約束、果たしに来ました
「絶対!!絶対だからな!!約束だからな!!」
「うん!!絶対、約束する」
ごく普通な二階建て一軒家の前で大人たちに見守られながら小指を交わせる
片方は黒髪短髪で活発そうな如何にもわんぱくそうな男の子
もう片方は柔らかそうなふわふわとしたくせっ毛を肩口まで伸ばした大人しそうな女の子
揃ってボロボロと大粒の涙を溢しながら二人は約束する
「絶対だからな!!破ったら針千本じゃ済まさないぞ!!」
「うん、絶対!!絶対また、遊ぼうね」
もうすぐ小学生になろうかと言う頃、幼稚園に入る前から親が親友同士と言うのもあって仲良くなっていた二人は双方の親が転勤するという形で離ればなれになってしまうことになってしまっていた
男の子の方はアメリカはニューヨークへ、女の子の方は今いる地方都市から東京へ
片方の転勤だけでもまるで兄妹の様に仲の良かった二人は離れてしまうと言うのに、男の子の方は外国に移り住むとなっては会う事だってそう簡単ではないだろう
それでも子供ながらに彼らは絶対だと約束を交える
「またね!!」
「おうっ!!」
また、会おうね
そう二人は約束したのだった
「ふぅ……、流石に13時間のフライトは疲れるな」
ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港から東京。羽田空港までの約13時間のフライトを終え、少年は一人で一息つくようにどっかりと空港内に設置されているベンチへと腰を下ろす
不潔さを感じさせない短髪の黒髪、少年から大人の顔つきへと変わりつつある日本人にしては彫りが深めな精悍な顔立ち
180㎝という大人顔負けの体躯にアメリカのベースボールで鍛えられた筋肉と健康的に焼けた肌をした少年はごくごくと喉を鳴らして自販機で購入したミネラルウォーターを一気飲みする
「日本の水は美味いな、あっちより舌に合う。さて、と」
少年は時間を確認してそろそろ迎えが来る頃かな、と小休止も程々に立ち上がり幾つもある荷物を背負い迎えを待つことにする
自分がそれなりに目立つ容姿と背格好であることを向こうで理解している少年はこうしてもらった方が迎えの人も探しやすいことを知っていた
「いたいた!!弘毅く~ん!!」
その経験はすぐに活かされたようで、自分の名前を呼ぶ声に振り向くと11年ぶりに会うと言うのに記憶に残る印象をほぼそのままにした妙齢の女性が駆け足で近づいて来ている
その呼び声に応じ、軽く手を振ると女性は更に足を速めてズンズンと弘毅の前へとやって来た
「お久しぶりです、おばさん」
「あらやだおばさんなんて言わないで頂戴な。前みたいに美姫ママで良いのよ?それにしても10年近く見ないうちに立派になっちゃって」
「身体ばっかデカくなっちゃいまして、やっぱ向こうの食べ物の影響ですかね」
バシバシと背中を叩く女性に照れ笑いしながら、歓待を受ける弘毅はそうそうこういう人だったと記憶から彫り上げた印象が変わらないと実感する
美姫ママと自分を呼んだ女性はかつてお互いの両親の転勤で離ればなれになった女の子の母親だ
毛先がくるッと丸まったくせっけと柔らかな髪質はその子供の少女にそっくりだったのを今でも覚えている
「ささ、長い間飛行機に乗ってて疲れたでしょ?早速ウチに行きましょ、主人が外の車で待ってるわ」
「ハイ、よろしくお願いします」
そんな彼女に急かされるように背中を押されて外へと誘導される弘毅は荷物の詰まった鞄たちを背負い直して、促されるままに歩みを進める
「よろしくお願いします、おじさん」
「頼まれた。しかし大きくなったものだね、美姫なんて背が低いのを気にしているくらいなのに」
「そうよねぇ、昔は二人とも同じくらいの身長だったのに。やっぱり男の子ね」
案内されたSUV(※)タイプの自家用車のリアハッチ内に鞄を満載し、助手席に女性が運転席にはその夫の男性がスタンバイしており、弘毅は自然と助手席側の後部座席へと腰掛ける
