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「それで呼んだのか」


「うん。先生それ食べて」


「構わないが、それより服を着ろ、服を。暖房もつけてないのに、見てるだけで寒いぞ」


「はあ……」


 ベッドに上がって毛布にくるまり、頭だけ出して梅影先生を眺める。先生は散らかった私の制服を拾ってハンガーにかけてから、冷めた食事をあたためた。


「少し食べるか?」


「先生が毒味してから考える」


「怪しいのか?」


「どうかな」


 怪しいのかなんて聞きながら、まったく気にした様子もなく、先生は味見をしている。……死なない。さくらさんは食べられるものを作ってくれたようだ。


 食べるものもらったからあげる、という私の呼び出しに、梅影先生は素早く応じた。私に殺されるとは微塵も思っていない余裕な感じがすごくイラつく。


 毛布に潜った。


「うまいぞ」


「あっそ」


「食べろよ、茉莉」


「死ね」


「一口も食べずに、感想を聞かれたらどうするんだ」


「美味しかったって言う」


 たしかにそれで十分だと納得したのか、先生は食事に戻った。


 先生は静かだ。家では何でもない生活音にいちいち苛立っていた。先生に出会ってから事件が減ったのは、止められているからではあるが、一人暮らしをはじめて静かになったからでもあるだろう。家族を殺す前に離れられてよかった。嫌いなわけではないのだ。


「殺すのか?」


「誰を?」


「お前に食事を作った男」


「どうして」


「殺されるなよ」


 言われなくても、わかっている。毛布に吸い込まれて消える程度の声で答えた。私は別に、いつ誰に殺されたって、構わない。殺人鬼に安定して生きて欲しいのは、殺し屋を手札に持っておきたい梅影先生の都合だ。


 いつ殺されたって構わないなら、さくらさんのごはん、食べたってよかったのだ。

 頭を毛布から出して見れば、もうほとんど梅影先生は食べ終えてしまっていた。朝ごはんはちゃんと食べよう。

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