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2-7 精霊の森と固有スキルと大精霊の加護

「おい、そろそろ行くぞ」


今は、朝ご飯を食べ終えた後だ。


「もう少し休みませんか?」


「ナフタリアの言う通りですよ、しずくさん」


「お前ら、歩きたくないだけだろ」


「「……」」


「何か言い返してみろよ。……言い返せないのか? ……安心しろ、もう精霊の森までは歩かなくていいから」


「「本当ですか!」」


「お前ら、息ぴったしだな。歩かなくてもいいから、早くテントを片付けて、精霊の森へ向かうぞ」


「分かった」


「分かりました」


俺たちはすぐにテントを片付けて、出発準備をする。


「それで、歩かなくてもいいというのは、どういう事ですか?」


「昨日な、お前らが寝静まった頃からな造ったんだよ。魔力駆動二輪と四輪をな」


「まりょくくどうなんとか、というのは何ですか?」


「魔力駆動二輪と四輪な。魔力駆動二輪と四輪は、魔力駆動車と言って、魔力で動く乗り物だ」


「おぉ、流石しずくさんです。じゃあ早速乗って行きましょう」


俺は異空間指輪で異空間を呼び出し、そこから魔力駆動二輪を取り出した。


そして俺はそれに乗り、「早く乗れ」と言ったのだが、なかなか乗らなかった。


そう彼女達はどちらが雫の前か、後ろに乗るかで言い争っていたのだ。


「おい、前か後ろとか、どうでもいいからさっさと乗れ。前なら俺の膝に乗れる、後ろなら俺に抱きつける。そのどちらかだから、早く乗ってくれ」


「しずくさん、それが問題なんです! 私たちはしずくさんの膝に乗りたいんです」


「そうですよ。私たちはしずくの膝に乗りたいんですよ」


「行きと帰りで変えたらいいだけだろ」


「「それもそうですね」」


こいつら、本当にいい性格してるよな。


そして、どうやら行きはナフタリアが後ろで、ツクヨが前に決まったようだ。


「じゃあ、行くぞ」


そう言って、俺は魔力駆動二輪に魔力を注ぐ。


そうすると、魔力駆動二輪は前に前進し、徐々に魔力の量を増やして、速度を上げる。


速度を上げていくと、ナフタリアの抱きつく強さが強くなり、ツクヨの俺の手を握る強さが強くなる。


「痛いから、もう少し力を緩めろ」


「無理です。力を緩めたら落ちます」


「怖いです。速すぎです。しずくさん、速度を落としてください」


「嫌、絶対速度は落とさん。逆に速度を上げてやるよ」


俺は魔力駆動二輪に注ぐ魔力の量を増やす。


そうすると、前と後ろから絶叫が聞こえた。


「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」とな。


だが、絶叫と同時にナフタリアの抱きつく強さが、ツクヨの俺の手を握る強さが強くなり、俺の骨からバキバキと鳴ってはいけない音が聞こえた。


俺の骨は折られては【再生】し、折られては【再生】の繰り返しを精霊の森まで続きました。



そんなこんなで無事に精霊の森に着き、魔力駆動二輪から降りた瞬間、ナフタリアとツクヨをしばいた。


「痛いわ、ボケ! 俺が治癒術師じゃなかったら、死んでたわ! 何回、お前らは俺の骨を折ったら気がすむんだ!」


「仕方がないと思います。あんなに速い速度で進む乗り物に乗ったんですから」


そう言うナフタリアは、足がプルプルと震えています。


「ナフタリア、私の方が怖いんですよ。風強いから、目を開けることも出来なかったんですから」


そう言うツクヨも、足というか、体全体がプルプル震えています。


「だからと言ってな、骨を粉砕するくらいの力で抱きついたり、握る必要はないだろ?」


「「いえ、必要はあります」」


「どんな必要がある?」


「「私の可愛いところを、しずく(しずくさん)にアピールする為に必要なんです」」


「アピールする為に俺の骨を折るのか?」


「「……しずく(しずくさん)ならいいかなぁと思いまして」」


「……舐めとんのか!」


もう一発しばいてやった。


