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2話「桐沢学園の太陽と月、現る」

 桜井の誕生日にご飯を作ってからは――約束通り、毎日一緒に俺達はご飯を食べるようになっていた。

 晩御飯を毎日一緒に食べて仲良くなっていた俺達は、桜井の提案により、下の名前で呼び合うようになった。

 それから月日が流れて――中学卒業を控えている時に、急遽加奈の父親が、海外に数年の長期出張に行くことが決まった。

 元々一人暮らしになれており、日本を離れたくなかった加奈は、両親について行かずに日本に残ることを決めた。

 その際に加奈が両親に『これから通う学園の近くに住みたい』とお願いをしたことにより、加奈の両親は住んでいたマンションを売り、加奈のためにアパートの一室を新たに借りる事を決めたのだった。

 加奈が新たに住むことに決めたアパートは、俺と同じアパートで、しかも、隣の部屋だった。

 加奈曰く――

「通学が楽だし、毎日一緒にご飯食べるなら、こっちのほうが便利だから」

 という事らしい。

 そうして高校一年生の終わりを迎える今に至るまで――そんな生活をしているうちに、お互い相手の事を兄妹みたいに思うようになっていたのだった。





 終業式を明日に控えた昼休み――突然一年生の廊下がざわめきだした。

 何事かと気になった俺が廊下を覗いてみると――一年生たちによる人混みが出来ていた。

 どうやら人混みの中心にはポニーテールの女子と、ナチュラルストーレートヘアーのお嬢様っぽい女子がいるようだった。 

 状況がつかめていない俺に、加奈が声をかけてきた。

「桐沢学園の太陽と月が、一年生の廊下に来たんだよ」

「桐沢学園の太陽と月?」

 俺は加奈の言葉の意味がわからず、首をかしげる。

「え? 龍知らないの? 生徒会長と副会長の事だよ?」

「なんでその二人が太陽と月なんだよ?」

「だって、生徒会長は――スポーツ万能、頭脳明晰、おまけに容姿端麗で明るく優しいから、まるで学園を暖かく照らす『太陽』みたいって事で、桐沢学園の太陽と呼ばれているんだよ。副会長は――日本屈指の大手企業、紫之宮財閥会長の孫娘で、物静かな性格をしていて、知識豊富で頭がよく、モデルみたいな見た目をしているから、桐沢学園の太陽と対なす存在として、桐沢学園の月と呼ばれているんだよ。……副会長は凄く冷たくて、怖い人としても有名だけど……」

 加奈の説明を聞いて、俺は納得するが、1つだけ加奈の言ったことに訂正をする。

「紫之宮先輩は確かに冷たいかもしれないけど、優しい所もある人だよ。俺が今ここにいられるのも、あの人のおかげだしな」

と、俺は苦笑いをしながら、加奈に言った。


 そもそも、俺が今必死にバイトしているのは、借金を返すためではなく、学費と生活費をかせぐためなのだ。

 もちろん、バイト代を借金に回していないのには、理由があった――。





 父親が亡くなった当時、まだ中学二年生であった俺に手を差し伸べてくれたのが、紫之宮楓先輩だった。

 俺の父親が借金をしていた会社が、紫之宮財閥の傘下の会社だったらしく、先輩はその会社を管理していた先輩の姉から、俺の事を聞いたらしい。

 姉から話を聞いた先輩は、俺のもとを訪れてある提案をした。

「もしあなたに覚悟があるなら、私の出す条件をのみなさい。そうすれば、あなたの借金を、あなたが就職して返せるようになるまで、利子なしで借金を待ってもらうように、姉に頼んであげる」

 俺は彼女の持つ身分証明書を確認し、彼女が紫之宮財閥会長の孫娘で、嘘をついていないことを確認してから口を開いた。


「その条件とは?」

「あなたが今関わっている人間全員と縁を切りなさい。そして、私の眼が届くところで生活をしなさい。それさえ守ってくれればいいわ」


 俺に選択肢はなかった。

 頼れる親戚のいない俺とこのみが、これからまともに生きていくにはこの人の条件をのむしかない。

 しかし、紫之宮さんの思惑がわからなかった。


「なぜそのようなことを?」

 紫之宮さんが何か企んでいると思い、俺は紫之宮さんの事を警戒していた。

「別に……これくらいの事が出来る覚悟もない人間なら、助ける必要がないからよ。そもそも、今あなたに借金を背負わせた所で、お金は絶対回収できないから、むしろこっちの方が回収するなら現実的って、部分もあるし」


