて町をこえ、とある国へとやって来ました。


 少女が道を歩いていると、ひとりの男の子が泣きながらやって来ます。


「あらあら、かわいそうに。何かあったの」


 泣いている男の子に少女が声をかければ、男の子は「畑が荒らされているんだ」と答えました。


「虫が畑を荒らしているんだ。せっかく家族で小麦を育てていたのに」

「まあ、なんてこと」


 少女が驚けば、モズがきいきいと鳴き始めます。


「お嬢さん、お嬢さん、お裁縫道具を持っているでしょう。それをぼくに貸してはくれませんか。ぼくが虫をやっつけてきましょう」

「モズさん、モズさん。大丈夫なの?」

「モズは突き刺すのなら得意です。針を使えば虫なんてあっという間ですよ」


 モズは得意気に胸を張ります。少女もそれに頷いて、「それでは、ここでさよならね」と言いました。


「いいえ、さよならではありません」


 いつか恩を返しに参ります、とモズは言うと、男の子をつれて虫を退治しにいってしまいました。


 少女は鷹とふくろうをつれて、まだまだ旅を続けます。

 道を歩いていると、ひとりのおばあさんが困ったように立ち尽くしていました。


「あらあら、どうしたんです。こんなところで」


 困ったようすのおばあさんに少女が話しかければ、おばあさんは「おもてなしの準備が出来ていないのよ」と答えました。


「おもてなしの美味しい食べ物が用意できていないの。いなくなった王子様を探しに、明日には大臣が来てしまうのに」

「まあ、なんてこと」


 少女が驚けば、ふくろうがほうほうと鳴き始めます。


「お嬢さん、お嬢さん。美味しいお菓子を持っていたでしょう。あれをまた少し、わたくしにくれませんか。材料を突き止めて、きっとあのお菓子をもっと作ってみせましょう」

「ふくろうさん、ふくろうさん。大丈夫なの?」

「ふくろうは賢いのです。材料がわかれば、おもてなしに十分なものを必ず作りましょう」


 ふくろうは得意気に胸を張ります。少女もそれに頷いて、「それでは、ここでさよならね」と言いました。


「いいえ、さよならではありません」


 いつか恩を返しに参ります、とふくろうは言うと、おばあさんをつれてお菓子を作りにいってしまいました。


 少女は鷹をつれて、まだまだ旅を続けます。

 道を歩いていると、ひとりの男が少女と鷹をじっと見つめてきました。何やら薄汚れた服に目付きの悪い顔でしたが、少女は親切に声をかけます。


「あらあら、そんなに見つめて。何かありましたか」


 じっと見つめてくる男に少女が話しかければ、男は「その鷹を借りたくて」と答えました。


「鷹を借りたいんですよ。ネズミが多くて、猫ではどうも捕りきれない」

「まあ、なんてこと」


 少女が驚いても、鷹は鳴き声ひとつあげません。

 賢い鷹は、この目付きの悪い男がなにか怪しいことをたくらんでいると見抜いていたのです。

 ですが、そんなことを知るはずもない男は少女にこう言いました。


「お嬢さん、お嬢さん。その賢そうな鷹を俺に貸してはもらえないだろうか」

「わかったわ」


 魔女から贈られた賢くて美しい鷹。

 この鷹を人に貸して良いものか少女は悩みましたが、何があっても、誰にでも親切にするように、という魔女の言葉を思いだし、少女は男に鷹を貸すことにしました。


 少女が男に鷹を引き渡そうとすると、鷹がこっそり鳴き始めます。男には聞こえないような小さな声で、鷹は少女にこう言うのでした。


「お嬢さん、お嬢さん。その毛糸の襟巻きをほどいて、私の足に結んでください」

「あら、どうして?」

「そうしたら、いつでもあなたを助けに行けるから。あなたが三度その毛糸を引いたとき、私はあなたを助けに参りましょう」

「わかったわ」


 少女はいそいで襟巻きをほどき、毛糸のはしを鷹の足にくくりつけました。毛糸がしっかりくくりつけられているのに鷹は頷いて、男の頭上を飛び回ります。鷹が肩に止まろうともしないのに男は不満なようでした。


