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4話「楓との食事会」

 ――今日は、月一回ある紫之宮先輩との食事をする日だ。

 紫之宮先輩と食事をする日の加奈の機嫌は、かなり悪い。

 俺の作る料理は食べられないし、俺は紫之宮先輩の所に行ってしまうため、一人だけの食事になってしまうからだ。


「今日も紫之宮先輩とこに、ご飯食べに行くの?」

 加奈は拗ねながら、俺に尋ねてきた。

「うん、ごめんな? ご飯は何か外で食べてほしい」

 俺は申し訳なさそうに、加奈に言った。

「いいよ~だ。一人で寂しくご飯食べるもん」

 俺は、拗ねている加奈の頭を撫でる。

「明日は加奈の好きな物作ってあげるから、機嫌なおしてよ」

「ふ~んだ」

 それでも、加奈の機嫌は直らない。

 そうこうしているうちに、約束の時間が来てしまった。

「ごめんな。じゃぁ、行ってくるから、ちゃんとご飯は食べに行くんだぞ」

 俺はそう言って、出て行った。

 一人残された加奈は、俺のベッドでふて寝するのだった。





「こんばんは、紫之宮先輩」

 俺は紫之宮家の執事に迎えられて、車に乗り込む。


「こんばんは黒柳君」

 長い髪を手でかきあげながら、紫之宮先輩は俺にあいさつを返した。

 俺と紫之宮先輩の食事会は、毎回紫之宮先輩の屋敷で行われているため、本当なら紫之宮先輩が迎えに来ずに、執事が迎えに来るだけでも良いのだが、紫之宮先輩はいつもきちんと迎えに来てくれている。

 それは紫之宮先輩にとって、俺に対する失礼が無い様にという気配りで有り、俺は嬉しく思っていた。

 

 ――屋敷に着くと、多くの執事とメイドに迎え入れられる。

 最初の頃は戸惑っていた俺も、今となってはすっかりこの雰囲気になれてしまった。

 しかし、ずっと気になっていたことがあった。

 前に紫之宮先輩から聞いた話なのだが、この屋敷に住む紫之宮先輩の家族はいないらしい。

 つまり――これだけの執事達は、紫之宮先輩一人のためだけに用意されているのだ。

 それだけでも、紫之宮財閥の凄さがわかる。


 俺がそんなことを考えていると、紫之宮先輩が口を開いた。

「ねぇ黒柳君、今回の悩み相談委員の事、大丈夫?」

 気づけば、紫之宮先輩は心配そうな顔で、俺の事を見ていた。

「……それは何に対してでしょうか? 僕にとって負担になってないかって事ですか? それとも委員会として、きちんと成り立たせることができるのか、ということですか?」

 俺は苦笑いをして、肩をすくめる。

「両方だよ。黒柳君にやるように仕向けたのは私だから、私が言えたことじゃないけど、正直――黒柳君はすぐ無理をするから、心配してる。それと、委員のメンバー集め……まだ一人も決まってないよね?」

 俺は誤魔化そうかと思ったが、紫之宮先輩が真剣なので、正直に言う事にした。

「まぁ、負担じゃないとは言いません。正直、手探り状態でどうすればいいのかと、頭も抱えています。でも、これは紫之宮先輩が僕を頼ってくれた事です。僕は先輩に恩がありますし、先輩の役に立ちたいと思っているので、絶対今回の件は成功させます」