ナフタリアとツクヨは、頭をさすりながら痛い、痛い言ってるけど、俺はそれを無視して精霊の森へと入って行く。


ナフタリアとツクヨはそんな俺を見て、頰をぷくっと膨らませ、頭をさすりながら、ついてきた。



「ここら辺の魔物も弱いな」


「弱いんじゃなくて、しずくのそのりぼるばーが強いんですよ」


「そうです。どんな魔物でも一撃で倒すじゃないですか」


「それに、しずくばっかり魔物を倒すから私たちのレベルが上がらないんですよ」


「へぇー」


「何ですか、その気の抜けた返事は。しずくさんは私たちが弱くてもいいんですか!」


「いいんじゃね」


「「そんな事言ってもいいんですか? 私たちはいつでもしずく(しずくさん)から離れる事も出来るんですよ?」」


「そうか。ぐすんっ。ナフタリアとツクヨがそうしたいなら、そうしろよ。俺は一人でも別にいいし」


「う、ううう嘘です! ツクヨがどう思っているかは知りませんが、私はずっとしずくの隣にいますから! だから泣かないでください」


「し、ししし心配しないでください。ナフタリアがどう思っているのかは分かりませんが、私はずっとしずくさんと一緒にいます。だから、泣かないで」


こいつら、チョロすぎだろ。


「ふーん、分かった」


「「私たちを嵌めましたね!」」


「当たり前じゃん」


「本当に離れてもいいんですよ!」


そうナフタリアに言われたから、俺はナフタリアに抱きついて、「どこに行くんだよ。お前の居場所は俺のとこだけだろ?」と言った。


「……」


「ん? どうした、ナフタリア?」


「しばらくこのままでいてもらっていいですか? しずく成分を補充したいんで」


「無理」


「何でですか?」


「何でって、魔物に囲まれたから?」


「そうですか、残念です。……では、戦いましょうか」


「『戦いましょうか』って言うんだったら、さっさと離れろ」


「分かった」


「じゃあ、いこうか」


「「はい!」」


二丁のリボルバーで的確に頭を狙い、弾丸が無くなれば、【空間転移】で弾丸を補充し、また頭を狙う。


出現した魔物は、オーガ、ゴブリン、オーク、ブラックウルフ、ブラックベアー、トレント、ゴブリンの進化系のハイゴブリン、オークの進化系のハイオークなどだ。


まぁ、どの魔物も二丁のリボルバーであるシャクラとユピテルにかかれば一撃だがな。



「ふぅ。片付いたな」


「はい」


「……あの、しずくさん。あそこにいる子供は何なんでしょうか?」


「何だ、誰かいるのか?」


そう言って、ツクヨが指差していた方向を見る。


そこには、小さい子供が倒れていた。


俺たちはその子供の方へ近づき、「大丈夫か?」と声をかけたのだが、その子供は怯えているのか、口をパクパクしているだけだった。


「しずく、あの子怪我してますよ?」


「本当だな。仕方ねぇ、治癒してやるか」


そう言いながら、俺は座り込み【癒光】と言った。


そうすると、俺と少女は光に包まれた。


そして、少女が負っていた擦り傷がみるみる治癒されていき、傷が完全に癒えた瞬間、俺は吹っ飛び、木に頭を強くぶつけて気絶した。


その後すぐに緑色の髪で翠眼の女性が来た。


「おい、お前たち。大丈夫か?」


「何を言ってるんですか!」


「え? いやだって、お前たちは亜人であいつは、人間で」


「だから何ですか! 私たちは自分からあの人と一緒にいるんです」


「は? 何を言ってるんだ、お前たちは。人間は醜い奴らだろ?」


「しずくさんを、他の人間と一緒にしないでください!」


「そうです。あの人は私を、王様に捕らえられた時も、勇者に虐められている時も助けてくれる、そんな凄い人なんです!」


そう言って、彼女たちは雫の方へ駆けつける。


「ちっ。人間がそんなにいい奴なわけがない。私たちはそれを知っている。なのに、何故あいつらはあの人間を慕う? 意味が分からない」


(意味が分からないのはよく分かりますが、その人はそこにいる同胞を助けた張本人です。私はその事をお礼したい。だから、その者たちを連れて来てほしい)


(ですが、大精霊様!)


(これは、命令です)


(……分かりました)


