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校門を出て、左右を確認する。さくらさんはいない。私にくっついて見張るのが仕事なら、いたっていいと思ったのだが残念。
見上げれば曇り空。傘はあるが、雨のにおいはしない。
なんとなく、きっとあの日と似た肌寒さだったから、ロケット公園に足を向けた。ロケットみたいな遊具があるから近所の子はみんなそう呼んでいる、と私に話したのも、彼女だった。佐久良美空。
学校からは十分ほど歩けば着いた。家からなら、五分ほどか。公園には、小学生くらいの子どもたちの高い声が溢れていた。ここで殺人事件があったことも忘れ去られてしまったような。
佐久良美空が横たわっていたベンチに腰かける。このベンチが取り替えられていないことも、幽霊が出る噂すら聞かないことも、ここに血だまりが染み込んだことも、彼女はどう思うだろうか。
「……自分の血が残っていくなんて考えたくもない、か」
佐久良美空はそう言った。答えは今もわかりきっている。
なぜ、子どもなんか作ったのだろう。不慮の事態で出来てしまったのだろうか。私なら、子どもを生むための機能を、可能性を排除しておく。
「一人で何してるんだ?」
「それ職質?」
「俺はお巡りさんじゃないよ」
「そっか」
振り向いたところにさくらさんが立っていて、その手には暗く赤いバラの花が一本。
「きれいだね」
「そうか?」
「彼女のケータイの待ち受け、その花の写真でした」
「……そう、だったな」
さくらさんは声を詰まらせながら返して、私の隣に腰を下ろした。バラの花を握って、砕くように、花びらをばらまいた。顎が星のように尖っていて、痛そう。
「姉のことは、怒ってはいない。でなければあなたに平然と近づくことも、にこやかに話しかけることもできないだろう」
ぽつりとさくらさんは言った。ほのかに赤い茎をペンでやるようにくるくる回す。まっすぐの棒ではないから、あまりうまくはいかないが、取り落とすことなく。
「どうせあの人は、放っておいてもそのうち勝手に一人で死んでいた。むしろあなたを手段として、おかげで苦しまない死に方ができたのかもしれない」
苦しまない死に方。凶器も違い、証拠もないのに、連続殺人であると言われている理由だ。一撃で即死させたあとに死体を損壊する、その手口が似ていると。
外側から世界を観るような冷めたやつ、か。梅影先生はああ言っていたが、さくらさんは違う気がする。地面に散らばったバラの花びらを見る目は、冷めてなどいない。風に流れつま先に触れそうになった花びらを避ける。
「寒いって言ったら、抱き締めてあげてもいいですよ」
私が言うと、さくらさんは吹き出すように笑った。冷めているわけじゃない。憎しみの火も消えてなんかいない。さくらさんは、私を許してなどいない。
「そうだ。寒いよ」
半身浮かせて、両手を伸ばして、腕を首に絡めて抱き締めた。