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「何の用だ?」
入ろうと思いながら出していなかったこたつを引っ張り出して、潜り込んで、梅影先生を呼んだ。三十分も待たず、鍵を開けずに入ってきた先生はこたつに一直線。冷たい足が侵略してくる。
「冷たい」
「蹴るな」
「出ていって」
「お前が呼んだんだろうが」
蹴りを繰り返すと冷たい足はこたつから出ていった。
「佐久良の試験は終わった。お前から姉のかたきを聞き出したからな。クリアだ」
「あっそ」
「元は軍部の調査だったんだが、そっちは失敗だ」
「私に漏らしたから?」
「まあな」
少し冷静になってみても、さくらさんの考えていることはさっぱりわからなかった。もしかしたら、さくらさんも同じように私のことを思ったのかもしれない。
バカらしい。バカみたいじゃないか。人なんか信じていない、誰も信じないと思ってすぐの頭で。信じているのだ。私は私がさくらさんを好きだと。さくらさんが私を好きだと。何も嘘なんかじゃなくて、すべて空虚なんかじゃないと。信じている。いや、信じたいのか。
「どうして、さくらさんのお姉さんを殺すよう言ったの?」
「佐久良にとって邪魔だったからだ。弱点になりうる。あいつはお前ほど、あー、」
「冷たくない」
「まあ、そうだ」
梅影先生の言う通り、私は、家族を人質に取られても構わないだろう。家族は大事で、殺したくないとも思うが、弱点にはならない。家族も、友だちも、先生も、さくらさんも、必要なら切り捨てるだろう。割り切るというか、まず悩まない、葛藤がない。結局、私は私が一番大切だから。
「じゃあ、お姉さんに頼まれたわけじゃないんですね」
「ああ、そういえば自殺志願者だったらしいな」
「先生、私ってかわいそう?」
「そう言われたのか?」
冷たい足がこたつの中で伸ばされる。邪魔だと蹴りつつ、場所を少し譲ってあげる。
「そうだな。お前はかわいそうだよ。周りの誰のことも自分と同じだなんて思ったことがない、永遠の孤独の中に生きてる」
「……私と同じ人間なんて、いるわけない。人はそれぞれ違うのに。誰も同じなんかじゃない」
「ああ、そうだな」
いけないことのような、私がおかしいみたいな言いかた。私が思いもしないことを勝手にかわいそうだなんて言う。梅影先生の弱点、足の裏をくすぐってやった。
「くっ……いつまでもあると思うな昔の弱み……!」
「なんだと……!」
こたつから抜け出してしばらくじゃれてから、何してんの自分と冷めて、こたつに戻った。梅影先生がちょっと嬉しそうなのがまた腹立たしい。反抗期が終わった娘を見るような目はやめて。お腹あたりに蹴りを入れた。やっぱ死ね。