 ――後に聞いた事だが、この時の先輩が言っていることは嘘ではないが、もう一つ理由があった。

 それは、優秀な人間が孤独となった場合、どのような道を歩むのかという観察のためだ。

 先輩は俺に接触する前に、あらかじめ俺の素性を探っていた。

 その結果、俺は周りの人間からは、しっかりしていて優秀な人間として見られているという事を確認し、行動に移したのだった。

「周りの人たちには、あなたの口から上手く誤魔化しておいて。もちろん、私との取引の事は内緒にしてね」

 終始冷たい表情をしたまま、俺に話しかけていた紫之宮さんに対して、俺は不思議な感情を抱くのだった。

 それ以降、俺は先輩に月一回、食事に誘われるようになっていた。

 



「――こんにちは、黒柳君」

 俺が先輩との出会いの事を思い出していると、不意に声をかけられた。

 声のする方を向くと、そこには生徒会長の白川唯今先輩と、副会長の紫之宮先輩が立っていた。

 どうやら、二人の目的は俺だったようだ。

「こんにちは先輩方。何か御用ですか?」

 俺は初めて話す生徒会長と、普段学校では会話を交わさない紫之宮先輩が、俺に会いに来たということを疑問に思った。


「黒柳君にお願いがあってきたんだけど、ちょっといいかな?」

 そう言って、白川先輩は俺の顔を覗き込んできた。

近い……。


 白川会長に顔を覗きこまれて恥ずかしくなった俺は、顔をそむけてしまう。

やっぱり、会長は凄く可愛いな……。


「おねがいってなんですか?」

俺は自分の考えてることを悟られる前に、こちらから話を切り出した。


「この前の会議で決まった事なんだけど、来年度は有志を集めて、桐沢学園生徒の悩みを聞いたり、解決したりする、生徒会直属の委員を立ち上げることになったの。そしてその委員長を、黒柳君がしてくれないかな?」

「え……なんで俺なんですか? 俺よりも、普段から相談事に乗ったりしている奴の方がいいと思うんですが?」

 いきなりの提案に、俺は拒絶の態度を示した。

「黒柳君は普段から困っている人を見かけたら手助けをしているって、他の子や先生方から聞いたの。それにうちの副会長から、君の話はよく聞いていたんだよね。だからあなたに任せてみたいと思ったんだけど、ダメかな?」

