45話「新たな火種」
――次の日、俺は学校を休んで紫之宮会長に会いに来ていた。
どうやら、紫之宮会長は今日も会社にいるらしい。
だから俺も、紫之宮会長がいるビルの前まで来たのだが――
「――なんでここにいるんだ?」
俺の言葉に、目の前の少女は気まずそうに顔を背ける。
ここに彼女が来るとは聞いていなかったのだが……。
「えっとね、昨日あの後家に帰ったら、お祖父ちゃんから電話が来て、私も一緒に来るように言われたんだ」
そう言って、花宮は『ごめん』と、手を顔の前で合わせる。
「いや……それならそうと、連絡をくれればよかったのに」
俺がそう言うと、花宮は苦笑いをしながら、頬を指で掻いた。
何か言えないわけでもあったのだろうか?
「クロヤンに連絡しようと思ったら、急にスマホの画面が消えて動かなくなりました……」
……なんというタイミングの悪さ。
まぁ、花宮が居るからと言って、困る事はないと思うが……。
「代機は借りたのか?」
「ううん、お店行ってたらこっちに遅れちゃうから、まだ借りれてないの」
「そうか……。まぁ、ここでの用事が終われば借りに行けばいい」
別に数時間スマホがなくても、さほど困らないだろう。
俺はスマホを見る。
時間は9時55分だった。
「中に入ろう」
俺はそう言ってビルの中に入り、花宮も俺の後に続いたのだった。
建物内に入った俺達は、受付のお姉さんに案内されて、紫之宮会長の部屋の前まで来ていた。
俺はドアを三回ノックする。
すると、中から声が聞こえてきた。
「入りなさい」
俺はその言葉に従い、ドアを開ける。
「失礼します」
俺が中に入ると、紫之宮会長が笑顔で出迎えてくれた。
「よく来てくれたのう龍君。それに、佳織もいらっしゃい」
紫之宮会長は、俺達にソファーに座るよう指示をした。
俺と花宮はその指示に従い、ソファーへと腰掛ける。
「今回は大変じゃったみたいじゃのう」
紫之宮会長は心配そうな表情で,俺の事を見てきた。
俺が倒れたことを言っているのだろう。
「まぁ、今こうして動けているので問題はありません。それよりも、お願いがあってきたのですが、聞いて頂けますか?」
俺がそう尋ねると、紫之宮会長は頷いてくれた。
俺は、これから山中さんを交渉するために、了承してもらいたい事を紫之宮会長に説明する。
紫之宮会長は、その事を真剣に頷きながら聞いてくれた。
俺が説明を終えると――
「ふむ……確かにそれは問題ないが……」
そう呟いて、紫之宮会長は俺の顔を見ながら、考え込み始めた。
「しかしそれが難しいから、政略結婚というのがあるのじゃからなー……。交渉を成立させる自信はあるのかのう?」
俺は紫之宮会長の言葉に頷く。
「はい、許可さえいただけるのであれば、必ずや向こう側の了承を得てきます」
「そうか……。よし、わかった。これは紫之宮財閥にとってもメリットになる。その方向で話を進めて良いぞ」
「ありがとうございます」
俺は紫之宮会長に頭を下げた。
この許可を頂くこと自体は、それほど難しくないと思っていたから、これは予定通りだった。
これで山中さんと交渉が出来る。
俺が立ち去る準備を始めようとすると――
「ただし――」
――ん?
俺は紫之宮会長の方を見る。
なんだ?
何かあるのか?
「君のこれからの活動に、佳織を同行させてほしい」
「「え?」」
俺と花宮の声が重なった。
俺にとって、これは予想外の展開だった。
今日花宮が一緒に居るのは、紫之宮会長が花宮に会いたかったのだろうと思ったのだが、これからの活動に紫之宮会長が居るわけではない。
だから、花宮が俺に付き添っていても、紫之宮会長が会えるわけでないのだが……。
何か目的があるという事か……?
「どういうことお祖父ちゃん?」
そう言って、花宮が紫之宮会長に問いかける。
「佳織よ、先程の龍君の会話の組み立てや、交渉の仕方についてどう思った?」
「そりゃあ、やっぱり凄いなーって思ったけど……」
「お主に同じことが出来るかな?」
紫之宮会長の言葉に、花宮はブンブンっと顔を横に振った。
「むりむりむりむり、私に出来るわけがないよ」
「じゃろう? だから、傍で見て勉強するのじゃ。お主はこれから紫之宮財閥の一員として、やっていかなければならないのじゃからのう」
花宮は俺の方を見てきた。
俺の判断に従うと言う事か。
しかし、これは困ったな……。
これからの俺の行動は、当初の予定通り、学校を休み続けて活動するつもりだ。
なんせこれから会わないといけない相手は、山中さんだけではない。
それに花宮が同行するとなると、必然的に彼女も学校を休むことになる。
俺と花宮が最近良く一緒に居る事は、他の生徒達も気づいているだろう。
そんな俺と花宮が一緒に学校を休み続ければ、折角噂を無くそうとしていても、新たな火種となりかねない。
そうなれば、夕美達の負担になってしまうだろう。
その事は花宮も気づいている。
彼女は申し訳なさそうな顔で、俺の方を見ていた。
俺はチラッと、紫之宮会長の顔を見る。
出来ればこの話は断りたいが、紫之宮会長にはまだやってもらわなければいけない事がある。
ここで変に気を損ねる事はしたくない。
……仕方ないか。
「わかりました。花宮には一緒に行動してもらいます」
「おお、それは良かった。くれぐれも宜しく頼むぞ」
「はい」
俺は紫之宮会長の言葉に頷いた。
「良かったの……?」
花宮が心配そうに、俺の方を見てきた。
「ああ、学校の方は夕美達に任せよう」
夕美達には申し訳ないが、彼女達を信じて任せるしかない。
罵声は、全てが終わってから聞くことにしよう。
俺は夕美からの電話を取らない事を、心に決めたのだった。







