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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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22話「隠された真実」

 紫之宮先輩達の後継ぎ問題を解決するため、学校を休んで俺はある人の元を訪れていた。

 ビル(がい)の中にある1つのビルに入ると、受付のお姉さんが笑顔で挨拶をしてくれた。

「紫之宮社長と11時からお約束している、黒柳です」

 お姉さんは少し驚いた様子を見せたが、上へと連絡をつないでくれた。


「――それではこちらにどうぞ」

 お姉さんに連れられエレベーターに乗ると、最上階でエレベーターは止まった。

「失礼します。社長、黒柳様がお見えになりました」

 目的の人物はこちらを向くと、にっこりとほほ笑んでくれた。

「ご苦労様。下がっていいわよ」

 お姉さんは頭を下げると、ドアの外に出て行った。

「お久しぶりです、愛さん」

「うん、よく来てくれたね龍君。ごめんね、学校休ませて来てもらうことになって」

「いえ、僕の方から約束していただいたことですし、時間を割いて頂きありがとうございます」

 俺が頭を下げると、愛さんは笑顔で椅子に座るよう促してくれた。


「ちょっと驚いてくるけどね、君から連絡をくれるとは思ってなかったから。それで、後継ぎ問題を解決する手助けをする代わりに、借金をチャラにしてほしいって事でいいのね?」


 俺が愛さんの言葉にうなずくと、愛さんはため息をついた。

「あのね……楓の友達にこんな事言うのもあれなんだけど、君は私をなめているのかな?」

 愛さんは鋭い視線を向けてくる。

 前に会った優しい愛さんからは、想像がつかない姿だ。

 これが会社を背負う人間の迫力か……。


「ふざけてはいませんよ」

 俺は愛さんの迫力に負けない様に、目をみつめる。

「たかが一学生が、紫之宮グループの問題を解決出来ると本気でおもっているの? それに、借金チャラは虫が良すぎるんじゃないかな?」

「解決できるかどうかはともかく、僕の借金チャラはそれほどおかしくないと考えています」

「というと?」

「このまま紫之宮グループが三つに分かれたまま進めば、いずれ僕の借金の何百倍、何千倍もの損害を受ける危険性がありますよね?」

 愛さんは俺の言葉に黙り込み、こちらを観察しているようだ。


 やがて――愛さんがニコっとほほ笑む。


「そこまでわかっているわけね。君が何も考えずに、由紀のお願いを聞いて借金をチャラにするためだけに交渉してたのなら断るところだったけど、そこまで理解できているならいいよ」

 そう言う愛さんの先ほどの雰囲気は、鳴りを潜めている。

 普通の社長なら借金をチャラにはしなかっただろう。

 でも、常識にとらわれない愛さんならOKしてくれるんじゃないかと考えたが、どうやら正解だったようだ。


「ただ――君は借金とかはしっかり返すタイプだと思ってたんだけど……? 少なくとも、頼まれごとに見返りを求める真似をする子じゃなかったよね?」

 愛さんは問い詰めるというより、ただ単に疑問をもっているって感じだ。


「元からこういう人間なんですよ」

「それはないよ。君についてはしっかり調べたし、君と前に会話してみて確信をもったもん」

 ……調べられてた事は知ってたけど、俺とあんな少ししか会話してなかったのに、確信をもったのか?


 ――人の上に立つだけあって、人を見極めるのが得意って事か。


「僕にもいろいろあるんですよ」

「それは、楓と縁を切るつもりかな?」

 その言葉に心臓を握られたような感覚を抱いた。

 

 やはり――この人は凄い。

「何のことでしょうか?」

「ううん、なんでもないよ。それより、これからの事を話し合いましょうか?」

「いいんですか?」

「うん、この後の予定は全て空けてるから――。私にとっても早く解決したい問題だしね」

 そう言うと、愛さんはこちらに真剣な目を向けてくる。

 時間を空けてくれてたって事は、元から承諾してくれるつもりだったんだろうな……。

 やはり――先ほどのやりとりは俺を試してたんだ。

「龍君は、あの子についてどこまで知ってるのかな?」

 あの子とは間違いなく花宮の事だろう。

「ある程度は――彼女が置かれている状況などは本人から聞いています」


「なるほど……君が今回の事を知ったきっかけはあの子か。あの子から見ても、君は頼れる存在だったというわけね」

 愛さんは嬉しそうに頷いている。


 でも、その考えは違うだろう。

 花宮は俺を頼ってるわけではない。

 利用できると判断したから、俺に近づいて来ただけだろうからな。


「愛さんはあいつについてご存知なんですね?」

「ええ、そうよ。直接会ったことはないけどね」

「でも、紫之宮先輩はあいつの事知らないですよね?」

「どうしてそう思うの?」

「実は、前に紫之宮先輩とあいつは俺の目の前で会ってるんですけど、あいつは紫之宮先輩を意識してましたが、紫之宮先輩は別の事を気にはしていたものの、あいつ自体には興味を示しているようには見えなかったので」