※SUV、スポーツ用多目的車。一般的に車高が高く、大きなタイヤと積載能力の高い車内スペースを持つアウトドア向けの四輪駆動車。日本では三菱のパジェロなどが有名※
「ははは、美姫のやつ身長を気にしてるんですか」
「そうなのよ。小さくても可愛くて良いじゃないって言うんだけど本人はそれじゃあ納得いかないみたいで」
「それでも運動神経はしっかりあってね。部活こそやっていないが体育の授業では運動部の子といい勝負をしてるらしい」
「陸上部の子から勧誘がしつこいって愚痴ってたわ。諦めて入ったらって行ったんだけど本人は全然効く耳持たずにいたわね」
「勿体無いなぁ」
車内はまだ再開していない少女の話題と少年のアメリカでの暮らしぶりが交互に繰り返され、久しぶりの日本語だけでの会話に弘毅はホッと胸を撫でおろしていた
英語は暮らしていく上で必要だったし、まだ小さいことと現地で叩き上げられたこともあってネイティブに喋れるし向こうに友人は何人もいる
社交的で明るい性格だったのも幸いして10年間特にトラブルもない人間関係を紡げていたが、弘毅の中ではどうにももどかしい空虚感というか物足りなさを感じていた
だからこそ、こうして日本に帰ることを決め、両親に無理を通して日本に帰国した
「あぁ、そうそう。美姫にはまだ弘毅君が帰って来ることもなーんにも話してないからよろしくね」
「え、そうなんですか」
完全に今の今まで忘れていたのか、そうではないのか何気なく言われた一言に弘毅はきょとんとし、何故そんなことをしているのか思案する
「実はね、今日は美姫の誕生日なんだ。高校入学前の最後の誕生日だからねサプライズという訳だよ」
「えぇ、アイツ喜ぶかなぁ」
悩む弘毅に見かねてか運転するおじさんがワケを話すが弘毅は困ったように眉尻を下げるしかなかった
誕生日のサプライズに10年前に分かれた男友達がやって来るというのはちょっとキツくないだろうか
なにせ10年も離れていたのだ。自分は忘れもしなかったが、彼女の方が覚えているかはまた別の話である
それにまだ小学生にもなっていない頃だったのだ。今会ってすぐに昔の様に仲良くなれるかは別な話のような気がする
一応、エアメールでやり取りはしていたし、お互いの成長した顔も写真などを通じて知っているがやはりそれはそれ、これはこれだ
「大丈夫よ。胸張って会ってあげてちょうだい」
「はあ……」
ニコニコと笑みを崩さないおばさんとおじさんに諭されるも段々と不安になって来た弘毅はそわそわと窓の外を眺めながら、久しぶりの再会にどうするべきか頭を悩ませた
一時間半程度車に揺られていると高層マンションの前で停車し、おばさんが下りる準備をしだす
「弘毅君も此処で降りてくれるかい?駐車場がちょっと特殊でね、同伴の人はここで降りた方が都合が良いんだ」
「分かりました。荷物もまとめて持って行くんでちょっと待ってください」
弘毅も手早く降りて自分の荷物をリアハッチから取り出すと車はブロロロと音を立ててマンション内の駐車スペースへと消えて行く
「さ、こっちは先に行っちゃいましょ。弘毅君の部屋にも案内しなきゃいけないし、美姫の誕生日パーティーの準備もしなくちゃ」
「大忙しですね。手伝いますか?」
「弘毅君は自分の荷物の整理があるでしょう?明後日には向こうで使ってた大きめの荷物も届くって言うからそれまで鞄から荷物を出してまとめておくこと、足りない家具だって買いに行かなきゃならないんだから」
「ご迷惑かけてすみません……」
「良いのよ、子供の内にしか大人に頼れないんだから」
世話になりっぱなしで頭の上がらない弘毅にそれでいいのだと笑うおばさんは大人の鑑なのだろう
カッコいい大人と言うのはどの国にいても常に余裕があって笑顔を絶やさない人ばかりだなとふと思った弘毅はそれ故に背筋をピンと伸ばす
日本に帰って来るにあたって最大の障害は住む場所であった
高校生になる少年が一人親元を離れて、しかも両親は海外にいる中での一人暮らしとなると中々賃貸という訳にもいかなかった
