54話「ターゲット」
「つかれた~」
私はそう言ながら、悩み相談委員室にある机に突っ伏した。
私は悩み相談委員じゃないけど、お姉ちゃんが来て良いって言ってくれたおかげで、お邪魔していた。
ここ数日間、同級生の男子から三年生の女子まで、いろんな人に媚びをうっていたせいで、私はクタクタだった。
「お疲れ様、このみ」
そう言って、お姉ちゃんが頭を撫でてくれる。
「うにゅ~……」
気持ちいい……。
私は眼を細めて、お姉ちゃんに身を任せる。
私はお兄ちゃん同様、お姉ちゃんの事も大好きだった。
お姉ちゃんは、いつも私を甘やかしてくれたから。
でも、そんな私から、大好きなお兄ちゃん達を奪おうとした人が居る――。
私はお姉ちゃんの目の前に座っている、桜井先輩を見る。
「ん? どうしたの、このみちゃん?」
先輩は、無垢な笑顔を私に向けてきた。
この人は、一度自分の人生を終わらせようとした私に、一切の恨みをもっていなかった。
よっぽど、幸せな育てられ方をされてきたんだろうね~。
私達兄妹と違って――。
私はこの人の温情に救われたけど、別に感謝なんてしなかった。
そもそもこの人が私の大切な物に手を出さなかったら、こんな事にならなかったんだもん。
今度はお兄ちゃんを巻き込まない様に、気を付けないとね――。
その時は花宮とか言う、あの女も一緒に――。
「このみ」
私が桜井先輩を見ていると、お姉ちゃんが私の名前を呼んできた。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
私は笑顔でお姉ちゃんに首を傾げる。
「どれくらいかかりそう?」
あぁ、言質をとれるまでの時間か~。
「男子のみんなはすぐ話してくれそうだよ~。私がニコニコで話聞いてたら、色々と話してくれてるから。そっちはそろそろ様子見て、聞いてみようかな~って思ってるの。だけど、やっぱり女の人達が中々喋ってくれそうにないね~。優しくしてくれるんだけど、当たり障りのない話ばかりで、誰かの悪口を一切口にしないの。だから、そっちは信頼を得てからじゃないと無理そうだよ~」
私がそう言うと、お姉ちゃんは『わかったわ』と言って、他のメンバーの状況確認に入った。
はぁ~……でもこれ、思った以上につかれるんだよ~……。
男の人達は、私が好意を持っていると思っているのか、凄く変な笑顔で私の方を見てくるし……。
そのうえ、私は苗字を言うわけにはいかないから、下の名前だけ教えてるせいで、名前呼びされてる。
お兄ちゃん以外の男の人に名前呼びされるのも、話をするのも嫌だった。
折角、周りの男子達を拒絶してたのにな~……。
最近、桃華ちゃんとも遊べてないし……。
なんか、不満ばかりだ……。
お兄ちゃんも傍にいてくれないし……。
あ~あ、誰でもいいから、壊しちゃいたいな~。
あ――良い事考えた~。
私はお姉ちゃん達に気付かれない様に、顔を伏せて笑った。