 俺がそう言うと、愛さんは驚いていた。

「よく観察してるね……。ええ、その通りよ。楓には第三者の名前が誰なのか教えないようにしてたの。同じ学校だから、何かもめごとが起こるとまずいからね」


 なるほどな。

 紫之宮先輩が不用意なことをするとは思えないが、追い詰められてる今の状況なら下手なことをしてもおかしくない。


「あの子の生まれについては、全部知ってるのかしら?」

「はい、あいつの母親は愛さん達のお父さんのお姉さんにあたるかたらしいですね。あいつのお母さんは、一般人の男性を好きになってしまった。しかし、そのことを許さなかったご両親は、男性のご両親をお金で買収した。両方の親から反対されたあいつの両親は駆け落ちをし、あいつを産んだ。しかしあいつが三歳になった頃、ご両親は不幸な事故でなくなってしまった。そして、あいつは施設に引き取られ、里親に引き取られた。しかし、引きとった里親はひどい奴で、あいつは虐待を受け続けた。そして、施設に助けを求め逃げかえるという事を、複数回経験した。そんなあいつが優しい里親に巡り合えたのが二年前らしいです。あいつはそれが凄くうれしかったと言っていました」


 愛さんは黙って俺の言葉を聞き続けている。

「そんなあいつが16を迎えた日、不幸な誕生日プレゼントが届いた。それは――早くに両親を亡くし、自分の事を知らずに育った彼女の全てをつづった手紙と、これからの事についてだった。手紙には『やっと見つけた』って書いてあって、あいつはたまたまだって言ってましたが、手紙が届いたのがあいつの誕生日だったのは偶然ではないんじゃないかと、俺は思っています」


「そうね、あの子の存在は生まれた時から知っていたわ」

「だったら、どうしてご両親を亡くした時に引き取ってあげなかったんですか!? なんでやっと幸せをつかんだ彼女から、幸せを取り上げるようなことをしたのですか!?」

 愛さんは黙って立ち上がると、ある書類を取り出した。

「私達の父が許さなかったのよ。紫之宮の家を裏切った人間の子を、紫之宮家に迎えるわけにはいかないと」

「そんな勝手な……」

「そう――勝手よね。でも、父はその時すでにかなりの権力を持っていた。紫之宮の家を継ぐ人間だったから、おいそれと反対など出来なかった。私達の祖父――現会長はどうするのが一番かと悩んだ末、あの子が16歳を迎えたら紫之宮の家に迎え入れると決めたの。それを誕生日プレゼントにしようと決めてたのよ」


 俺は愛さんの言葉に、天を仰ぐ。

 愛さん達の父親は、どうやら花宮の事を大分嫌っているみたいだ。

 それは後継ぎ争いをしていた人間の娘だからか、それとも自分達を捨てていった最愛の人の娘だからなのか。

 ……紫之宮先輩たちの父の事も、花宮の母の事も知らない俺にはそこはわからない。

 それに――あいつの誕生日プレゼントはやはり悪意ある物ではなかった。

 あいつの祖父なりに、あいつの幸せを考えての事だったのだろう。

 だが、それが不運にも彼女が幸せな家庭を手に入れて間もなく送られてきた。

 彼女からすれば、やはり不幸なプレゼントにしか見えないだろうな。


「俺はあいつの幸せを守ってやりたい。あいつは紫之宮の家を継ぐことを、

望んでいません」

 俺が真剣な眼差しを向けると、愛さんは目をとじた。


「ふ~ん、今はあの子にお熱ってわけか……。あの子はそう言ってるかもしれないけど、紫之宮の家を継ぐということは、計り知れないほどの大金が手に入る。それは幸せな事じゃないかしら?」