また、弘毅本人たっての希望で済む場所は東京近郊が良いという指定があった
弘毅の両親の親族は以前住んでいた地方都市とその周辺に集中している
東京に住んでいるのはその息子娘達ばかりでみな大学生や若い社会人だ。高校生を預けるには心もとない
困った弘毅の両親は転勤で東京に移り住んでいた親友であるおじさんおばさんに東京での生活について相談すると
『ならウチに来ればいいじゃない。丁度部屋が一つ物置になっちゃってるからそこを片付ければ弘毅君くらいなら全然平気よ?』
という話になり、後はとんとん拍子で転入手続きやら諸々の手続きが済み晴れて弘毅は美姫の家へと転がり込むことへとなったのだ
つまるところ居候だ。衣食住はご厚意に甘えることになるがそれ以外において二人に迷惑をかけるのは自身の両親の顔に泥を塗る事になる
両親を尊敬している弘毅にとってそれは避けたいことだ
「ふふっ、緊張しなくたって大丈夫よ。美姫なら出掛けてるからまだ家にいないから」
「そ、そうなんですか」
などとごちゃごちゃ頭の中で考えていた弘毅だが、その実は美姫との再会が一番緊張することでそれをおばさんに見抜かれたことで耳を赤くして俯いてしまう
その若々しい仕草に美姫の母はあらあらと愉快そうに口元を緩めるがここで声を出して笑ったりからかったりしてはいけないのも承知している
お互い10年も待ったのだ、文通という少々古臭いやり方でやり取りはしていたもののそれだからこそ娘と息子の様に思っている少年の二人の仲は続いて来たのだろうと彼女は思った
同時に文通でのやり取りで家に手紙が届いた時の娘のはしゃぎようと今の弘毅の仕草を見て、二人がお互いどういった感情を芽生えさせているのかも二人の倍以上生きている大人なら簡単に察することが出来る
「これから騒がしくなりそうね」
にこやかに、小さく呟いた彼女は足取り軽やかに弘毅をマンション内へと招き入れるのだった
案内された部屋はこのマンションが15階建てなのに対し、9階の角部屋だった
都内にあり、33帖のリビング、9.8帖のダイニング、キッチンもひろびろとし、浴室とトイレとは別にユニットバスもついている
夫婦二人が過ごす主寝室も広く、綺麗に掃除されている
アメリカでは建物の土地自体が大きいため、よほどの安物件でない限りはそれなりの広さを持っているが日本でこれだけの広さを持ったマンションを借りているのは相当裕福な家の証拠である
実際、このマンションの賃料は120万との事で床等を出来るだけ汚さないようにしなければと頭に叩き込むことになる
「ここが弘毅君のお部屋ね。隣は美姫の部屋だから間違えないように」
「ハイ、ありがとうございます」
通された部屋も10帖はあるだろう子供部屋にするには十分な広さで、バルコニーを通して隣の美姫の部屋へと繋がっている
部屋へと案内した美姫の母はこれから美姫の誕生日パーティーの準備を本格的にするようで慌ただしくキッチンの方へと向かう
それを見送った弘毅は当然、家具の一つも無い部屋に入ると持ち込んだ鞄をドサドサと部屋の中央に置き、荷物の整理を始めることにする
と言っても、着替えやギリギリ機内に持ち込める物ばかりを持って来ただけなのでカバンから取り出して改めて綺麗に分類するだけだ
機内に持ち込むことが困難だったり、必要だけど持ち運ぶのには向かない物に関しては先程聞いた通り、明後日辺りに届くそうなのでそれは届いてから
しかも大体は筋トレ用のダンベル等で置き場所を決めるくらいの物ばかりだ
この部屋に足りないのは寝具を始めとした家具類だ
こればかりはアメリカから持ち込む訳にもいかないので日本で調達しなくてはならない
幸い、両親からクレジットカードを手渡されており、家具等の大きな買い物等はこれで済ませるように厳命されている
明日以降に美姫の両親に頼んで家具屋に向かって一通りそろえる必要がある
しばらくは忙しくなりそうだと思いながら弘毅は黙々と鞄から衣服を中心とした荷物を取り出し、種類別に分けて行く