「お前たち、ついてこい。安全な場所に連れて行ってやる」


「どうするの、ナフタリア?」


「行きましょう。今、魔物にでも遭遇したら、私たちは殺されてしまいます」


「分かりました、行きましょう」


こうして、ナフタリアとツクヨは謎の女性とある場所に向かいました。



「どこだ、ここは?」


「ここは、私ら大精霊だけが入れる世界。それで、お前は何の為に、ここに来た」


声は聞こえるが、姿が見えない。


だが、その声を発しているのは、女性だとすぐに分かる。


「お前は大精霊なのか?」


「質問を質問で返すな。私はお前に何の為に、ここに来たのかを聞いているんだ」


「俺は強くなる為にここに来た」


「強さを手に入れたら何をする?」


「大切な人を守る」


「お前は人間をどう思う」


「醜い奴らだと思う。俺も醜い。何度も道を誤ってきた。でも、誤った道から正しい道へと、導いてくれたのも人間だ」


「最後の質問をする。お前にとって、亜人とは何だ?」


「特殊な力を持っている人間」


「そうか。どうやら、お前は他の人間とは少し違うようだな」


「?」


「お前には言っておく、この国の王族はあてにならない。神もあてにならない。この国を滅ぼそうとしているのは人間だと」


「人間も神もあてにならない、か。まぁ、そうだろうな」


「お前もその人間の中に含まれている」


「あっそ。……言っちゃあ悪いが、お前ら精霊だってあてにならんだろ」


「うふふふふ。お前、面白い奴だな。お前になら、力を貸してやってもよいが、どうする?」


「あぁ、力を貸してくれ」


「分かった。お前に【大精霊の加護】を授けてやる」


「【大精霊の加護】? 【精霊の加護】じゃないのか?」


「その事については、また後でじゃ。もうじきお前は目を覚ます。最後にお前の名前を聞いておこうかの」


「俺の名前は音無 雫だ」


「音無 雫、か。覚えた。私の名前は、リヴェレンテだ」


リヴェレンテがそう言い終えた後、俺は目を覚ました。



「しずく、起きた?」


「ナフタリアか」


「しずく、なかなか目を覚まさないから、死んだかと思った」


「勝手に人を殺すな。それで、ここはどこだ?」


「ここがどこだか分からないけど、ついて来いって言われたからついてきた」


「そうか。だが、運がいいのか、ここは俺が元々行きたかった場所だ」


「そうでしたか。なら、良かったです」


「そういや、ツクヨはどこにいるんだ?」


「そこにいるじゃないですか」


そうナフタリアがある方向に指を指しながら言った。


俺はナフタリアが指差していた方向、つまりは右方向を向いた。


俺が向いた方向には精霊がたくさん集まっていたのだが、その集団に一人、ツクヨが混ざっていたのだ。


あいつ何をしてんだよ。


少しはナフタリアを見習え。


ナフタリアは今も俺の手を握っているのに、ツクヨときたら、楽しく精霊と話をしているではないか。


ガツンと言ってやろうか。


「おい、ツクヨ」


「あ、起きたんですか、しずくさん」


「あぁ、起きたよ。今、起きたよ。で、お前さ、何をしてんの? 何で俺が気絶した元凶である精霊と仲良く話してんの? 何、お前はあれか? 恩を仇で返す、そんな奴なのか?」


「怒ってますか?」


「怒ってない。怒るどころか、悲しいわ。ツクヨは、俺の事どうでもいいんだなって思ったら、涙が溢れてくるんだ」


「ツクヨ、しずくを泣かした。早く謝ってください。土下座で謝ってください。そして、私たちにこれからついてこないでください」


ナフタリア、言い過ぎじゃね?


しかも、土下座って。


土下座なんて言葉どこで覚えたんだよ。


……あ、昔俺がしてたわ。


ナフタリアとツクヨを奪還する時に、俺土下座してたわ。


……泣いちゃってるよ。


ツクヨ、泣いちゃってるよ。


「そこまで、言わなくても、いいじゃないですか。それに、精霊さんとお話しくらいしてもいいじゃないですか」


ツクヨの言う通りなんだが、もう少しさ、俺を心配してくれてもいいじゃんって思うんだよ。


「ツクヨ、しずくは寂しがり屋なんです。だから、ちゃんとしずくにも構ってあげてください」


……こいつ、言いやがったな。


「おい、性感帯が三つもあるナフタリアさん? 俺はお前を許さない」


「何で知ってるんですか!」


「え、マジで、三つもあんの?」


「え?」


「え?」


「知らなかったんですか! 私、しずくに騙されました」


「でも、俺はそんなお前でも大好きだ」


そう言って、俺はナフタリアを抱きしめた。


とても力強く、締め付けるように。


「……痛いです」


「……」


「……痛いって言ってるんです」


「……」


「……痛いって言ってるじゃないですか!」


やばっ、怒らせちゃった。


ナフタリアの《固有スキル》、【狂狐人化】が発動した。


ナフタリアは俺の拘束を解き、距離を取った。


《固有スキル》とは、ステータスカードに記載されない、つまり習得している本人にしか分からない《スキル》の事だ。


ナフタリアの《固有スキル》は、【狂狐人化バーサク・ルナール】は、全ステータスを一定時間、100倍強化する。


この状態になってしまえば、勇者とも張り合えると俺は思う。


だが、発動するのが困難だし、体が傷ついていく。


体を内側から破壊していくんだ。


だから、この【狂狐人化バーサク・ルナール】は、コントロール出来るまで使うなって言ったのに。


ナフタリアから、話を聞いていただけだから、今まで見た事はなかったが、ここまで凄いとは思わなかった。


空気がピリピリしている。


……謝ろう。


「ナフタリア、すみませんでした。だから、解いて」


土下座して謝ったから、ナフタリアは許してくれるはずだ!


だが、ナフタリアは【狂狐人化バーサク・ルナール】を一向に解こうとはしなかった。


「……痛い。……しずく、助けて」


何だ? 自力で解く事が出来ないのか?


それに、皮膚が剥がれてきている。


どうすればいいんだ?


これは魔力でステータスを強化しているわけじゃないから、ツクヨの魔眼では封殺出来ない。


考えてる時間はない!


「雫。【大精霊の加護】の追加スキルである、【魔力吸収】を使え」


「分かった」


俺はナフタリアに抱きつき、【魔力吸収】を発動する。


《スキル》を使うには、イメージが必要だ。


例えば【創造】なら創る物のイメージ、【スパーク】なら、雷っていう具体的なイメージが必要になる。


だから、【魔力吸収】を発動するには、魔力を吸い取るイメージが必要になる。


……どうやら、【魔力吸収】は成功したようだ。


ナフタリアの魔力が、俺の中に入ってくる感じがする。


……しばらく吸い続けると、魔力枯渇を起こし、ナフタリアは気絶した。


これからは、怒らせないでおこう。


ナフタリアが危ないから。


そう雫は誓ったのだった。

























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