56話「天使からの悩み相談」
――ブー……ブー……。
ん……?
待ち合わせ場所に俺と佳織が向かっている最中、ポケットに入れているスマホが振動し始めた。
振動の長さから言って、どうやら電話のようだ。
俺はポケットからスマホを取り出して、画面を見てみる。
「華恋ちゃんから……?」
「え、華恋からなの?」
俺が華恋ちゃんの名前を出すと、佳織が俺のスマホを覗き込んできた。
昔は華恋ちゃんを虐めていた佳織も、俺との約束で華恋ちゃんの事をクラス内でサポートしてくれており、今では凄く仲良しらしい。
――ちなみに佳織曰く『華恋は私の妹』らしい。
「クロヤン、華恋にも何か指示出してたの?」
佳織が不思議そうに、俺の事を見ていた。
「いや、華恋ちゃんには何も頼んでいないんだが……」
俺は佳織にそう言い、何の用件なのか首を傾げながら、電話に出る。
「――もしもし」
「もしもし~」
電話口からは、相変わらず天使の様な可愛い声が聞こえてきた。
だが、心なしか元気が無い様に聞こえる。
「龍ちゃん……なんで、学校に来ないの……?」
うわ……凄い寂しそうな様子が伝わってくる……。
華恋ちゃんのこんな声、久しぶりに聞いたな……。
「えっと、今やらないといけない事があって、学校に行けれてないんだ。でも、何かに巻き込まれてるとかじゃないから、心配はしなくて大丈夫だから」
「そうなの……?」
「うん、そうだよ。もしかしてそれが聞きたくて、電話してきたのかな?」
「あ……ううん……」
ん?
違うのか?
電話口では、何か華恋ちゃんがゴニョゴニョ言っている。
彼女はあまり話すのが得意じゃないから、ここは焦らせない方が良い。
「えっとね……龍ちゃん……華恋どうしたらいいかな……?」
どうしたら?
何か困ってるのだろうか?
「えっと、もう少し詳しく教えてくれるかな?」
「あのね……加奈ちゃんにね……その……お願いされたの……」
あぁ……なるほど、そう言う事か。
「好きにしたら良いよ」
「え?」
「加奈達に、みんなの前で喋ってもらう様にお願いされたんだよね?」
「う……うん……」
「だったら、華恋ちゃんの好きにしたら良いよ。もし皆の前で喋るのが怖いんだったら、そんな事しなくて良いから」
「で……でも……」
俺の言葉に、華恋ちゃんが戸惑ったような感じになってしまっている。
この子は優しいから、多分加奈達のお願いを断るのを悪いと思ってるんだろう。
「大丈夫。もし華恋ちゃんが断っても、加奈達なら別の手段で――」
ツンツン。
ん?
華恋ちゃんに話していると、佳織が俺の肩を突いてきた。
というか、凄く至近距離に顔があるため、俺達の電話を盗み聞ぎしていたみたいだ。
俺が怪訝な顔をすると、佳織が手を伸ばしてきた。
貸せという事か?
何か考えがあるのかと思い、俺は佳織に任せてみる事にした。
俺からスマホを受け取った佳織は、通話モードをスピーカーに切り替えた。
「やっほー、華恋」
「え……かおちゃん?」
「うん、かおちゃんだよ~」
「あ……噂通りだったんだ……」
噂か……。
やはり、そうなったか。
多分、夕美がずっとレーンを飛ばしてきているのも、それが理由だろう。
「あ、うん、そうだよ。私今ね、クロヤンの手伝いをしてるの」
佳織もすぐ、何の噂か気づいたのだろう。
佳織は何気ない様に話していた。
「あ、そうなんだ」
「うん、そうそう。それでね、華恋。大丈夫――思いっ切り言いたい事言っておいで」
「あ――」
「クロヤンの役に立ちたいんだよね?」
「う、うん!」
「だったらもし何かあっても、水沢さん達がフォローしてくれるだろうし、それでも何か困った事があったら、私とクロヤンがどうにでもしてあげるから、安心してやっておいでよ」
「うん、ありがとう、がんばるね!」
佳織は優しい表情で、華恋ちゃんに言っていた。
電話越しの華恋ちゃんには佳織の表情は見えないだろうが、声から佳織の気持ちが伝わったのだろう。
凄く元気な声で、電話を切ってしまった。
通話が終わった佳織は、俺の方を見上げてきた。
「クロヤン、甘やかしてあげたいのはわかるけど、さっき華恋が電話してきたのは、やりたくないから相談してきたんじゃなく、後押しをしてほしかったからなんだよ?」
そう言って、してやったりといった感じで、佳織は笑う。
「よくわかったな」
「うん、なんとなくだけど、華恋の様子からわかったんだ~」
「……なんか、佳織に負けた気分だ」
「えへへ、華恋は私の周りに居てくれる大切な子だからね。あの子との付き合いはクロヤンの方が長いかもしれないけど、あの子についてなら負けないよ?」
本当に、佳織は華恋ちゃんの事がお気に入りみたいだ。
まぁ、あんだけ可愛らしい子だもんな。
華恋ちゃんは小動物みたいで、本当に可愛いんだよな――。
「――それにしても、華恋に対するクロヤンの口調、凄く優し気だったね?」
なんだか、若干拗ねた口調で佳織がそんな事を言ってきた。
「あぁ……華恋ちゃんはあまり強い口調で言うと、気にするタイプだからな……」
「ふ~ん?」
「え、なんだよその目は?」
「べっつに~」
佳織はなぜか、そっぽを向いてしまった。
最近の佳織の行動は、本当に子供っぽいな……。
そうこうしているうちに、目的の場所についてしまった。
「緊張するね……」
そう言って、佳織が俺の顔を見てきた。
「まぁな……。佳織が話す事はないと思うが、気を抜くなよ?」
「うん……」
佳織は俺の言葉に頷くと、俺の服の裾をギュッと握ってきた。
まぁ、今回は面子が面子だけに仕方がないか……。
俺は佳織の頭をポンポンッと叩くと、自分にも気を入れなおすのだった。







