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6話「会いたくて会いたくなかった奴」

「――お兄ちゃん……」

「このみ!!」

 ガバッと、俺は体を布団から起こす。

「また夢か……。くそ、今日は学校があるのに……」

 この前ショッピングモールでこのみらしき姿を見てから、俺は毎日このみの夢ばかり見ており、寝不足になっていた。

 目が完全に覚めてしまい、寝なおすこともできないまま、日課のジョギングの時間が来た。


「龍、大丈夫……?」

 外に出ると、加奈が俺の部屋の前に立っていた。

「あ、ごめん、起こしちゃったか?」

 俺達の住んでいるマンションは家賃が安い為、防音対策がしっかりとされてはいなかった。

 普通の話声ぐらいなら、隣の部屋に聞こえることはないのだが、流石に大声となれば聞こえてしまう。


「今日くらいはジョギングやめたら?」

「いや、気分を変えたいから、走ってくるよ。」

 心配そうな表情をしている加奈をよそに、俺はジョギングに行った。

 

 しかし――いつものコースを走っているのに、息の乱れがいつもより激しかった。

 そして、向かい側からいつもジョギングをしている時に、すれ違う女の子が走ってきた。

 彼女とすれ違う間際に、眩暈がしてふらついてしまい、膝を地面につけた。


「大丈夫ですか!?」

 先ほどの女の子が駆け寄ってきて、俺の顔を覗き込んできた。

 黒髪でショートボブの髪型をした、彼女の顔立ちは整っており、目がクリっとしている可愛い子だった。

 しかし、俺はそんなことを気にしている余裕もなく、返事を返せずにうつむいていた。

「顔色が悪いみたいですけど、木の陰で休みましょう」

 女の子は俺に肩を貸してくれ、木の陰まで俺を連れて行ってくれた。

 それから、女の子はスポーツドリンクを買ってきて、俺の口まで運んで飲ませてくれた。

 段々と元気が戻ってきた俺は、申し訳なさそうに女の子に謝った。


「すみません、迷惑をかけてしまって」

「いえ、困った時はお互い様です。それによくこの辺ですれ違ってましたから、顔見知りといえば顔見知りですしね」

 女の子は可愛らしい笑顔を向けてくれる。

「ありがとうございます。もう一人で大丈夫ですので、行ってください」


 俺が頭を下げると――

「いえ、まだ時間は大丈夫なので、もう少し一緒にいますよ」

 と、女の子は俺の横に腰かける。

 見た限り、彼女は日焼けをしていて、無駄な筋肉はついておらず、女の子らしい体ではあったが、いかにもスポーツ選手という感じの体格だった。

 以前から俺は、彼女の事をジョギング以外のどこかで見たことがある気がしていたが、どうにも思い出すことができなかった。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私、春川咲といいます。これからよろしくお願いします」

「あ、俺は黒柳龍です。本当に今回は助かりました」

 

 やはり名前もどこかで聞いたことがある気がする……。


 しかし、ふと時計を見ると、もう登校時間まであまり時間がないことに気が付き、考えるのをやめた。

「すみません、俺もう学校に行かないといけないので、これで失礼します。また今度、お礼をさせていただきます」

 俺はそう言うと、急いで家に走っていった。 


 ――そして、ジョギングから戻ってきた俺は、心配していた加奈に珍しくも説教をされるのであった。





 学校に向かう最中、俺はあくびを噛みしめる。

「龍、やっぱり眠たそうだね? 毎日どんな悪夢を見てるの?」

 加奈はとても心配そうにしている。

「いや、悪夢ってわけではないんだけどな。ただ、やはり気になっていて、頭から離れないんだろうな」

「ふ~ん。あまり無理はしないでよ? 龍が倒れたら困るし……」

「大丈夫だよ。そんな簡単に倒れたりしないって」

 俺はそんなふうに軽く笑い飛ばすが、今朝方のジョギングで倒れそうになり、挙句の果てに知らない女の子に介護してもらったことを、加奈には隠していた。

 