「そういや、高校の制服ってどうなってるんだ……?多分日本だから制服だよな……?」
アメリカの学校は基本的に服装自由で上履き等も生活様式の関係上無い
しかしここは日本。高校生までは殆どの学校で制服や上履きが指定されており、それを身に着けて学校生活を送ることになる
今までアメリカの学校にしか馴染みが無かった弘毅にはその辺りの知識や経験が無いためどうするのかも検討が付かず、結局おばさん達に聞いてみようという当たり障りのない結論に至る
その他にもこの辺の地理や電車やバスの乗り方、通学路の確認等など思ってる以上にやることが多い事に気が付き、果たして入学までに忙しさから抜け出せるのだろうかと更に頭を悩ませるのだった
「弘毅君、良いかしら?」
「どうぞ」
持ち込んだ荷物を粗方整理し終え、一先ず何もない部屋の隅に並べてバルコニーから一望できる東京の風景を眺めていると部屋の戸がノックされ、美姫の母が顔を覗かせる
「そろそろ美姫が帰って来るからスタンバイしてもらっても良い?」
「了解です。何かするんですか?」
「後五分くらいで帰って来るらしいから玄関で出迎えてほしいのよ」
「それだけでいいんです?」
「それで充分よ」
何やら愉快そうに笑う美姫の母に首を傾げながらも、言われるがままに弘毅は玄関で美姫を待つことにする
一緒に待ってるのかと思った美姫の母はそそくさとキッチンへと引っ込んでしまうし、あと五分で美姫が帰って来ると聞いて弘毅の緊張は最高潮に達する
ベースボールの試合でもこれほどまでに緊張したことは無い。女の子一人に会うのにこんなにも緊張するとは思いもしなかったがそんなことよりもバクバクとうるさい心臓の音を鎮めてどうにかしたい
こんな緊張しているのが美姫にバレたら何だか情けないように思えるのだ
彼女の前ではせめてカッコイイ自分でありたいなんて考える弘毅は努めて冷静を装いつつ、緊張を高めて行く
「ただいま~」
そうして、ついにその時が来た
「……おかえり、美姫」
「へっ……?」
ガチャリと音を立てて開かれた玄関のドアから入ってきた少女は可愛らしいの一言に尽きた
150㎝と小柄ながら、その割には腰の位置は高く手足はアジア人にしては長いだろう
あとそのまま10㎝も身長が高ければモデルとして十分にバランスの取れた身体つきと、その小柄な体格に似合ったあどけなさが抜けない顔立ちは高校生と言うよりは入学したての中学生に近い
くりっと丸く大きな目、整った鼻筋と小さな口。昔からのくせっ毛はそのままに少し染めているのか明るめの茶色の髪は背中の中程まで降ろされており、それが少し彼女を年相応に見せていた
「……」
「……」
写真で見たよりずっと可愛らしい美姫の姿に弘毅は更に心臓の音を速めるが、表情だけは根性でクールを装う
ここでカッコつけなくて何処でカッコつけると彼なりの男の見せ場は正に佳境へと差し掛かっていた
「コウ君……?」
ポカンと玄関を開けた姿勢のまま固まる美姫がようやく口にした言葉は現状が上手く認識できていない疑問形だった
「そうだよ」
「えっ、なんで、コウ君アメリカにいるんじゃ……」
「こっちに帰って来たんだよ。おばさん達から聞いてない?」
肯定すると案の定困惑した答えが返って来て、弘毅は冷静に冷静に返していく
「えっ、ホームステイの子が来るから仲良くしてあげてって言われたけどえっ?ホームステイするのってコウ君?えっ?」
「あーそれ多分おばさんの嘘だ。なんか俺が来るの内緒にしてたって聞いたから」
「ホームステイじゃないの?」
「あぁ」
幾つかの問答をしていく内に美姫の視線が不安げに揺れる。恐らく数日限りの再会だと勘違いしてしまっている様で折角会えたのにそれ程長い間一緒にいられるわけではないのだと目を伏せてしまう
「じゃあ帰っちゃうの?」
「いや、ここに住む」
「えっ」
「ここに住む」
その誤解を払拭するために美姫に本当の事を短く伝える。あまり長い言葉にすると弘毅自身が緊張していることがバレてしまいそうになるため、どうしても短い言葉になってしまうが今回はそれで充分だろう