「幸せは人それぞれです。あいつにとっての幸せはお金を手に入れる事じゃなく、温かい家庭なんです」

「――まぁ、紫之宮の家に入れば、その幸せとは真逆になるわね」

 俺は愛さんを観察する。

 この人は今何を考えているのか。

 常識にとらわれない考えを持っている人だとは理解しているが、俺はこの人についても知らない事が多すぎる。


「愛さんはどうしたいのですか?」

「私? 私は楓に後を継いでほしい。それを支えてあげるのが、私にはふさわしいと思ってるから」

 ……やっぱりそこは変わらないか。

「でもね、佳織ちゃんにも紫之宮のグループの一員になってほしい」

 ここで初めて、愛さんが花宮の名前を出した。

 なら、俺もこれからは名前で呼ぼう。


「なんで花宮に入ってほしいんです?」

「会ったことはないとは言え、従妹に当たる子だからね。やっぱり気になるのよ」


 ふむ……。

 花宮の為を思うなら、愛さんと会わせておいた方がいいな……。

 愛さんは俺からしても、優しいお姉さんって感じだ。

 花宮にとって、甘えられる相手が居るという事は良いことだと思う。


「愛さん、花宮と会ってみませんか?」

「え……?」

 俺の言葉に戸惑う愛さんに対して、俺は笑顔を向けるのだった――。





「何よ急に呼び出して……。てか、クロヤン今日学校サボったでしょ?」

 文句を言いながらファミレスに入ってきた花宮を迎えに、俺は席をたった。

「会わないといけなかった人がいたからな。こっちに来てくれるか?」

 俺は花宮を、愛さんの前まで連れて行く。


「誰、この綺麗な女の人?」

 花宮は不思議そうな顔をして、首をかしげる。

 流石の花宮でも、愛さんの事は知らないか。


「初めまして、紫之宮愛です」

 そう言って愛さんが頭を下げると、花宮の顔色が変わる。

「紫之宮……」

 そう呟くと、あからさまに愛さんの方を睨む。


「まぁ、落ち着けよ」

 俺はそんな花宮の肩に手を置く。


「クロヤンどういうつもり?」

 今度は、俺に敵意を向けてくる。

「安心しろ。この人は敵じゃない。お前を助けてくれる側の人間だ」

「でも、紫之宮って……」

「そう、紫之宮先輩のお姉さんであり、後継ぎ争いの後継者の一人だ。でも、彼女はお前同様、後継ぎになろうとは考えていない」

「そんなのわからないでしょ!?」


 う~ん、やはり冷静さを欠いたか。

 だが、ここを乗り切らねば俺の計画に支障をきたす。

「愛さんは優しい人だ、それは俺が保証する。お前を呼んだのも彼女を紹介するためだ」

 俺がそう言って、花宮の手を握る。

 驚いた花宮は、俺の目を見てきた。

 俺が真剣な目で見つめ返すと、花宮は黙って席に着く。


「佳織ちゃんとこうやって話をするのは、初めてだね」

 愛さんが笑顔で話しかけると、花宮はムスッとした顔で頷く。


 ちなみに――繋いでいる手を放そうとすると、花宮がギュッと握ってくるため離せない。

 どうやら、まだ愛さんの事をかなり警戒しているようだ。

 愛さんはそんな俺と花宮の事を、興味深げに見ている。


 そりゃあ、そうだろうな。

 今の花宮は、俺に頼り切ってしまっている。

 学校で見せていた花宮の面影は全くない。

「花宮、この人が従姉にあたることは知っているな?」

 俺の問いかけに、花宮はコクン――っと頷く。


「愛さんが協力してくれなければ、少なくとも花宮は今の家族の元から離され、紫之宮家に入らなければならない」


「それは嫌!!」

 花宮が突然大きな声を出したため、周りの客がこちらを見た。

 俺は周りの人達に頭を下げる。


「そこまで嫌がられると、複雑な気持ちになっちゃうな~」

 愛さんは苦笑いしている。


「クロヤン知ってるでしょ!? 私やっと今の生活を手に入れたの! それを手放したくない!」

 花宮は必死だった。

「なら、今自分がすべき事がわかるな?」

 花宮はまたコクン――っと頷くと、愛さんの前に姿勢を正した。

 この子は頭が良い。

 そもそもあんなに多くの情報を集め吟味することが出来るんだ。

 支えてあげれば、この子は戦える。

 その過程で、愛さんとは段々仲良くなってくれればいい。


「とりあえず、この集まりを週一くらいで行いたいんですが、愛さんは大丈夫ですか?」

「うん、なんとか時間は作るわ」

「それじゃあ、愛さんの都合に合わせて集まりましょう」


「私の都合は無視?」

 花宮はふくれっ面でこちらを見上げる。

「花宮はうまく時間を作ってくれるだろ? 無理そうなら、その時は合わせるさ」

