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3話「喫茶店さくら、予期せぬ訪問者」

 バイト先の喫茶店さくらで俺が食器を片付けていると、一人のおじいさんが話しかけてきた。

「龍君どうしたんだい、なんか悩み事があるのかい?」

 彼は柴宮さんという名前の、喫茶店さくらの常連さんだ。

 店長曰く、俺と加奈がバイトするようになった頃から来るようになったらしい。

 上品な所作と高そうな服を身に着けているため、喫茶店さくらのお客さんの中では、浮いているように見える。


「あ、いえ、ちょっと学校の事で考え事をしていまして……」

 俺は柴宮さんに苦笑いを浮かべる。

「学校の事か……。どれ、儂が相談にのってあげようじゃないか、話してみなさい」

 と、柴宮さんは俺に優しく微笑んでくれた。

 俺は少し考えた後――

「実は――学校で新しく委員を作るらしく、僕が委員長に任命されたのですが、委員のメンバーは僕が集めるように指示されたんです。それで、メンバー集めをどのようにしようか悩んでいて……」


「――ふむ……一つ助言をしよう。少数のメンバーで組織を作る時、メンバーは自分が組織に必要だと思う人材を探すのが良いぞ」

「必要な人材ですか?」

「そうじゃ。まず、この仕事にはどういう性格をしている人間が向いているかを考えるのじゃ。そして、その性格の人間に声をかけるほうが、無闇に人員募集するよりよほど効率が良いし、組織が出来上がってからの仕事の進み具合も違ってくるのじゃ」

 そう言うと、柴宮さんは手元のコーヒーを口に運ぶ。

「なるほど、わかりました。そのやり方で人探ししてみます」

 俺は柴宮さんにお礼を言うと、食器を片付けながら委員に必要な人間を考える。

 まず、最低でもコミュニケーション能力が高い人間が一人はほしいけど――やはり、加奈に晩御飯の時に声をかけてみるか。

 そんなことを考えていると――お店に新しいお客様が入ってこられた。


「いらっしゃいませ!」

 大きい声で俺が挨拶すると――

「あれ? 黒柳君?」

 と、声がして俺がお客様の顔を見ると、なんと白川会長と紫之宮先輩だった。


「えーと……二名様でよろしいでしょうか?」

 戸惑いながら俺が人数確認をすると――

「はい、そうです」

 と、白川会長が笑顔を浮かべているのだった。


 俺がここで働いていることを紫之宮先輩は知っていたが、関心がなさそうだったため、来ることはないだろうと俺は思っていた。

「今日は、楓がこのお店に行ってみたいって言うから来てみたんだけど、まさか黒柳君がここで働いているなんて驚いちゃった」

 白川会長は相変わらずニコニコしてそんなことを言うが、その向かい合わせの席では、紫乃宮先輩が冷たい表情で『何も言うな』といった感じで、俺の事をにらんでいる。


「なるほど……。ここのケーキはどれも美味しいので、お勧めですよ」

 俺は紫之宮先輩の顔は見なかったものとして、営業スマイルを浮かべた。


 それにしても――紫之宮先輩、俺がここで働いているのを知っているのに、店に来てくれたんだな……。

 先輩達の注文をとりおえて厨房に向かおうとすると、柴宮さんがメニュー表で顔を隠していることに気が付いた。


「柴宮さん、どうかされましたか?」

 俺が声をかけると、柴宮さんは一瞬驚き――

「ちょっとな……。儂のことは気にせんでくれ」

 と、言った。

 俺はそんな柴宮さんの行動に首をかしげながら、厨房に向かうのだった


「おまたせしました。チョコケーキとモンブランです」

「わぁ~おいしそう」

「ほんと、おいしそうだね」

 俺がケーキを持っていくと、白川会長と紫之宮先輩は目を輝かせて、ケーキを口に運ぶ。

 白川会長はともかく、紫之宮先輩もこんな顔するんだな……。

 いつもは大人びて見える先輩が、なんだか子供っぽく見えて、可愛いと思った。


「「おいし~!!」」

 ケーキを食べて喜んでいる二人の表情を見て、俺は嬉しくなった。

 二人にたべてもらっているケーキは、俺が店長に言われて作ったものだ。

 俺が作ったという事は二人には伝えていないが、美味しいと言って食べてもらえてとても嬉しかった。

 