 ――学校に着き新しいクラス分けを見ると、また加奈と同じクラスだった。

「やった! また龍と同じだよ!」

 加奈は凄く嬉しそうにしており、トレードマークのツインテールが、ぴょんぴょんと跳ねて可愛らしかった。

 ちなみに、加奈の機嫌が凄く良い時だけ見れるこのツインテールのぴょんぴょんは、俺のお気に入りであった。

「本当、中学の時からずっとクラス一緒だよな~」

「うんうん、これはもうあれだね。神様が龍に、私の面倒をずっと見るようにって言ってるんだよ」

「こらこら、いつまでも加奈の面倒は見れないぞ。家事をしっかり覚えような?」

 苦笑いする俺に対し加奈は――

「だって、料理できないし、家事嫌いだもん」

 といった感じで、拗ねてしまった。

 加奈は掃除も洗濯も得意ではなかった。

 ましてや、料理なんかできるはずもない。

 何度か俺が教えようとしたが、壊滅的に失敗するので、最近では俺が加奈に家事をさせようとすると、加奈が逃げてしまうほどであった。

 そんな会話を二人でしながら、クラスに入ると――

「お、来たな黒柳」

 と、俺の肩を軽く叩いてきた男子がいた。

「ん? 君はこの前、喫茶店さくらで喧嘩してた男子だね?」

「そうだよ、俺の名は神崎裕貴。この前はありがとうな」

 爽やかな笑顔を向ける裕貴に対して、加奈は――

「あ、この前私たちのバイト先で喧嘩してたのって、神崎君なんだ? もう喧嘩したらダメだよ? 周りのみんなにも迷惑がかかるんだから」

 加奈に喫茶店さくらで喧嘩があったことを教えたのは、俺ではなく店長であった。

 店長は俺の活躍を伝えたつもりだったらしいが、加奈は自分の好きな場所で喧嘩をされたことに、腹をたてていた。


「お、おう。もう喧嘩するつもりはないから、そんな怒んなって」

 神崎君は、完全に加奈の迫力に驚いていた。

「じゃぁ、いいよ。また彼女さんと、喫茶店さくらに来てね」

 加奈が笑顔で話してくれたので、ほっと胸をおろす神崎君だった。

「そろそろ先生がくるし、席に付こうか」

 俺の言葉で、三人とも元々決められている席に座るのだった。


 そして、もうすぐ先生がくるであろうという時間になっても、席が1つ埋まっていないところがあった。


 初日から欠席者がでたのかな?

 俺がそんなことを考えていると、チャイムが鳴り、先生が入ってきた。

 先生の朝のあいさつに、みんなあいさつを返すと、先生がニヤニヤしていることに気づいた。

 この先生がこれから一年間俺達の担任となる先生なのだが、面白い事が大好きで、あまり真面目ではない先生として有名だ。

 だが、真面目ではないと言っても、生徒から嫌われているわけではなく、むしろ生徒たちからは面白い良い先生だと人気がある。


「よし、お前たちに早速良いお知らせだ。今回、新たに二年生に上がって初めて顔を合わせる奴らも多いとは思うが、なんと今年は転校生が来たのだ。しかも喜べ男子ども! かなりの美少女だ!」

 先生の最後の一言に、男子達が騒ぎ出す。

 一方女子たちは騒いでる男子達を見て『アホだバカだ、猿共め』と言っていた。


 いや、最後の猿共めはひどくないか?

 女子たちの容赦のない非難に、俺は思わず笑ってしまった。

 俺は転校生について、あまり興味がなかった。

 普段ならもっと気になっていたかもしれないが、寝不足気味なのと、悩み相談委員のメンバー集めの事で、頭がいっぱいになっていたのだ。

 しかし、次の瞬間クラスに入ってきた女子の顔を見て、俺の眠気も考え事もふっとんでしまうのであった。


 先生の呼びかけに応じて、女子生徒が入ってきた。

 髪型は茶髪で前下がりのショートボブヘアーで、冷たい眼をしているが、先生の言う通りかなりの美少女だった。

 転校生の顔を見た男子達は、最早収拾がつかないほど盛り上がっていた。


「なんで、あいつがここに……?」

 俺は転校生の顔に見覚えがあった。

 それは、嬉しい時も辛い時もずっと傍にいてくれて、俺を支えてくれていた初恋の相手だった。


「はじめまして、水沢夕美と申します。今回事情がありまして転校してきましたが、私は男子という身勝手な生き物が大っ嫌いです。ですので、女子の皆さん、これから二年間よろしくお願いします」


 自己紹介を終え、夕美は頭を下げた。

 さっきまで盛り上がっていたクラスは、先ほどの夕美の一言で静まり返っていた。

 しかし、気まずい雰囲気を作り出した当の本人は、全く気にした様子もなく俺の事を見つめていた。

 どうやら、名前からある程度の席の位置には目星をつけていたようだ。

 夕美の視線が俺に向いていることに、俺以外にも気づいたクラスメイトがいた。

 加奈だった。

 加奈は夕美が俺をじっと見ている事と、俺が気まずそうに顔を背け、冷や汗をかいている事から、前に俺が話していた幼馴染が彼女だと察しがついた。

 実際はクラスが静まり返ってから1分ほどしかたっていないが、俺にはこの時間が、30分にも1時間にも感じられた。


 そんな空気の中――

「クール美少女きた~!」

 と、クラスメイトの一人がまた騒ぎ出した。

 その一言を皮切りに、他の男子からも同じような言葉が漏れる。


 …………なにも知らない奴らはいいよな……

 俺はあまりにも予想外な展開に、頭を抱えてしまった。

 始業式が始まるという事で、先生が移動するように声掛けをしていたが、俺は中々席から動くことができなかった。

 

 ……ちなみに、夕美の登場でクラスメイト達があまりにもバカ騒ぎをしてしまったせいで、担任の喜島先生は、他のクラスの担任から『五月蠅すぎる』と説教をされるのであった。


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