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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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14話「知らず知らず広がっていくヒビ割れ」

 ――喫茶店に入った俺達は、店内の奥の席に座っていた。

「本当に春川選手に会えて感激です! というか黒柳先輩……なんで春川選手と知り合いだって、教えてくれなかったんですか?」

 ももちゃんは俺の事をジッと睨むように見てくる。

「いや、有名人らしかったから、あまり知り合いだって言いふらさない方が良いのかと思ったんだよ」

 俺は苦笑いしながら、そう誤魔化した。


「むぅ……まぁ、仕方ないですね」

 ももちゃんはちょっと不満そうではあったが、納得したようだった。

 そして、満面の笑みで春川さんの方を振り向く。

「春川選手、最近大活躍ですね! この前の試合も、アシスト二回と一点決めていましたね!」

 アシストとは――味方選手がゴールを決める事につながったパスを出す事をいう。

「ありがとう。でも、私はまだまだだよ。今のままだと、海外のトップ選手には通用しないから」

 春川さんは謙遜するが、現在の日本女子サッカーのレベルは、世界トップクラスだ。

 その日本代表のトップ下を務めあげている春川さんのレベルは、かなり高いであろう。

「その歳で世界を見据えているなんて、凄いですよ! 私なんて、部活のレギュラーになれるかどうかといった感じなのに……」

 さっきまで元気だったももちゃんが、急に大人しくなってしまう。

 俺は二人の話に割り込むのも悪いと思って、黙って話を聞いていただけだったが、急に静かになったももちゃんに声をかける。

「ももちゃん、どうかしたのか?」

「な、なんでもないです!」

 ももちゃんは俺に声をかけられて、ハッとしたように慌てている。

 その様子を見ていた春川さんが、優しい瞳でももちゃんの事を見ていた。

 ももちゃんが考えていることを、春川さんにはわかっているみたいだ。

 目標としている春川さんと、現在の自分の立ち位置の違いに、ももちゃんは落ち込んでいるのかもしれない。


「柊さんは黒柳君と仲が良いみたいだけど、黒柳君の事が好きなのかな?」

 突然春川さんは、全く関係の無い質問をももちゃんにしていた。

 暗い雰囲気になったから、雰囲気を変えようとしたのかもしれない。

 しかし、その話題はどうなのだろうか……?


 春川さん質問に、ももちゃんは笑って否定する。

「違いますよ。黒柳先輩の妹さんと仲が良いから、黒柳先輩にも絡んでるだけですよ。というか私、男子に興味ないんで」

 ももちゃんはニコッと可愛らしく笑う。

 男子に興味ない?

 それって……。

 俺はももちゃんの発言に疑問を持ったが、あまり考えると怖い結論が出そうだったので、俺は考えるのをやめた。

「それより春川選手こそ、黒柳先輩とデートしてたって事は、やっぱりそういうことじゃないですか?」

 ももちゃんの言葉に、春川さんは顔を赤くする。


「だから、デートじゃないって」

 俺は、ももちゃんの頭に軽くゲンコツをする。

 からかわれて真っ赤になっている春川さんが可哀想だったため、止める事にしたのだ。


「痛っ! 先輩暴力! 暴力ですよ!」

 ももちゃんは顔をプクーっと膨らませて、俺の胸をポカポカと叩いてきた。

 そんなももちゃんを、俺と春川さんは笑いながら見ていた。


「あれ、龍?」


「え……?」

 俺が振り向くと、そこには夕美、このみ、加奈、そして何故か、紫之宮先輩と白川会長の姿があった。


「あ、このみちゃんだ!」

「わ、ももちゃん、苦しいよ」

 このみを見つけたももちゃんは、すぐさま抱きついていた。

 そんな姿を横目に、俺は冷や汗をかく。

 なぜなら、夕美、加奈、紫之宮先輩の三人が、物凄いプレッシャーを放っていたからだ。


「また新しい女の子……」

 加奈の頬は、フグのように膨れ上がっていた。


「これは浮気かしら……?」

 紫之宮先輩は笑顔で首をかしげていた。


 笑顔……顔では笑っていても、心では笑っていないことが凄く伝わってくる笑顔だ。

 あ、やっぱりこの人、夕美と凄く似ている……。


 いや、というか浮気って、俺らそもそも付き合ってないですよ!?

 俺は心の中で紫之宮先輩に対して突っ込むが、怖いので言葉には出せなかった。

 そして、俺が夕美の顔を見ると、夕美の目から涙が流れたのが見えた。


「ごめん、私もう帰るね」

 夕美は俺達に顔を隠すようにして、店を出て行った。


 え……?

 今、夕美泣いてたのか?

 なんでだ?


 ――いや、そんなことよりも追いかけないと!


 俺はみんなに『ごめん』と告げて、すぐに夕美の後を追いかけた。


「え? え? 待ってよ、黒柳君!」

 春川さんの呼び声が聞こえたが、俺は振り向く余裕がなかった。





「――待てよ、夕美!」

 ようやく夕美に追いついた俺は、夕美の肩を掴んだ。

「離してよ!」

 夕美は俺の手を払い、俺の事を睨んでくる。

 その瞳は、涙と憎しみの感情で溢れていた。


「何をそんなに怒っているんだよ?」

 俺は夕美がどうしてこんな状態になっているのか、理解出来なかった。

 元々黙っていなくなった俺に対して怒っていた夕美ではあったが、冷たく接してきていたとはいえ、どこか優しさは残った接し方をしてきていたため、ここまで怒っているとは思わなかったのだ。


「なんで怒ってる……? なんでだと思う……? 私、これでも今まで我慢してたんだよ? 時間がたてば昔みたいに仲良くできるかなって。でも、龍は昔の約束の事なんて忘れて、次から次へと新しい女の子と仲良くしてる……。挙句の果てに、私とこのみとはもう全然遊ばなくなった。何度私を裏切れば気が済むの……? どうせ、もう約束の事思い出せないのでしょ? それならもうほっといてよ……」


 それは、決して怒鳴りちらされたわけではない。

 夕美らしく、静かに発せられた言葉だった。

 しかし、その言葉が俺の胸に突き刺さり、俺は夕美の後を追うことができなかった。


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