 白川会長は、上目遣いで俺の顔を見てきた。

「すみませんが俺は毎日バイトで忙しいので、そんなことをしている暇はありませんので……」

 俺は悪いと思いながら、そう答えた。


「――引き受けてくれないと、こちらとしても困るんだけど……」

 と、めんどくさそうな顔をした紫之宮先輩が、話に入ってきた。

「紫之宮先輩……」

 俺は困ってしまい、視線をそらしてしまう。

 すると、紫之宮先輩が俺に耳打ちをしてきた。

「あなたの状況はわかっているし、バイトが大切なのもわかるけど、私のお願い聞いてくれないの?」

 その言葉は、一種の脅しの様な物だった。

 紫之宮先輩に大きな借りがある俺にとって、紫之宮先輩の頼みはそうそう断れるものではない。


 それに俺は今までいろいろと、紫之宮先輩からの頼まれごとを引き受けていたので、紫之宮先輩が脅し風に言ってくる時は、本当に困っている時なのだという事をわかっていた。


「わかりました……バイト先に相談してみます」

 結局、俺は了承してしまった。

「ちょっ……ちょっと龍! 本当にいいの!?」

 俺達の話を横で聞いていた加奈が、驚いた様子で会話に入ってきた。

「仕方ないさ、なんとかしてみる」

 俺は苦笑いをしながら、加奈にそう答えた。


「ありがと~。それじゃあ詳しい説明は、明日の終業式が終わった後にするから、ホームルームが終わったら生徒会室にきてね」

 そう言うと、白川会長と紫之宮先輩は帰っていった。


 会長達の姿が見えなくなると――

「龍の女ったらし」

 と、加奈が俺の方をジト目で見ていた。

「なんでそうなるんだよ?」

「だって、紫之宮先輩が龍に耳打ちしただけで、すぐOKしたじゃん。絶対、先輩の色気にやられたんだ~」


加奈は、完全に拗ねてしまっていた。

ただ、涙目の加奈は凄くかわいい……。

しかし、このまま怒らせておくわけにはいかないよな……。


「違うよ。紫之宮先輩には恩があるから、仕方なく引き受けただけだ」

 そんな俺の弁解の言葉は、加奈の耳には入らなかったようで、加奈はしらんぷりして教室に入って行ってしまった。


 すると――

「黒柳……お前、何先輩達と仲良く話していたんだよ~!」

 と、遠巻きに見ていた男子達に絡まれてしまい、俺は『散々な一日だ』と思うのであった。





 次の日――ホームルームが終わった後、俺は約束通り生徒会室に向かった。

 そこには白川会長と紫之宮先輩、それに他の生徒会メンバー三人が、事務仕事をしていた。

「来てくれてありがとう。まず最初に、黒柳君はなんでこの委員を立ち上げる事になったか、わかる?」

 白川会長は、笑顔で俺に尋ねてきた。


「悩みを抱える生徒が多く、生徒会では対応しきれなくなったからですか?」

 俺は少し考えて、そう答えた。

 それに対して白川会長は――

「半分正解かな? 悩みを抱えている生徒が多いというのは事実なの。でも、生徒会メンバーが対応しきれていないわけではないわ。そもそも、生徒会にはそういう悩み相談が来ないの。多分――生徒会に相談しづらいんだと思うわ」

 と、残念そうに語った。


「待ってください。生徒会に相談しづらいのに、自分達に相談に来てくれるとは考えづらいのですが」

「そうでしょうね。悩み相談の委員が新しく出来たと聞いて、素直に相談にきてくれればいいけど……中々来てくれる子は少ないと思うわ。だからまず最初にあなた達にしてほしい事は、生徒達が悩み相談に来やすい雰囲気を作ってもらうことよ。そうすれば、後は次第に悩み相談をしにくる生徒が、増えていくと思うの」

 そんな難しいことを笑顔で言う白川会長に対して、俺は『この人、天使の皮を被った鬼だろ……』と、思うのだった。


「一つ質問なのですが、この委員を設立する提案をされたのは、生徒会ですか?」

「そうよ。正確には私が提案したんだけど」

 白川会長が、また笑顔を浮かべている。

「どうして先輩はそんな提案を? そもそも生徒会は、目安箱という悩み相談を受け入れる体制を作っていたはずです。それが上手く機能していないのなら、対策案を考えるべきではないですか? それに、悩みを抱えている本人が相談しないのなら、無理にかかわる必要もないと思うのですが」

 俺は別に、この委員に入るのが嫌でそんな質問をしているわけではない。

 ただ、なにか問題があったなら、参考に出来る事があるかもしれない、という理由で知りたかったのだ。


「確かに、今となっては目安箱は全く利用されていないわ。そこで私たちの出した答えは、紙で悩み相談を受け付けるより、直接聞く体制にした方が、もしかしたら相談しやすいのではないかと考えたの。そして直接話をするとなると、生徒会メンバーだと相手に威圧感をあたえたり、緊張させる可能性があるのではないか? となり、それなら一般生徒から委員を募ってみようとなったの。もう一つの質問の答えは――確かに、相手の悩みを無理矢理聞いたりするのはよくないと思うわ。しかし、聞いてほしくても言えないって人もいると思うの。私は桐沢学園の生徒には『三年間楽しかった。この学校に入学してよかった』と思って、卒業してもらいたいの。だから、悩みがあるのなら解決してあげたい……学園生活に未練を残してほしくないの」


 気が付くと、白川会長は真剣な表情をしていた。

「黒柳君には、大変な思いをしてもらう事になるわ。でも、私たちも傍観を決め込むつもりはないから。何かあればいつでも相談にのるし、手助けもするわ」

 相変わらず冷たくではあるが、紫之宮先輩がそう言い、生徒会メンバー全員が頷くのだった。


 話が終わり生徒会室を出た俺は――『メンバー決めは黒柳君に一任するから、がんばってね』と言われており、メンバーをどうするかと、頭を悩ませながらバイト先に向かうのだった。


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