「す、住む?」
「そ、住む」
困惑を更に深める美姫にただ事実を伝え、飲み込めるまで待つことにする
でもせめて呆然と玄関のドアを開けたまま立ちすくむ美姫を中に入れようと弘毅は美姫に近付いてその小さな手を取って玄関内へとエスコートする
手を取った時ビクリと美姫が猫の様に全身を跳び上がらせたようで流石にいきなり手を握るのはダメかと弘毅は少し傷付きながら二人は向き合う
「住むってなんで……」
「そりゃ、日本に戻って来るのにおばさんが来なよって言うからさ」
それに、と弘毅は言葉を続ける
「約束だろ?」
「約束……」
「なんだよ忘れたのか?」
突然のことばかりで頭が回ってないのかオウム返し状態の美姫が段々おかしく思えてきた弘毅がクスリと笑いながら、少し腰を落とし文字通り真正面から見つめる
何事かと美姫は身体を緊張させるが、別に何をするわけでもないのだからそんな緊張しなくてもと弘毅は弘毅で自分のことを棚に上げた事を思うがお互いそんなことに気が付くほど余裕はない
「絶対もう一度会うって約束だったじゃん。約束、果たしに来たぜ」
「ッ!!うん!!うん!!」
「ただいま、美姫。戻って来るの遅くなった」
「おかえり、コウ君……!!やっと、会えた――っ!!」
精一杯のカッコつけたセリフを美姫に伝えると感極まった美姫は何時だかのようにボロボロ泣きながら弘毅に抱き着いて来た
流石に泣きじゃくる女の子に抱き着かれた経験が無かった弘毅は一瞬驚くものの、この時ばかりは思ったままに美姫の頭を優しく撫でる
そのままグスグスと泣き続ける美姫が落ち着くまで、二人はそうしている事になった
「急に泣いちゃってごめんね、ありがと」
「良いよ。まさか泣かれるとは思ってなかったけど俺もそれくらい嬉しいから」
幾分かすると美姫も落ち着き、目尻を赤くしながらもニコリと笑顔を見せて弘毅を見上げる
その笑顔がまた弘毅の心拍数を上げるが、グッと堪えて赤くなりそうな表情を抑えながら笑みを返す
ついでに頭を撫でてやれば目を細めて気持ちよさそうにされるがままになっている美姫に弘毅は何度目かのノックアウトを食らいそうになるがやはり彼は踏ん張ってそれを耐える
(めっちゃ可愛い、なんだこれ。ヤバい、にやける)
そんな言葉が頭の中を埋め尽くすが彼女の前ではカッコよくいると決めたのだ
キュッと表情筋を引き締め、緩みそうになる顔を誤魔化しながら
「しっかしホント小っちゃいな」
「は?」
弘毅は地雷をぶち抜いたのだった
「あっははははははは、あんた達さいっこう!!!!!」
「いやぁ、若いねぇ。楽しませてもらったよ」
美姫の背が小さいというコンプレックスを見事に裸足でぶち抜いた弘毅は顎の下に青タンを作り、プンプンと怒る美姫にペコペコ謝りながら用意された豪華な料理に手を伸ばしていた
「悪かったってそんなに気にしてるとは思わなくてさ」
「ふーんっだ」
あの時、底冷えするような低い声を聞いた後に凄まじい勢いで顎下に頭突きを見舞われた弘毅はとにかく平謝りして美姫の顔色を窺う。何度目かの謝罪でも美姫はつんけんした態度を崩すことなく、聞く耳を持ってくれない
参ったな、と視線を彷徨わせると隣の椅子に座っていた美姫がプルプルと震えていることに気が付く
「……お前、さてはからかってるだろ」
「うふふふ、ゴメンゴメン。驚かされたののお返し」
「お前なぁ」
怒っていたのは冗談だと分かると弘毅は肩を竦めるが、美姫は悪戯が成功した子供の様にニコニコと笑う
それが可愛いものだから弘毅はまぁいいかと思い、味の分からなかった料理に改めて舌鼓を打つ
「ねぇねぇコウ君」
「ん?」
美味い美味いと料理を食べ進める弘毅に美姫も箸やスプーンを動かしながら声を掛ける
「これから、よろしくね」
「おう」
いつかの様に短く返事をして二人はニッと笑う
その様子を見て、美姫の両親もあらあらと笑うのだった
評判避ければちゃんとプロット組みたい次第
感想、よろしくお願いします