表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/70

7話「犬猿の仲」

 始業式が終わり、帰りのホームルームで喜島先生の話を聞いていると、隣の女子から手紙が回ってきた。

「黒柳君、なんか水沢さんにこの紙を渡してほしいって、言われたんだけど……」

 俺がその手紙を受け取ると、周りの生徒達も気にしているようだった。

 周りは俺と夕美が幼馴染だという事を知らないから、転校生がなんで俺に興味を示しているのか気になっているのだ。

 俺はそんな周りの視線を気にしながら、折りたたまれている手紙を開いた。

『ホームルームが終わったら、屋上にきなさい』

 手紙に書かれている言葉は、その一文だけだった。

 しかし、俺にとっては、とんでもなく重い一文である。


 これは暗に、夕美が俺に対して『逃げるな』と言っているのだ。





 そして、運命の時間がきた。

 夕美はホームルームが終わると、さっさと教室を出て行ってしまい、俺も後を追いかけた。

 俺は、屋上へと続く階段を昇る足が、凄く重たいと感じていた。

 扉をあけると、夕美がゆっくりと後ろを振り返った。

「ちゃんと来たのね。」

 俺を見る夕美の目は、とても冷たかった。

 俺は冷や汗が流れるのを感じながら――

「俺がこの学園にいる事を、おじさん達から聞いたのか?」

 と、もう逃げるのはやめて、夕美の眼をしっかりと見る。


「あら、久しぶりに会う幼馴染に対して、発する第一声がそれなの? 勝手にいなくなって謝罪も無いの?」

 やはり、夕美の怒りは頂点に達しているようだった。

 俺は何も返す事ができなかった。

「……お父さん達は何も教えてくれなかったわ。あなたがここに居る事を見つけたのは、このみよ。あの子、龍がいなくなってから毎日泣いてたわ。それで、あなたを絶対見つけるって言って、頑張っていたの」