「あっそ」

 そう言うとプイっと横を向いてしまった。


「それで龍君、作戦を聞こうかしら」

 拗ねる花宮を横目に、愛さんが俺の方を見てきた。


「まず、愛さん側のグループを全員味方につけます」

「一番味方になってくれそうだから?」

「そうです。その人たちは、多分愛さんの能力を買ってくれている方達ですよね? トップである愛さんがきちんと説得すれば、味方になってくれるはずです」

「なるほどね……。一番難易度が低いのは確かね。でも、本当に素直に応じてくれるかしら?」

「愛さんなら大丈夫だと思っています。その時に、紫之宮先輩が優秀だと理解させる必要はありますが、その辺は僕に任せてください」


「私はどうすればいいの?」

 俺と愛さんの話に、遠慮しがちだが花宮も加わる。

「花宮は信じて待っててくれ」

「え、なんで?」

「自分でわかってるんだろ? 今花宮にできることはないんだよ。お前が作戦の主導権を俺に任せてるのが、その証拠だろ?」

 俺の言葉に花宮はむくれる。

 ……この子すぐに顔に出すな。

 まるで加奈みたいだ。

 学校ではあんなにも仮面をかぶってるのにな……。


「花宮の持ち味は、情報収集力と情報を吟味する力だ。だかそれは、相手が企業になるとまだ学生でしかない花宮には無理だろ?」

「うん……」

「そんな気にすることはないよ。花宮が社会人になった時は、その力は大きく活きるからさ」

 俺は笑顔で花宮に告げる。

 すると、花宮は笑顔を返してきた。


「龍君がそこまで気にかけている彼女の能力は、気になるな」

 愛さんがそう呟く。

「彼女が社会人になる時は、他に逃がさない事をお勧めしますよ」

 俺が愛さんにそう言うと、花宮は驚いていた。

 俺にそこまで評価されているとは思ってなかったのかな?


「そっか、じゃあ、龍君と佳織ちゃんは私の会社に来てね」

 愛さんはそう言うと、花宮に名刺を渡す。

 その笑顔を見るに、満更冗談でもないみたいだ。

 花宮は目をパチパチしながら、その名刺を受け取る。


 しかし――この花宮という女の子は面白い。

 クラスの女子達のリーダーを務める女子かと思えば、裏で動くかなりの策士で、不気味な笑みを浮かべる奴にもなる。

 でも、そんな花宮も今はただの気弱な女の子だ。

 ……多分――周りを幸せにするために、頑張ってリーダーをしているんだろうな。

 ただ心配なのは、あの不気味な笑みを浮かべる花宮の面が出た時だ。

 あれは演技ではなく、花宮の心の闇が作り出しているものだ。

 あの笑みを浮かべる花宮は、正直怖い。


「――でも、龍君も隅に置けないね。楓に、加奈ちゃんに、夕美ちゃん、それに佳織ちゃんまでだなんて」

「え?」

「ですよねー、クロヤン他にも仲良しの女の子いっぱい居るんですよー」

 愛さんと花宮は、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

「もうその話は結構です! 一年生から凄い目で見られてるんですから!」

 そう、今一年生の中では、俺は絶賛女たらしだという事で噂になっているのだ。

 ――次から次へと彼女を変える、最低男だと……。

 必要があったとはいえ、華恋ちゃんと恋人のふりをしたのが、それを決定づけてしまったらしい。

 元々紫之宮先輩と付き合っている噂があったのに、相変わらず加奈や夕美と一緒に居るし、それなのに華恋ちゃんと付き合ってるってんだから、周りがそう見るのも当然と言えば当然なのだが……。

 最近では二年、三年にも噂が広がりだして、凄く居心地が悪い状態だ。

 しかも、噂には尾ひれ背びれがついてる状態だ。

 例えば――俺がヤリ捨てで女を変えてるとかだ。

 一緒のベッドで寝ていたなんて噂も流れているが、加奈が俺のベッドで寝たりしてるのは本当だし、完全に嘘とも言えないのがつらいな……。

 そして、この噂が流れるきっかけを作ったのは、このみらしい。

 ただ、本人に聞いてみると、こんな場面を見てしまったとか、俺の作戦を確実なものにするために、付き合ってる噂を流したとか、そんな感じだったため、悪意がないので注意しづらい。

 花宮は『本当に悪意がなかったの?』と疑ってはいるが、このみに限ってそれはないだろう。

 ――なんにせよ、問題は山積みだな。

 俺は深いため息をつきながら、今日の話し合いの終わりを告げるのだった――。


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