 ――そんな温かい雰囲気の中、急に怒鳴り声が聞こえた。

「お前、ふざけんなよ! もう別れてやるよ!」

「なによ……そんなに怒らなくてもいいでしょう!」

 声のするテーブルを見ると、二人の学生カップルが喧嘩をしていたようだった。

「ねぇ、あの男の子の制服って、桐沢学園の制服よね?」

 白川会長は男の制服を見て、困った表情をしている。

 制服を着たまま問題を起こすと、その学校の評判にかかわってしまう。

「止めてくるわ」

 白川会長が紫之宮先輩にそう言って席を立とうとしたが、俺はそれを遮った。


「お店で起こった問題なので、僕に任せてください」

 俺は白川会長にそう言うと、喧嘩しているカップルの方に向かう。

 近づいてから、俺は男子の方に見覚えがあることに気づく。

 隣のクラスの男子で、たまに廊下ですれ違っていたのだ。


「――お客様、どうかされましたか?」

「俺達の問題なんだから、お前には関係ない」

 男子の方は完全に頭に血が上っているようで、周りが見えていない感じだった。

 女子の方は、もう泣きそうな顔になっている。


「そうはいきませんお客様。ここは店内です。騒がれてしまうと、他のお客様に迷惑をかけてしまいます」


「だったら、店から出ていけばいいのかよ!?」

 男子の矛先は、俺に向いた様だ。

「いえ、そうとは言っていません。落ち着いて話をしてくださいと、申しているのです。冷静にならなければ話はきちんとできませんよ。お二人はカップルなのでしょう? せっかくお互い好きで付き合ったのなら、喧嘩して別れるのは悲しいじゃないですか」


 俺がそう言うと、男子の方は黙ってしまった。

 俺は男子が何も言わないことを確認すると、今度は女子の方に声をかける。

「そんな泣きそうな顔をしないでください。何があったのかわかりませんが、あなたの思いをきちんと彼に伝えてあげてください。あなたがきちんと正直に話をすれば、彼は耳を傾けてくれますよ。だって、彼はあなたの事が好きなはずですから」

 俺がそう言って笑顔を女の子に向けると、女の子は涙声で俺に聞き返す。


「ぐすっ……なんで……そんなことわかるの?」

「わかりますよ。だって彼は、あなたが来られるかなり前から、ソワソワしながらあなたを待ってらっしゃいましたからね。『好きな女の子を待っているんだな』と、すぐわかりましたよ。そうですよね?」

 今度は、また男子の方に声をかけた。


「そうだよ。久しぶりにあえるからって事で、早くあいたくて、早めについちゃったんだよ」

 と、男子の方は女子から顔をそむける。

「そうなんだ……」

 そんな男子の態度に、女子の方は凄く嬉しそうな顔をしていた。


「ごめんな。本当はみぃちゃんに渡したい物があったんだよ」

 そう言って、男子の方はカバンからプレゼントを取り出した。


「え……これって?」

 女子の方はプレゼントを見て驚いた表情をする。


「誕生日プレゼントだよ。本当は誕生日の日に渡したかったけど、このまま喧嘩別れはしたくないから」

 そう言って、男子は女子にプレゼントを渡した。

「嬉しい……。でも、いいの? 裕貴君アルバイトもしてなくて、いつもお小遣いに困っているって言ってたのに……」

 女子はプレゼントを受け取って、申し訳なさそうにしている。

 きっと、男子の方に無理をさせてしまったと思ってるのだろう。


「実は――みぃちゃんにプレゼントを買うために、短期バイトをしていたんだよ。だから、ここ最近中々連絡返せなかったり、会えなかったんだ」

「え……ごめんね。そんなことも知らずに私、浮気してるって疑って凄くひどい事言っちゃった」

「いや、俺の方こそごめん。俺がみぃちゃんに隠してバイトしてたのに、こっちの気も知らないくせにって、怒ってしまって。本当にごめんな?」

「ううん、もう謝らないで。私凄く嬉しかったから」

 さっきまで泣きそうだった女子の表情は、晴れ晴れとした笑顔に変わっていた。

 もう大丈夫だと思った俺は二人に気を使い、そっとテーブルから離れた。


「噂通り流石だね、黒柳君」

 厨房に向かおうとする俺に、笑顔を浮かべた白川会長が話しかけてきた。

「本当ね、あの二人の関係を元に戻せるなんて凄いわ」


 珍しく、紫之宮先輩も笑顔を浮かべていた。

「あの二人は、お互いの事を大切にしていましたからね。だから、本音を言えるように話を持って言っただけですよ」

 俺がそう言うと――

「そんな簡単なことじゃないよ。やっぱり、悩み相談委員の事は黒柳君に任せて正解だったね」

 と、笑顔が絶えない白川会長に言われた。

 照れ臭くなった俺は『ありがとうございます』と、お礼だけ言って、逃げるように厨房に向かうのだった。


 その後、先輩達は帰っていったのだが、柴宮さんの不審な行動は、先輩達が帰るまで続いていたのだった――。


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