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 放課後の職員室前廊下に生徒が来ないのは、この学校が部活動に力を入れているから、というのもあるかもしれないが、目当ての先生が職員室にいないことが多いからだろう。特別教室の準備室とか、教官室、指導室、資料室に小会議室など。それぞれ居場所を定めている先生は多く、休み時間や放課後にはたいていそこにいる。


「ひま?」


「茉莉? うん? お前、帰ったんじゃないのか」


「また来た」


 梅影先生なら、図書館棟のとある資料室。ドアを閉めて、鍵もかける。梅影先生が怪訝そうに見るが、ああそうか、雨の中を歩いたからびしょ濡れなんだった。


「何かあったのか」


「覚えてないでーす」


「おいこら」


 びしょ濡れのまま、座っている梅影先生の膝の上に座る。抗議が聞こえたけど無視。おなかたるんでる、メタボめ。

 昔は、出会った頃は、こんな風になるとは思わなかった。鬱陶しくて邪魔なおじさん、ほんのり淡い初恋は、優しすぎて溢れて冷えた。反動で嫌い嫌い嫌いって。今はたぶん嫌いじゃない。


 首に腕を回す。


「寒い」


「だろうな」


「帰りたくない」


「ふられたか」


「は? 何のこと?」


 あー心当たりがなさすぎて殺したくなってくるなー。軽く喉仏の少し上あたりを絞めると、やめろと言うように背中を叩かれる。

 十秒くらいためてから解放すると、梅影先生はわざとらしいくらい咳き込んだ。それから眼鏡の位置を直して、何もなかったような顔に戻って問う。


「で、何だ? 進路相談か?」


「進路か。私って進学するんですよね。どこ受験するの?」


「おとなしくエスカレーターに乗ってろ。教員の資格さえ取るなら学部学科は好きにすればいい」


「私、先生になるの?」


「無いよりはあるほうがいいってだけだが。この学園の職員のうち一割はこっちの関係者だ」


「ふーん」


 警察官や自衛官が常駐しているようなものか。そういえばこの学校、警備員がいなくて不思議だとは思っていた……こともないな。万が一にテロリストが来たら、派手に無双するか、こっそり排除するのだろうか。冴えない教師が実は、みたいな映画みたいに。

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