「それでは、ここでさよならね」


 少女の言葉に鷹は何も返しません。

 ただ、やさしく少女を見返すだけでした。


 少女は一人ぼっちになりましたが、まだまだ旅を続けます。鞄のなかのお菓子がなくなってご飯が食べられなくても、お裁縫道具がなくなって破れた靴や服を縫えなくなっても、ひたすらに歩き続けました。


 日が暮れて、少女はどこかで夜をすごそう、と決めました。ちょうど、使われていない古びた教会を見つけたのでそこで眠ることにしたのです。


 少女が教会の床で眠っていれば、あの目付きの悪い男が教会に入ってきました。男は少女の持っている鞄を奪うつもりだったのです。そして、その鞄を奪うためにはあの鷹は邪魔じゃまでした。

 ねずみを狩るために借りたふりをして、邪魔な鷹は適当なところで放してしまい、男はこっそりと少女のあとをつけて教会まで来ていたのです。


 少女はすやすやと眠っていましたが、男の足音のうるさいのに目を覚まし、恐ろしさにがたがたとふるえました。


「どうか、どうか。お助けください」

「助けてなどやるものか!」


 目付きの悪い恐ろしい男は笑いながらそういうと、少女の鞄を奪おうとします。

 少女は祈りながら、襟巻きをほどいた毛糸を一回引きました。

 すると、教会のなかにモズがひらりと飛び込んできました。


「悪者め。こうしてやる」


 モズは針を携えて、目付きの悪い男を散々につつきます。痛い、痛いと男はのたうち回りながらも、少女の鞄を諦めようとはしません。


「どうか、どうか、お助けください」

「助けてなどやるものか!」


 目付きの悪い恐ろしい男は、モズに刺されながらも少女の鞄を奪おうとします。

 少女は祈りながら、襟巻きをほどいた毛糸をもう一度引きました。

 すると、教会のなかにふくろうがひらりと飛び込んできました。


「悪者め。こうしてやる」


 ふくろうは持っていた小麦粉を目付きの悪い男にふりかけます。苦しい、苦しいと男はむせながらも、少女の鞄を諦めようとはしません。


「ああ! どうか、どうか、お助けください」

「誰が助けてやるものか!」


 目付きの悪い恐ろしい男は、小麦粉にむせながらも少女の鞄を奪おうとします。

 少女は祈りながら、襟巻きをほどいた毛糸をもう一度引きました。

 すると、教会のなかに鷹がひらりと飛び込んできました。


「悪者め! こうしてやる」


 鷹はまるでねずみを掴むかのように男を掴むと、そのまま教会から出ていってしまいます。

 空高く飛んだ鷹に震え上がり、男は命乞いをしました。


「ああ! どうか、どうか、お助けください」

「誰が助けてやるものか」


 鷹は高く飛んだまま、男を放します。

 男は地面にぶつかって、そのまま動かなくなりました。


 三羽の鳥は少女のそばに舞い降りて、「悪者をやっつけましたよ」と嬉しそうに鳴くのでした。


「鳥さんたち、どうもありがとう」


 少女が鳥たちを抱き締めれば、鷹の姿がひとりの青年へと変わります。


「ああ、やっと元に戻れた。実は、昔に悪い魔法使いに呪いをかけられてしまったのです」


 おばあさんの言っていた「いなくなった王子様」とは、実は鷹のことだったのです。

 少女はとても驚きましたが、王子様は少女への感謝でいっぱいになっていました。


「お嬢さん、お嬢さん。あなたほど心のきれいなひとを私は知りません。どうか、これからもずっと一緒にいてくれないでしょうか」



 はたらき者の優しい少女はこうして、三羽の鳥と共に旅をして幸せを見つけました。

 たまにお裁縫をして、美味しいお菓子を食べて。とある国のお妃さまとなった少女は、それからずっと幸せに暮らしたということです。



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