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朝から機嫌が悪いオーラを垂れ流しているだろう自覚がある。もう二ヶ月も、趣味に興じることができていない。離れれば感覚が鈍るのに、今日は雨だ。
「椿坂さん。またお昼をそれだけで済ますつもりなの? これ、インスタントのお味噌汁だけど、飲みなさい」
鏡先生がテーブルに味噌汁をいれたお椀と割り箸を置いた。
「いいです。ぶどうグミの味でいっぱいなのに味噌汁とか」
「糖分だけじゃいけないわ」
「そのインスタント、味噌が甘いから好きじゃないし」
「ネギを足しましょう」
「甘さ消えないでしょ」
「昼からも授業に出ないつもりなら、食べなさい。次、あなたのクラスは英語だったわね」
梅影先生に突き出すっていうのか。梅影先生はダメだ、後々までねちねち面倒くさい。
「たまには一日保健室にいたっていいじゃないですか」
「たまに、ならね」
昼休みが終わる予鈴が鳴る。鏡先生ではないほうの養護教諭と話していた顔なじみの生徒たちも、そろそろと立ち上がる気配。
「ほら、食べないなら教室に戻りなさい。味噌汁はいいけど、水分補給くらいはしなさいね」
「はいはい」
「あ、そうだ」
渡されたコップのぬるいお茶を飲み干して、テーブルに置く。仕方なしにソファから立ち上がり、グミはチャックしてポケットに入れた。廊下はきっと寒いだろうなあと、先に出た生徒のせいで半開きになったドアに手をかけたところで、先生に呼び止められた。
「椿坂さん、放課後来てくれる? 頼みたいことがあるの」
「わかりました」
廊下に出てきっちりドアを閉める。足の爪先から冷たい空気が足を伝って上がる。冬だけでも男子用制服を着ればよかった。気分で好きなほうを着ている人もいるらしいから、禁止されてはいないはず。去年も考えた気がする。