23話「決別への覚悟」
愛さん達との話し合いをしてから三日後――俺は由紀さんと待ち合わせをしていた。
由紀さんには予めあるお願いごとをしていた。
「お待たせしました、龍様」
由紀さんは俺の目の前に現れると、笑顔を向けてくれた。
「ご無理を言ってすみません、由紀さん」
俺はそう言って、由紀さんに頭を下げる。
「いえいえ、私は嬉しいのです。龍様が私の願いを聞いてくれたのですから」
そう言うと、由紀さんは封筒を渡してきた。
俺はその中身の資料を読む。
――ん……?
これは――運がいいな。
…………嫌、むしろ逆か。
この子を利用したとなると、あいつは怒るだろうな……。
俺の持つ資料についている写真の女の子は――裕貴の彼女のみーちゃんだった。
「4人ですか。思ったよりも多いんですね」
「そうですね。ですが、確かな情報なので安心してください」
正直――1人居るか居ないかかと思っていたんだが、これは有難い誤算だ。
「ありがとうございます。また何かあれば、お願いするかもしれません」
「はい、お嬢様の為なら、いくらでもお力沿えします」
愛さんはそう言うと、ニコっとほほ笑んでくれた。
俺はその資料を鞄にしまって、由紀さんと別れた。
2
次の日、喫茶店さくらに悩み相談委員のメンバーを集めた。
「それで――話って何?」
最初に口を開いたのは夕美だ。
「ある依頼でみんなに動いてほしい。とりあえず――この資料に目を通してくれ」
俺はそう言ってコピーしておいた資料を渡し、写真も一緒に見せる。
「――この子たちは?」
加奈が驚いた顔で、こちらを見る。
「今回の依頼の鍵になる子たちだ」
「この子達――全然違う学校の子じゃない。どういう依頼だったのよ?」
やはり――夕美には突っ込まれたか。
「依頼内容は言えない。個人の内容だからな。心配しなくても、手荒な真似をするわけじゃない」
俺はそう言って、夕美をなだめる。
だが――それで納得する夕美じゃない。
「隠さないといけない事なの?」
「勝手に話していい内容じゃないからな」
「それで手伝えっていうのは、虫が良すぎない?」
「確かにな。でも、俺を信じてくれないか?」
俺がそう言うと、夕美はため息を吐く。
「わかったわよ」
俺は『ありがとう』と告げると、話を進める。
「加奈、力生――この二人の子と仲良くしてほしい」
なぜ二人なのかというと――4人のうち一人はみーちゃんだ。
だから、今ここで名前を出すわけにはいかない。
そして、もう1人は花宮に任せる事を、昨日電話で話しておいた。
その際に『信じて待てとか言ってたくせに~』と、結構文句を言っていたが、やってくれるだろう。
なんせやらなければ、自分が困るのだから。
「桜井さんはわかるけど、なんで俺? この子達女の子じゃん」
力生はそう言って、不思議そうに首をかしげていた。
俺は片方の女の子の写真を、指差す。
「こっちの子がイケメンが大好きなんだよ」
俺の言葉に『あぁ~』と、力生以外のメンバーが頷く。
「という事でこっちの子は力生に任せて、加奈にはこちらの子を頼む」
二人は俺の言葉に『わかった』と頷く。
二人とも素直で有難い。
「裕貴、最近委員会ばかりで、彼女を疎かにしているんじゃないか?」
俺がそう言うと、裕貴はいきなり話題を振られると思っていなかったんだろう、慌てていた。
「なんだよ急に? 大丈夫だよ、大丈夫」
「本当か? 前みたいに喧嘩しても、今度は助けてやれないぞ?」
「お、おう。今度の休みにでもデートに誘うよ」
「あぁ、しっかりサービスしてあげなよ」
俺はそう言って、笑顔を裕貴に向ける。
――今別れられると、困るからな……。
しっかり釘をさしておかないと。
「――また当分委員の方には顔を出せなくなるから、夕美と裕貴、しっかり頼むぞ」
「仕方ないわね」
夕美はやれやれと言った感じで、苦笑いする。
――俺達が話していると、店のドアが開いた。
入ってきたお客さんは、柴宮さんだった。
「柴宮さん、久しぶり~」
加奈は柴宮さんを見つけるなり、すぐに傍によって行った。
……随分なついてるな……。
家族が傍に居ない加奈にとっては、いつも喫茶店さくらに来てくれる柴宮さんが、お祖父さんに見えているのかもしれない。
でも柴宮さん、ここ最近は何故かお店に来てなかったな……。
「やぁ、加奈君。久しぶり」
柴宮さんは優しい笑顔で、加奈を見る。
「最近どうしちゃったんですか? 全然お店に来なかったですよね?」
「ちょっと、忙しいんじゃよ。今日も久しぶりに時間をとれただけで、また当分来れないんじゃ」
柴宮さんは残念そうに首を横にふっている。
「それにしても、今日は加奈ちゃん達の友達が来ているのかい?」
「うん、そうだよ。龍が話があるってみんなを集めたの」
加奈の言葉を聞いた柴宮さんは、『ほぉ』っとつぶやくと、こっちを見てくる。
俺と目が合うと、笑って空いてる席に歩いて行った。
「――とりあえず、今日の話はこれで終わりだ。俺はバイトに戻るから、好きに頼んでくれ」
そう言って俺は席を立ち、ウェイターの服に着替えた。
3
俺はバイトが終わると――紫之宮先輩の家を訪れていた。
愛さん達との話し合いの日からずっと、俺は紫之宮先輩の家に通っている。
理由は、あの人が俺の作戦の肝になる人だからだ。
彼女がしっかりしてくれないと、全てが破綻する。
「いらっしゃい黒柳君」
紫之宮先輩は少しではあるが、笑顔で迎えてくれた。
この人は、あの時俺に言った言葉を忘れているかのような態度を、ずっととっている。
俺にとっても、今そこを掘り返すのは得策ではない。
紫之宮先輩といつも話す内容は、ただの世間話だ。
紫之宮先輩は俺が動いていることを知らない。
ただ、疑問には思っているだろう。
今まで月一回しか訪れていなかったのに、これだけ毎日俺が顔を出しているのだから――。
ただそれが、この前喧嘩したことが原因だと考えてくれていれば都合が良い。
俺は先輩が弱音を吐いてくれる瞬間を――ただひたすら待っていた。
由紀さんが言うには、俺の目の前にいる紫之宮楓という人間の人格は偽りで、本当は泣き虫で甘えん坊らしい。
それなら、その面を見せてくれるまで俺は歩み寄ろう。
そして、彼女が弱音を吐けば俺は優しく導いてあげるつもりだ。
だが、それは正しい道じゃない。
俺が導くのは――逃げへの道だ。
もし彼女がそれを振り払えずに甘んじて受け入れる様であれば、この人は役に立たない。
代わりの策を用意する必要があるだろう。
別に恨みがあって、こんな事を言うわけではない。
――俺はこの人に憧れた。
恋にも似た感情を持っていたのは確かだ。
あの時言われた言葉が本心だったかどうかなんて、もうどうでもいい。
俺はこの気持ちに区切りをつけると決めた。
これは俺の我がままだ。
だからこそ、最後に彼女が幸せになれるように、ベストを尽くそうと決めただけだった。







