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8話「可愛すぎる妹は突然に」

 ――紫之宮先輩の発言により、桐沢学園内は俺と紫之宮先輩が付き合っているという噂で、持ち切りになっていた。

 俺は有名ではないが、やはり生徒会副会長であり、桐沢学園の月と称される紫之宮先輩の人気は凄いようだ。

 先輩に彼氏がいるという事で、男子達はかなり落ち込んでしまった。

 そして、その当てつけが全て俺に来ており、俺は毎日男子達の恨みの視線を受けて疲れていた。

 いつもは疲れている時に癒してくれている加奈でさえ、今回は拗ねてしまっていて、敵になっている。


「はぁ……」

「黒柳君、大丈夫?」

 溜息をつく俺の事を心配してくれたのは、この前、朝のジョギング中に体調を崩した俺のことを助けてくれた、春川さんだった。

 少し前までは、ジョギングしている俺とよくすれ違っており、てっきり俺は反対方向から走ってきてるものだと思っていたのだが、春川さんが言うには、俺より早く走っていて折り返しているときに、俺とすれ違っていただけで、家は俺の近くだったようだ。

 最近では、俺と春川さんが走る時間が重なっており、なんとなく一緒に走っていた。


「いや、なんか学校でちょっと困った噂が流れてて、困ってるんだよ」

 俺は苦笑いをしながら、春川さんの方を見る。

 噂の細かい内容を俺は恥ずかしくて言わなかったが、春川さんも俺が言いたくなくて言葉を濁したことに気づいているのか、深く追求はしてこなかった。


「そっか、黒柳君も大変なんだね~」

「まぁね。そういえば、春川さんは家が同じ方向みたいだけど、中学って一緒だったかな?」

 俺は春川さんが同じ中学だった記憶は無いが、どこかで見たことがあり、名前も聞いたことがあったため、家も近い事から中学が一緒だったのかもしれないと思っていた。

 しかし、春川さんの答えは俺の予想とは違っていた。

「ううん、違うよ。私、チームに入るために、高校に上がってからこっちに引っ越してきたから」

「へぇ、凄いね。スポーツのためにきたのか。何のスポーツをしてるの?」

「サッカーだよ。サッカーって凄く面白いんだよ」

 サッカーについて語る春川さんの顔は、とても眩しく輝いていた。

「おぉ、サッカーなんだ。今、日本の女子サッカーは凄く強いらしいね」

「うん、だから毎日練習についていくのも大変。でも、他の人にレギュラー盗られたくないから、頑張らないと」

 春川さんはいつもの優しい表情ではなく、真剣な顔をしていた。

「へぇ~レギュラーなんだ。凄いな――じゃぁ、日本代表にもなれるといいね」

 俺のこの言葉に、春川さんは一瞬きょとんとした。


 まるで『この人は何を言っているのだろう?』とでも、思っているような顔だった。

「どうかした?」

 なにか変な事でも言ってしまっただろうか……?

