18話「不適な笑み」
次の日から作戦を開始した俺と華恋ちゃんは、休み時間の度に一緒にいるようになり、瞬く間に学年中の噂になった。
俺達は他愛のない話をしたり、授業の内容で華恋ちゃんがわからないところがあれば、俺が教えるといった感じで過ごしていた。
はじめのうちは驚いていた華恋ちゃんのクラスメイト達も、元々俺達が仲良かった事を知るクラスメイトから話を聞き、俺達二人は付き合いだしたのだと結論付けた。
それから数日間、華恋ちゃんの側にいた俺は、華恋ちゃんのクラスメイトの中に、俺と1年生の時同じクラスだった子が数人居たので、たまにその子達に話題をふって華恋ちゃんと話をさせたりしながら、この状況をよく思っていないであろう、花宮さん達の事を観察していた。
案の定彼女達は、自分達の呼び出しを無視する華恋ちゃんの事を睨んでいた。
そして、その邪魔をする俺のことも。
しかし、俺はおかしなことに気づいていた。
華恋ちゃんを苛めているグループの中で、花宮さんだけは何故か笑顔なのだ。
俺はそのことを気にしつつも、華恋ちゃんに話しかける。
段々と笑顔を見せるようになった華恋ちゃんは、周りから見ても可愛く見えるようで、今では華恋ちゃんと会話したくて、俺達の話に入ってくる子が増えてきた。
華恋ちゃんも人見知りが激しいだけで、会話を交わしていくうちに段々とクラスメイト達とも話せるようになっていた。
俺が華恋ちゃんのクラスに通うようになった、もう1つの理由がこれだ。
人見知りが激しいだけで、本当は可愛い華恋ちゃんの事をクラスメイト達が知れば、たちまちクラスの人気者になると思っていた。
そうすれば、花宮さん達がうかつに手を出せなくなる。
俺が華恋ちゃんのクラスに通い続けるのは、無理がある。
だからこそ、花宮さん達を俺が牽制しつつ、その間に華恋ちゃんとクラスメイト達を仲良くさせようとした。
「ねぇ、黒柳君。どうしてこっちのクラスに、急にくるようになったのかな?」
クラスメイト達と楽しそうに話してる華恋ちゃんを見守っている俺に、花宮さんが1人グループのとこを抜け、笑顔で話しかけてきた。
――その直後に、華恋ちゃんの表情が固まったのが視界に入る。
「華恋ちゃんと一緒に居たいからだけど?」
俺は笑顔で花宮さんに返す。
「ふーん、二人は付き合ってるのかな?」
「想像に任せるよ」
「あれ? でも? 黒柳君って、桜井さんと付き合ってなかったっけ? そういえば、副会長とも付き合ってるって噂を聞いたなー? 黒柳君って見た目によらず軽いんだね」
首をかしげたりしながら満面の笑みで、花宮さんは容赦なく攻撃してくる。
「俺は一言もあの二人と付き合ってるって断言した記憶はないんだがな? 勝手な憶測でものを言われても困る」
俺は呆れたように肩をすくめる。
「じゃあ、あの転校生の女の子は? 水沢さんだっけ? 確か幼なじみなんだよね? ちょっと前に喧嘩してるって話を聞いたけど、この前一緒に仲良く歩いてるの見たんだよねー。あの子とも付き合ってなかったの?」
その言葉に俺の表情は固くなる。
俺達が喧嘩してる事も幼なじみだってことも、誰かに聞けばわかることだ。
しかし――幼なじみの事はともかく、喧嘩をしていることは噂になることはなく、他のクラスである花宮さんが知るはずがなかった。
つまり、彼女が俺の事を調べているということだ。
ただ、それ自体は予想できていた範囲なので問題はない、問題なのは花宮さんの話題の選び方だ。
明らかに、俺が気にしているであろう内容ばかりを選んでいた。
そしてそれがわざとだということは、俺の表情が固くなった瞬間に、ニヤっと意地悪な表情を見せたのが証拠だ。
「夕美はただの幼なじみだよ。幼なじみが仲が良い事は珍しくないだろ?」
「そっかそっかー、ただの幼なじみかー。あんなに可愛い子達が周りにいて、如月さんを選んだわけかー」
そう言って、花宮さんは華恋ちゃんの事をジッと見つめる。
一瞬視線が花宮さんと交わった華恋ちゃんは、すぐに下を向いてしまった。
それで、花宮さんは確信をもったようだ。
そして、俺の耳元まで顔を寄せてきた。
「付き合ってる独特の雰囲気が二人にはないなー。残念だけど、そんな演技じゃあ私の目は誤魔化せないよ? 牽制のつもりならもっと上手くやらないと」
そう言って、離れた花宮さんは、ニコっと可愛らしい笑顔を浮かべてグループの元にもどっていった。
その放課後、華恋ちゃんは呼び出されなかったらしい。
その代わりに、俺の下駄箱に手紙が入っていた。
もちろん、その手紙は花宮さんからだ。
『二人っきりで話したいから、黒柳君のバイトが終わる頃に、喫茶店さくらにお邪魔します』
と手紙には書かれていた――。







