10話「段々芽生え始める恋心」
――桜が舞う道の中を歩く、二つの影がある。
俺と生徒会長である、白川会長の姿だった。
俺は『生徒会が人手不足だから、手伝ってほしい』と頼まれて、現在学校近くにある桜街道を下見に来ていた。
会長が言うには、新入生達が早く学校になじめるように、1年生から3年生までの全校生徒を集めて、花見を計画しているそうだ。
だが、桜が散るまでの残り時間が少ない為、間に合うように急いで、計画を立てている最中であった。
「そういえば、黒柳君って、楓と付き合ってるの?」
桜街道のスペース確認をしている最中に、会長が今話題の噂を確認してきた。
「そんなわけないでしょう。あれは勝手に噂になってるだけですし、紫之宮先輩に聞いたらいいじゃないですか」
俺はまたこの話題かと、嫌になっていた。
「もちろん楓に聞いたけど、別に否定しなかったし、満更でもなさそうだったから」
会長はニコニコと、俺の顔を覗き込んでくる。
……先輩はこの噂を流して何を企んでいるんだ……?
俺は紫之宮先輩が何を考えているのかがわからなかったが、裏がある事だけは確信していた。
「――あ、黒柳君。ここをステージにしたらどうかな?」
会長がさしていたのは、他の場所に比べれば少し高くなっている、広いスペースだった。
「良いですね。ここにステージを作って、後は有志を集めれば、盛り上げとしては十分だと思います」
俺も会長の意見に同意し、これで今日の下見は全て終わった。
2
――帰り道、俺は気になっていたことを、会長に聞いてみた。
「そういえば、会長と紫之宮先輩って仲が良いみたいですけど、昔からの知り合いなんですか?」
俺の質問に、会長は首を横に振った。
「ううん、楓とは高校からだよ。ここだけの話なんだけど、入学した頃の楓って、クラスから浮いてたの。基本他人に厳しいし、あの日本屈指の財閥の娘だから、みんな距離をとってたんだ」
「まぁ、なんとなくわかりますね」
俺の言葉に、会長は苦笑いを浮かべて話を続ける。
「私はそんな楓の事がほっておけなくて、話しかけたんだ。最初は凄く怖かったんだよ? 何に対しても楓は辛辣にしか返してくれなかったから。でも、幸い学校のテストでは、お互い毎回学年1位と2位だったから、それで話が合って段々上手くいくようになったんだ」
会長はやっぱり、昔から面倒見が良い人なんだな……。
だが、俺がそう考えていると、会長の顔が曇った。
「でも、仲良くやっていけてるなって思ってたら、楓の事を嫌っている人達が、私に楓と関わるなって言ってきたの。私が『そんなの嫌』と返したら、彼女たちは私をいじめの標的としてきたわ。財閥の娘である楓に手を出せない代わりに、私に嫌がらせをしてたって感じね」
「そんな……会長がいじめられていたなんて想像できません……」
俺は会長の辛そうな表情に、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「私ってそこまで強くないよ? 当時だって、学校に来るのも嫌になってたんだから」
会長が無理に笑おうとしているのが、俺にはわかった。
「会長はそれからどうしたんですか?」
「私がいじめられてることに気づいた楓が、彼女たちをとめてくれたの。何を言ったのかはわからないけど、次の日から彼女たちは楓を見るたびに怯えてたわね」
と、会長は笑うが、俺は笑顔で同級生達を脅している先輩を想像してしまった。
「まぁ、それから楓は私から離れなくなって、いつの間にか仲良くなっていた感じかな」
「なんか二人にしては、意外な出来事があったんですね」
俺はどう言っていいのかわからず、そう返すのが精一杯だった。
学校までの帰り道、俺はずっと会長と、紫之宮先輩の過去の話を聞くのだった。
3
俺達が生徒会室に戻ると、紫之宮先輩が事務仕事をしていた。
先ほど、会長から先輩との出来事を聞いた俺は、もっと先輩の事を知りたいと思った。
「何をジッとこっちを見てるのよ? 暇なら仕事を手伝ってよ」
相変わらず、俺に対する先輩の態度はきつかった。
「あ、すみません。今日はもうこれで失礼します」
俺が頭を下げて部屋からでていこうとすると――
「せっかく手伝ってくれたのだから、お茶でも飲んでいきなさいよ」
と、先輩はコップにお茶を入れて、先輩の席の横にある机の上においた。
俺はせっかく入れてもらったのだからという事で、先輩の隣に座りお茶を飲んだ。
――結局、お茶を飲みながら先輩の手伝いをしていると、先輩のスマホに着信が来た。
「――もしもし、なんでしょうかお父様?」
どうやら、電話の相手は先輩の父親の様だ。
あまり盗み聞きは良くない――と、俺は資料作成に集中するが、突然先輩が大声を出した。
「いい加減にしてください! お見合いは何度もしないと言ったではありませんか! 私には彼氏がいると!」
その言葉に、俺は察しがついた。
紫之宮先輩はお見合いを断るために、自分との噂を利用していたのだと。
そのことがわかった途端、俺は自分が落ち込んでいる事に気づいた。
そして、先輩が電話を切る前に、荷物を持ちコッソリと生徒会室から出て行ったのだった。
4
――私が資料整理をしながら、楓と黒柳君を見ていると、黒柳君が黙って出て行っちゃった。
あ~あ……黒柳君傷ついちゃったみたいだね……。
楓ももう少し気を付けたらいいのにな~……。
彼、絶対誤解しちゃったと思う……。
「あれ? 黒柳君は?」
電話を切り、黒柳君が居なくなっていることに気づいた楓が、私に尋ねてきた。
「黒柳君、帰っちゃったよ」
「そう、折角だから、もう少し居てくれたらよかったのに……」
黒柳君が帰って残念そうにしている楓に対して、私は黒柳君が帰った理由は言えないと思い、作業に戻ることにしたのだった。