 俺はこのみが泣いていたと聞いて、罪悪感を抱いていた。

 仕方なかったとはいえ、このみを傷つけてしまったのは俺だったからだ。





 屋上の階段付近に潜み、私達は二人の会話を盗み聞きしていた。

「なぁ、さっきから黒柳達、なんの会話してるんだ? 黒柳がいきなりいなくなったとか……」

 神崎君が隣にいた私に、声を潜めて尋ねた。

「あまり言いふらしていい話じゃないから、それは龍に聞いて。ただ、あの二人は幼馴染なんだよ」

「え、幼なじみって、加奈ピンチじゃん。黒柳君を水沢さんに盗られちゃうんじゃないの?」

 龍に手紙を渡した女子が、私を心配していた。

「いや、盗られるって――別に龍は私のでもないから」


 私はちょっとムカッと来てしまい、冷たく言ってしまった。

 そんな私にその子は怯えた表情をしていた。

「なんで、黒柳のとこばかり美少女が寄ってくるんだよ~」

 少し大柄の男子が、うらやましそうに龍を見る。

 龍の席の周りの生徒達は、龍達のことが気になって、私に付いてきた。

 そんなことに龍達は気づかずに、話を進める。





「龍、何があったの? あなたがこのみを置いていなくなるなんて、よっぽどの事があったんじゃないの?」

 夕美は俺に対して怒ってはいるが、俺が意味もなく、自分達を裏切るはずがないと信じているといった目をしていた。

 俺はあきらめて、紫之宮先輩との取引以外の事を全て打ち明けることにした。

 紫之宮先輩との取引の事を話さなかったのは、先輩との約束もあるが、なんだか夕美に話してしまうと、ややこしい事になりそうだと思ったからだった。

 ――しかし、そんな事では夕美を誤魔化せるわけがなかった。


「龍、まだ大切なこと隠してるでしょ? 確かに普通だと納得出来る内容だったけど、これだけでは龍が、このみを残して行くなんてありえないわ」

 元々、夕美は頭がキレる人間だ。

 そのうえ、俺の事をよく理解している。

 俺がこのみの事を自分自身よりも大切にしていて、何があってもこのみ第一で考える人間であることを、夕美は知っていた。


 今の話だけでは俺がこのみを残して行く事は無いと、夕美は確信しているのだ。

 誤魔化せないとわかった俺は、紫之宮先輩との取引のことを話すかどうか悩んでいると、思いもよらぬ人物が現れた。


「それは彼が私と取引したからよ」

 声がした方を俺達が振り向くと、そこには紫之宮先輩が立っていた。

 そして、その後ろに加奈達が居ることにも気づいた。

 いきなり紫之宮先輩が現れた事に驚いてしまい、加奈達は隠れる事を忘れてしまったのだろう。


 なんで先輩がここに……? 

 それに、加奈達もついてきていたのか……?

 俺が先輩に声をかけようとするが、それよりも早く先輩が言葉を続けた。

「転校生の名前と顔写真を見て驚いたわ。まさか、ここまで黒柳君を追ってくるとはね。それで新入生の方も調べてみると、やっぱり彼の妹も居たわね」

 俺はその言葉に驚かなかった。

 夕美が転校してきたのに、このみがついてきていないわけがない。

 前の食事会で先輩が俺に対して『このみ達と会いたい?』と聞いたのは、これが理由だったのか。

「あなたは龍が居なくなる少し前に、龍のことを私に聞いてきた人ね? ……そう、やはりあなたが関わっていたわけね」

 夕美は先輩の事を睨みつける。

「いや、紫之宮先輩は俺達の事を助けてくれた人なんだ。だから、そんな睨みつけるな」

 俺は夕美の事をなだめるが、夕美の怒りはおさまらない。

「助けてくれたって何? 人の素性を探るような人間が、正しいことをしてるなんて思えないわ」

「全く……幼なじみがいなくなったから追いかけてくるって、あなたストーカーかしら? そんなにも黒柳君の事が好きなの?」

 先輩はわざと、夕美が怒る言葉を選んでいるようだ。

「違います! 好きじゃありません! 私はただ、このみが龍に会いたがっていたから、ついてきてあげただけです。このみのためであって、龍に会いたかったわけではありません!」


 普段、冷静で物静かな夕美が、ここまで怒る姿を俺は初めて見た。

 しかも、普段と違うのは、どうやら先輩も同じようであった。

 いつも人に厳しく接する人ではあったが、相手を挑発するようなことをする人間ではない。

 しかし、今の先輩は思いっきり夕美を挑発していた。

 どうやら、夕美の存在が気に入らなくて、ちょっかいを出しているみたいだ。

 頭が良く、冷静沈着といった面で似たような性格をしている夕美と先輩は、気が合うかと思えば、どうやら犬猿の仲であるようだ。

 いや……同族嫌悪か……?


「――そう、じゃあ、あなたは口を挟まないでくれない? 彼の面倒は私が見てるの。つまり、今はもう彼は私の物なの」

「「「えぇ~!?」」」

 驚きの声を発したのは、加奈についてきた三人だった。

 どうやら彼らは、今の発言を俺と先輩が付き合っているものと、受け取ったみたいだ。

「ちょっ……紫之宮先輩、なんでそんな紛らわしい発言を!?」

「なんで? 事実じゃない。私、結構黒柳君のお世話してるわよ?」

「いや、確かにお世話になってますが、言い方ってものが……」


「へぇ~?」

「龍の裏切り者!! 女たらし!!」

 俺がゆっくりと後ろを見ると、ゴミでも見るかのような目をした夕美と、泣きそうな顔で怒ってる加奈がいた。

 そしてその後ろでは、クラスメイト達が電話をしていたり、スマホをタップしていて、俺と紫之宮先輩が付き合っている、という情報が流されている事を察した俺は、膝から崩れ落ちた。

「俺……なんも悪い事してないじゃん……」

 ――そして、次の日学校に行った俺は、学校中の男子から総スカンをくらい、女子たちからは質問攻めを受けるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『新作です……!』
↓のタイトル名をクリックしてください

数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました

『数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました』5月23日1巻発売!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
数々1巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』8巻発売決定です!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊び6巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』コミック2巻発売中!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊びコミック2巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