「あ、ううん、何もないよ! そっか、私ももっと頑張らないと……」

 後半の言葉を俺は上手く聞き取ることが出来なかったので、それ以上それについての会話はしなかった。





 ジョギングを終えて部屋に帰ってくると、俺の部屋に加奈がいた。

「今日は、早く目が覚めたんだな」

 俺が加奈に声をかけると、加奈は機嫌が悪そうに俺の事を見た。

「別に……。あまり寝れなかっただけ」

 加奈の顔を見ると、まだ眠たそうで、ウトウトしていた。

 朝ご飯はこれから作るから、まだ時間はあった。


「加奈、眠たいならベッドに戻って寝てなよ。ご飯できたら起こしてあげるから」

 俺は加奈に、自分の部屋に戻って寝るように言ったつもりだった。

 しかし、加奈は――

「うん、わかった。じゃぁ、寝るね」

 と言って、俺のベッドに潜ってしまった。

「おいおい……。加奈、男の布団に潜り込むなよ」

 俺は加奈の体を揺するが、加奈は起きなかった。


 ――起こすことをあきらめた俺は、朝ご飯を作ることにし、料理にとりかかっていた。

 すると、少ししてからインターホンがなった。

 俺が扉を開けるとそこに居たのは、夕美と俺の大切な妹――このみだった。


「お兄ちゃん!!」

 このみは俺の姿を確認するなり、抱き着いてきた。

 このみはこっちに来てからも、俺に会いに来ることはなかった。

 理由はわからなかったが、俺から会いに行くわけにもいかず、そのことを俺は置いていた。


「お兄ちゃんのバカバカ! なんでこのみの事、おいて行っちゃったの!?」

 このみの顔を見ると、涙があふれていた。

「ごめんな」

 俺はそれ以上言う事が出来ずに、このみの頭を撫でる。


「だめ、許さない。このみの事甘やかしてくれないと、絶対に許してあげない」

 このみは顔をの胸俺に埋めて、押し付ける様にグリグリとしていた。


 俺はそんなこのみのことを可愛いと、思いつつ『わかったよ』と、頭を撫で続けた。

 その後ろで夕美は何も言わずに見ていたのだが、俺の後ろのベッドが盛り上がっている事に気づく。

「龍……なんでベッドが盛り上がっているの……?」

「え……? あ!?」

 俺は突然来たこのみの事で頭がいっぱいになっていたため、加奈がベッドに寝ている事を忘れていた。

 そして、運悪くか、俺達の話声で目を覚ましてしまったのだろう、加奈がベッドから起き上がった。


「……りゅう……うるさい……」

 寝ぼける加奈を見て、俺はこの状況がヤバイ事を察する。

 このみには当然だが、夕美にも加奈との事は話していなかった。

「え……? お兄ちゃん……? なんで、女の人がお兄ちゃんのベッドから出てきたの……?」

「いや、このみ……これは誤解だ……」

 俺は必死に弁明しようとするが、このみの後ろに立っていた夕美の絶対零度の様な視線に、言葉が詰まってしまう。

「へぇ~……。この前の先輩の件といい、私たちをほっといて、随分お愉しみなようで……」

 それだけ言うと、夕美はにっこりと笑った。

 

 夕美が笑った。

 

 そう、笑顔なのだ。


 笑顔なのに、俺はこの笑顔が反対の意味を示していることに、恐怖を感じていた。

 このみは夕美が自分の後ろにいるせいで、どんな顔をしているか気づいていなかったが、なにやら焦っていた。

「ごめんね、お兄ちゃん。私ただ、今日が入学式だから、一緒にお兄ちゃんと登校したかっただけなの。だから、邪魔するつもりはなかったんだよ?」

 このみは許しを請うような顔をしていた。

 そして、このみの言葉に俺は、初めてこのみが制服を着ている事に気づく。

「いや、邪魔だなんて、そんなんじゃないから。それよりこのみ、制服凄く似合ってて可愛いよ」

 俺はこのみの頭を再び撫でる。


「えへへ、本当?」

 このみは先ほどの事など忘れてしまったかのように、嬉しそうに身をゆだねてきた。

「誤魔化したわね……」

 夕美がぼそりとつぶやく。


 うるさいよ!!


 と、俺は思うが口にはは出さなかった。

 そんなやりとりを、寝ぼけていてよくわかっていなかった加奈は、少しの間ボーっとしていた。

 そしてこのみを見るなり、いきなり抱き着いた。


「え? え?」

 このみはわけがわからず戸惑っていた。

 いや、戸惑っていたのはこのみだけではなく、俺と夕美もだ。

「お、おい。何してるんだ加奈?」

「この子、龍の言ってた妹さん!? お人形さんみたいで凄い可愛い!」

 相変わらず加奈は、このみを抱きしめたまま離さない。


「小さくてかわいい~」


 加奈は凄く嬉しそうにしているが、このみのことを小さいという加奈も、実際はこのみと5cmくらいしか変わらない。

 このみが140cmちょっとで、加奈が150cmくらいだろう。

 加奈にぎゅっと抱きしめられて苦しそうなこのみは、俺達に助けを求めていたが、抱きしめる加奈と抱きしめられているこのみの図が可愛いため、俺はもう少し見ていようと思った。

 ――しかし、後ろから夕美に、頭をいきなり叩かれた。


「はやくこのみを助けてあげなさいよ」

 いよいよ、夕美の怒りが爆発しそうだったため、俺はすぐ加奈とこのみを引きはがした。

 ホッとするこのみに対して、加奈は不満そうにしていた。

 でも、加奈がこのみの事を気に入ったようだったため、俺は安心していた。


 これなら、加奈も学校でこのみのことを気にしてくれるだろうな。

 俺がそんなことを考えていると、服の袖をクイクイっと、このみが引っ張った。


「どうした、このみ?」

「ねぇ、このままだと遅刻しちゃうよ?」

 俺達が時間を見ると、学校の始業時間まであまり時間がなかった。


「遅刻はあの人にやられてしまう!!」

 と、俺達は走って学校に向かうのだった。


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