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誰かと手を繋いで歩くなんて、いつぶりのことだろう。お父さんかお母さんか妹か、誰にしてもきっとずいぶん前のことだ。
「さくらさんは手が冷たい」
「なら心はあったかい?」
「うーん……でも、さくらさんは、嘘は吐かなかったもの」
さくらさんは返事をしなかった。繋ぐ手が強く握られたような、気がするような、ほんの些細な変化だけが感じられた。
「どこへ行くの?」
「何も考えてない、適当に歩いてる。どこか行きたい?」
「さくらさんの家とか? ちょっと気になるかも」
さくらさんは眉間にしわを寄せて思案するように宙を見た。
「俺の家は……散らかってるからな。そう、人をあげられる状態じゃないよ、あれは。特に、あなたみたいなきれい好きは」
「きれい好きじゃないよ?」
「表も裏も陰もきっちり掃除してあるのに?」
「自分が生活する空間は、気持ち悪いから。それ以外はとくに気にしてないんです。さくらさんの部屋の綺麗さはどうでもいい」
「うん、と……それは遠回しにあなたには興味がないと言われているのかな?」
「さくらさんの家に私が住むなら、気になる」
「ああ、そういうことね」
私は掃除をするし、さくらさんはごはんが美味しい。一緒に住むなら、ちょうどいい役割分担ではないか。と、考えたのだが、口にできなかった。機会を逃したような気がして封印する。それに、洗濯係が足りない。
「どこに行こう?」
「どこへ行きたいですか?」
「……あなたを、めちゃくちゃにできるような場所」
「殺したい?」
「たぶん、まだ少し」
「いいよ。好きにしても」
足を止めて、さくらさんは戸惑ったようだった。前にも同じことを言った。遠い昔のような気さえするが、さくらさんと出会ってから、まだ一週間も経たない。
「本当に?」
「本当に」
はてなの多い会話だと笑みが浮かぶ。でもそれは、お互いのことを知りたいと、聞きたいと、思うからだ。確かめあって、探りあって、そばにいるためだ。