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鍋の中身が無くなって、お腹がいっぱいになる。締めに米まではさすがに食べ過ぎだった。それにしても、新しく買ったこの土鍋はどう処分すればいいのだろう。
後片付けをはじめたさくらさんの背中を、ベッドの上であぐらをかいた姿勢で眺める。さくらさんは嘘をつかない、なら。
「さくらさんが来たとき、玄関で私と一緒にいた先生のこと」
「ああ、梅影さん?」
「知ってる?」
「ああ。あなたに言うのもなんだが、協力してくれた宮内部の人というのは彼だ。元は司法部にいた人で、たしか数年前だったか」
「だよね」
知っていたわけではなく今はじめて聞いたことだが、しっくりきた。梅影先生と出会ったきっかけを考えると、もっと早く気づけたはずだった。とはいえ、なんとか部なんとか部なんてのは知らなかったし、梅影先生の弱点ならともかく素性には興味ない。
「何か言われた?」
「ううん、そうじゃない」
思った通りだ。さくらさんの言う軍部の暗殺機関は、私とは関係ない。私の、ひいては梅影先生の立ち位置は、宮内部だろう。
「さくらさん口固い?」
「一応ね」
「レディって、たとえば軍部で呼ぶと思う?」
「うん? 軍部ならマダムのほうがそれらしい気もするが、言うときは言うんじゃないか?」
「イエス・マム的な」
「そうそれ。レディの称号なら、宮内部のほうが――」
さくらさんが言葉を途切れさせた。手を止めて、水道も止めて、私を振り向いた。
指をさす。
「レディ・グレイ?」
「私が跡を継ぐらしい」
さくらさんの眉間にしわが寄る。その濡れた手から腕を伝って、滴が床に落ちた。




