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9話「幼馴染との空白の時間」

「ねぇ、あの子凄く可愛くない? 一年生かな?」

 クラスメイトの声に反応し、指さしている方を見ると、扉の所でこのみが頭だけを覗き込むようにして、不安そうにキョロキョロしていた。

「このみ、なんでまだ学校に居るんだ? 入学式が終わったら一年生は帰るはずだろ?」

 俺が声をかけると、このみは安心した表情を見せる。

「えっとね……お兄ちゃん達と一緒に帰りたくて、待っとく事にしたの。それを昨日お姉ちゃんに言ったら、お弁当作ってくれたから、お兄ちゃん達と一緒に食べたくて誘いにきたんだ」

 このみは嬉しそうに、弁当箱を俺に見せる。

 俺が夕美の方をみると、夕美はカバンから弁当箱を取り出し、こちらに歩いてきていた。

「そういうことだから、龍行くわよ」

 さも当然のように、夕美は告げた。

「俺の気持ちは無視か?」

 俺は苦笑いをしながら、夕美を見る。


「あら? このみのお願いを断るの?」

 夕美は意外そうな顔をする。

 俺自身、このみとお昼を食べたいという気持ちはあるが、このみの容姿のせいと、夕美が関わってきたせいで、クラスの中で悪目立ちをしていた。

 そのため、このまま一緒に行くのは良くないと考えていたのだが……。

「ね、ねぇ。それ、私も一緒に行っていいかな?」

 おそるおそる声をかけてきたのは、加奈だった。

「え、えっと……お兄ちゃん……?」

 このみは判断を、俺に任せてくれるようだった。

 俺はこのみが今朝の事で、加奈への接し方に困っていたことから、今回は遠慮してもらおうと思い、断ろうとした。

 しかし――俺が断ろうとする前に、夕美が返事をした。

「いいんじゃない? だって一緒に食べたいんでしょ? だったら、一緒に食べましょう」

 そう言うと、夕美は笑顔で加奈の手を引っ張った。


「本当!? ありがとう!」

 加奈は夕美の行動に、凄く嬉しそうにしていた。


 ――久しぶりに、夕美のあの優しそうな笑顔を見たな。

 元々夕美は優しい性格だったのだが、こちらで再会してからは性格が冷たくなっており、男子嫌いになっていたので、数年会わないうちに性格が変わってしまったのだと思っていた。

 しかし、今さっきの加奈を思いやる夕美の笑顔は、昔のままだったため、また前みたいに戻れるかもしれない。


 ――結局俺達は屋上に移動して、弁当を食べる事にした。





「でも、よかったぁ~。朝の事も有ったし、私水沢さんに嫌われてると思ってたから」

 加奈はそのことを結構気にしていたのか、ホッと胸をなでおろしていた。

「嫌わないわよ。私が嫌いなのは男子だけで、女の子には優しいわよ?」

 夕美はこのみの口をハンカチで拭いてあげながら、加奈に笑いかけた。

 夕美も俺と同様で、このみにはダダ甘で、このみのお世話をするのが好きなのだ。


「なんでそんなに男子が嫌いなの?」

 加奈が不思議そうに質問すると――

「何処かの誰かさんのせいで、昔凄く大変だったからねぇ~」

 夕美はそう言いながら、俺のことを睨みつけてきた。

 俺はてっきり、自分が黙っていなくなった事を言われているのかと思ったのだが――。

「お姉ちゃんはね、お兄ちゃんがいなくなった後、いろんな男子から言い寄られてたの。お兄ちゃんが居た頃は、二人が恋人だと周りのみんなは思ってたから、告白してこなかっただけらしいよ」


 このみの言葉に俺は驚いた。

 俺と夕美が恋人と勘違いしている人間は多かったが、夕美がそこまでモテていたことに気づいていなかったからだ。

 でも、考えてみれば夕美がモテる事は当然だった。

 当時の夕美は今とは違い、とても優しく、このみだけではなく俺の面倒もよく見ていた。

 それに幼さはあったものの、今と変わらず美人だった。

 実際あのころの俺は、夕美の事が好きだったのだ。


 当時の夕美が俺の事をどのように考えていたのかはわからなかったが、俺は自分が夕美に告白しても迷惑をかけるだけだと思い、気持ちを伝えることはなかった。

 そして俺が居なくなったことにより、邪魔ものがいない今がチャンスと、男子が夕美に言い寄っていったのだ。

 毎日毎日言い寄られた夕美は、男子の事が大嫌いになり、冷たく接するようになったらしい。

 

 しかし、夕美にとって、幼なじみである俺だけは特別だったそうだ。

 だが、勝手にいなくなって心配をかけたことを許せないため、冷たく接しているだけで、本当は心の中では俺の事を凄く気にしていてくれたらしい。。

 そのことを俺が知るのは、凄く後だったのだが……。





「――そういえばこのみ、入学式が終わってから昼休みまで、どこで時間をつぶしてたんだ?」

 俺は弁当を食べ終えると、疑問に思ってたことをこのみに聞く。

「お兄ちゃん達が終わるまでどうしようかな~? って廊下を歩いていたら、生徒会副会長さんに声をかけられて、『お兄ちゃん達の授業が終わるのを待ってる』って言ったら、図書室を開けてくれたんだ」

 そう言ったこのみは、ニコニコしていた。


「そっか、紫之宮先輩には、今度お礼言わないとな」

 俺はこのみの頭を撫でる。

 このみは気持ち良さそうに目を細め『えへへ』と、笑いながら俺に身をゆだねてくれた。


「紫之宮先輩……」

 しかし、すぐにこのみがボソっとつぶやいた。

「どうしたこのみ?」

 俺がこのみの顔を覗き込むと――

「ねぇ、お兄ちゃん。そういえば学校で、お兄ちゃんと紫之宮先輩って人が付き合ってるって聞いたんだけど、紫之宮先輩って副会長さんの事だったの? 付き合ってるの?」

 このみは不思議そうに首を傾け、俺の瞳を見つめていた。


「いや、あれはちょっと誤解が生じて噂になってるだけで、先輩とは付き合ってないぞ」

「本当に誤解なのかしら?」

 夕美はジーっと俺の顔を見てくる。


「だよね、最近龍ってば先輩と怪しいし」

 加奈まで俺の事を疑っていた。

「おいおい、このみがまた誤解するから、変なことを言うのはやめてくれ」

 俺はそう言いながら、苦笑いをする。


「お兄ちゃんは、副会長さんの事が好きなの?」

 悪気の無いこのみの質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。


「……尊敬はしてるかな」

 そう言って、話を誤魔化した。


 紫之宮先輩の事を好きだとは思っていないと思う……。

 でも、はっきりと否定することができなかったのは、何故だろう?


 そんな考えが頭の中に引っかかったが、予鈴が鳴ったため、俺はそれ以上考えるのをやめた。

 そして、夕美と加奈はそんな俺の事を、教室に戻るまで疑うのだった。


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