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「薄情だよな」
バラの茎を足元に放り捨てて、さくらさんが呟く。自らを嘲笑うような声音で続ける。
「君を殺したいのに、君を抱きたい。心臓を抉り取って潰してやりたいのに、心が欲しい」
「それ多情なんですよ」
「多情?」
「お姉さんも好き、私も好き、他にも色んなものが好き?」
「ああ、そうか。ここにある以上は、矛盾しないわけだ」
小学生の集まる夕方の公園で、スーツ姿の男が、制服の女子高生に抱き締められて、すがり付いている。先生、どうやら世界を外から見ているように考えてしまうのは、私のほうだ。
「私、さくらさんのこと好きですよ。ごはん美味しいし」
「本当に、美しい目だ」
体を離して、さくらさんは私の頬を下から上へ撫でた。そのまま指が瞼をなぞり、眼球に触れた。まばたきしても触れたまま。
「君が何をどこまで知っているか、私は知らない。私は司法部の一員として、軍部の暗殺機関を探っている。宮内部の協力者によって、君と出会った。いいか? 君に指示を出す人間がいるなら、今すぐにでも離れるんだ」
頷けなかった。ただ素直に頷いて、さくらさんに着いていけばいいだけなのに。さくらさんの言葉が嘘でないことくらいは、私にも判別できるのに。
なんかややこしいことになったぞ。さくらさんが言うには、梅影先生が敵で、おそらく鏡先生が味方。性に合わない。敵味方で分けようとすることが間違っている。梅影先生が嘘つきであることなんて、ずっと前から知っている。