「そっか、それじゃぁお願いね」

 紫之宮先輩は素っ気なく返してきたものの、なんだか不満そうだった。





「――黒柳君は、もしまた妹さんや、好きだった幼馴染の子に会えるとしたら、嬉しい?」

 食事の最中、急に紫之宮先輩が俺にそんなことを聞いてきて、俺は食べているものを吹き出しそうになってしまった。

「な、なんで俺が夕美の事を好きだってことになってるんですか?」

「あら、バレてないと思ってた? 間違ってないでしょ?」

 俺は先輩の言葉に何も返せず、先輩はその沈黙を肯定と捉えた。

「今はどうなの? まだ好きなの? それとも、桜井さんの事を好きになっちゃった?」

「加奈は妹みたいなものですし、夕美のことも今じゃあもうわかりませんよ」

 俺は珍しくしかめっ面をしていた。


「じゃぁ、これだけは正直な気持ちを聞かせて。会えるとしたら二人に会いたい?」

「会いたいですよ。ただ、二人は黙っていなくなった僕の事を、怒っているかもしれませんけど……」


「そう……」

 紫之宮先輩は何か考えているようだったが、俺には紫之宮先輩が何を考えているのかわからなかった。





 ――それからは他愛のない会話をして、今日の食事会は終わった。

 俺が帰る準備をしていると、紫之宮先輩の屋敷に、突然の訪問者が訪れた。

「――こんばんは楓」

「え、姉さんどうしてここに?」

 どうやら現れたのは、先輩の姉さんの様だった。

「楓がいつも話してくれている男の子に、会ってみたくてね。ちゃんと邪魔をしないように、食事会が終わった連絡を待ってから来たんだから、怒らないでね」

 先輩の姉さんはそういって、先輩の頭をなでなでする。


「こんな突然来たら、怒りたくもなるよ。黒柳君もビックリしてるじゃない」

 先輩はそういうと、先輩の姉さんは俺の方を見てきた。

「まぁ、そうだね。ごめんね黒柳君、驚かせちゃって。それと初めまして、私は紫之宮愛、これからよろしくね」

 俺はお姉さんの笑顔に見惚れてしまい、咄嗟の反応が遅れてしまった。

「あ、初めまして、黒柳龍です。これからよろしくお願いします」

 俺はそう言うと、頭を下げた。


「礼儀正しいね。それにしても、楓が男の子を屋敷に連れ込んでるって聞いてたけど、本当だったんだね。二人はつきあっているの?」

 お姉さんの目は、キラキラと輝いていた。

「違うわよ。色々と関わりがある男の子だって、前に説明したでしょ」

 先輩の機嫌が段々悪くなっていることに気づいた俺は、早く帰りたいと思うのだが、どうやらお姉さんは簡単には帰らせてくれないのだろうと、肩を落とすのだった。





 ――それから色々と質問攻めにあった俺は、くたくたになってしまった。

 そして、夜が遅くなってきたので、本当に帰らないとまずいということで帰ろうとすると、お姉さんが執事達を制止させ、自分が車で送ると主張した。

 俺は、お姉さんが何か自分に話があるのだと思い、それを受け入れた。

 そして車に乗って動き出すと、お姉さんが口を開いた。

「黒柳君には謝らないといけないことがあるの。あなたを今このような状況に追い込んでしまったのは、私のせいだから」

 いきなり愛から発せられた言葉を、俺は理解することができなかった。

 そして、お姉さんの言葉は続く。

「あなたのお父さんに、お金を貸したのは私なの。だから、今あなたが借金で苦しんでる理由を作ったのは私」

 お姉さんの目は真剣で、冗談を言っているわけじゃないとわかった。


 少し考えて、俺は口を開く。

「別に謝っていただく必要はありませんよ。借金をしたのは父さんですし、むしろ今は、借金返済を無利子で待っていただいている状態です。感謝はしても、恨んではいませんよ」

そう言って苦笑いを浮かべる俺を、お姉さんは見つめてきた。


「本当にそう思っている? だって、今はその借金のせいで、大切な妹ちゃんに会えていないのでしょう?」

「確かにこのみには会いたいと思います。しかし、今は少なくともこのみを借金で苦しめてはいません。それだけで、俺は有難いと思えますよ」

「驚いた……。あなたはとても達観しているのね」

 お姉さんはそう言うが、俺からすれば、本当にこのみさえ幸せに生きてくれれば、十分だと考えていた。


 ――しかし、俺がこのみの幸せのためだと思ってした選択が、このみにどれだけ辛い思いをさせているのかを、この時の俺は気づいていなかった。


 お姉さんに家まで送ってもらい、部屋に入ってみると、俺のベッドに寝ている加奈を見つけた。

 最初は加奈を叩き起こそうかと思ったが、加奈の寝顔が凄く可愛かったので、起こすのはやめて頭を撫でた。

 頭を撫でられて寝ている加奈は、幸せそうな顔をしていた。

 今は加奈が一緒にいてくれる……。

 だから俺は頑張れる。


 ――それから少しして、加奈が目を覚ました。

「う~ん……。あれぇ? なんで龍が私の部屋にいるの?」

 加奈は寝ぼけた目をしながら、不思議そうに俺の方を見ている。

「おはよう寝坊助ちゃん。ここは俺の部屋で、なんで俺のベッドに寝ていたのか、こっちが聞きたいんだけど?」

 俺は、わざと少し怒った顔をする。


「あぁ……龍が出て行った後、寝ちゃったんだ……。ねぇ、りゅう~……おなかすいた~」

 加奈は上目づかいで、ご飯を作れとおねだりしてきた。

「食べとくように言ってたのに……仕方ないな……」

 俺は頭をかきながら、冷蔵庫の中を覗き込み、何か作れないか考えていた。


「やった~。そういえば龍、私悩み相談委員に入ってあげようか?」

 加奈の思ってもみない言葉に、俺は驚いた。

「いいのか? 元々誘おうとは思っていたけど、加奈はそういう委員とかに入るの嫌がってたから、断られると思ってたよ」

「うん、いいよ。そりゃあ、内申とかに興味ないし、放課後の時間とかとられるから嫌だけど、龍が一緒ならやってもいいかな? って思ったから」

 加奈は凄くニコニコしていた。

「じゃぁ、お願いするよ。まだ一人も見つかってなくて困ってたんだよ」

「いつもお世話になってる分、手助けしてあげるよ~」

 1人委員のメンバーが増えたことに、嬉しく思う俺であったが、もうすぐ春休みがあける事を考えると、悠長にしていられないと思うのだった。


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