2-6 会話と精霊の森への道
俺たちは今、会議室みたいな所で話をしているのだが、俺はショックを受けています。
この国、いやこの世界の頭の悪さに。
本当に大丈夫なのか? この世界は。
いつか絶対滅びるわ。
この世界の人類の敵は、魔王と魔王の7人の幹部と邪神だと王様から聞いた。
それでこの世界の人類は、国と国が協力関係でないときた。
おかしいだろ。
なんで圧倒的に力も、知恵も、勇気も足りない人類が、なんの工夫もせずに戦おうしているのかが、俺には理解出来ない。
「あの、オトナシくん。どうして、溜め息を吐いているんでしょうか?」
「……あのな、エミリール。溜め息を吐くのは、仕方がないと思うんだが」
エミリールというのは、車椅子に乗っていた王女の名前だ。
「どうしてでしょうか?」
「お前ら、王族は分かってないのか? なら、俺が言ってやるよ。……人類の敵が確定しているなら、どうして他の国と協力して戦おうしない。どうして、同盟を結ばない。おかしいと思わないか? 人類は弱いんだぞ! そんな弱い奴が強い奴と戦うにはどうしたらいいのか、何故考えない。しょうもない事ばかりしてさ。奴隷制度なんて、しょうもなさすぎる。弱いんだったら、知恵を絞れ、協力しろ、関係を大切にしろ! そんな事も分からない奴らに、俺たちは召喚されたと考えると、反吐が出る」
「シズク、他国と協力関係になるというのは、無理なのだ」
「何故だ?」
「この国、シュバイン以外の国は、魔王達と同盟を結んでいるんだ」
「……利害関係か」
利害関係とは、同一の物事によって、同じ利益を得たり、利害が相反したりするような関係の事だ。
つまり、シュバイン以外の国と魔王達の関係は、私たちの国は魔王達には手を出さない、その代わりに魔王達も私たちの国には手を出さないで欲しい、だ。
「やめだ。人類は勝手に滅べばいい」
「何を言ってるんだ、オトナシ君!」
「じゃあ王様。どうすれば、魔王と邪神の同盟軍に勝てるか教えてくださいよ」
「……」
「ほら、答えることが出来ない。だから、やめるんだ。この国も、魔王達に言えばいい。何もしないから、何もしないでって。そうすれば、俺たちは殺される事はないだろう。まぁ、一生家畜だろうけどな。……何か言い返してみろよ。言い返せないなら、俺はこの国を出る」
「オトナシくんは、勇者じゃないんですか! 勇者はみんなを笑顔にする人の事じゃないんですか! どうして、そんな事を言うんですか!」
「……るわけないだろうが」
「え?」
「出来るわけないだろうが! 俺はお前らが思ってるほどいい奴じゃないんだよ! 人を殺した事だってあるんだぞ! そんな奴が人を笑顔に、幸せに出来るわけがないだろうが! ……お前らとは話にならねぇ。俺はお前らクズとは違う。お前ら王族は、そこの3人の勇者にでも守ってもらえ。俺が守るのは、ナフタリアとツクヨとルナと優香だけだ」
「シズク。そこまで言わなくてもいいじゃない! 確かに、私たちはクズよ! 誰も守る事が出来ないクズよ! でも、シズクだってクズじゃない! 人を殺したクズじゃない! そんな人にクズなんて言われたくない!」
「あっそ。勝手に言っとけ。俺はお前らとは違う。俺はお前らが出来なかった事をしてやる。人類を俺は敵に回してでも、この世界を救ってやる! 俺は、治癒術師の地位向上と、奴隷達の為に、この世界を救ってやる! 覚えとけよ、王様! 俺が、この世界を救ったら、治癒術師を最上級職にしろよ! ……行くぞ、ナフタリア、ツクヨ。精霊の所へ」
「「はい!」」
俺は王室を去った。
そして、精霊の森へと向かった。
「しずく、あんな事言ってたけど、大丈夫なの?」
「はっきり言って無理。仲間になってくれる種族達を全て仲間にしても、魔王達と邪神の同盟軍は倒せない」
「じゃあどうするの?」
「取り敢えず強くなるとして、魔王達と仲良くする」
「しずくさんは、やはり面白い人ですね。じゃあ私たちも強くなって、最上級職へクラスチェンジをしましょう、ナフタリア!」
「そうですね」
「いいよな、お前らは。クラスチェンジなんて出来て。最弱職の俺は出来ないんだぞ」
「確かにそうですが。でも、しずく。簡単にクラスチェンジなんて出来ませんよ。レベルは100にしなければならないし、特定のステータスを一定以上まで上げなければいけませんならないんです」
「そうだけどさ。でも、いずれお前らは俺よりも強くなってしまうんだよ。それが嫌なんだよ」
「負けず嫌いなんですね、しずくさんは」
「……」
「どうかしたんですか?」
「精霊の森までの距離ってどれくらいだ?」
「そうですね、大体100kmはあると思います」
「100kmもあんの?」
「はい」
「歩くの辛くね?」
「はい」
「もう、歩くのやめよ」
「そうしたいですが、歩く以外の移動手段がないんです」
「あまいぞ、ツクヨ。俺を誰だと思っている」
「私の旦那」
「違うわ。誰がお前の旦那だよ」
「しずくさんが、私の旦那」
「はいはい。ナフタリア、ツクヨ。今日は、これぐらいでやめとこう。明日は絶対移動が楽になってるからさ」
「「分かりました」」
と言うわけで、俺たちは歩くのをやめて、今日はテントを張って休む事にした。
「……狭いんだけど」
「気のせいだと思います」
「狭いのなら、少し私の方へ寄ってきてもいいですよ」
「いやいや、これ以上寄れないから言ってんの! 何で一つの寝袋に3人も入ってるんだよ! 暑苦しいわ!」
「だって、ナフタリア。ナフタリアが出て行ってください。私はしずくさんと同じ寝袋で寝るんですから」
「何を言ってるんですか? ツクヨが出て行くんですよ。しずくは私と寝たいって言ってるんですから」
「俺は一人で寝たいんだが」
「遠慮しないでください。私の髪で遊んでもいいですから」
「遠慮はしなくていいですよ。私の尻尾は温かいですよ」
「遠慮なんてしてないから。本当に一人で寝たいんだよ」
「そうですか。しずくさんが言うんなら、私は外で寝てきます」
「しずく、ひどい。寝袋は一つしかないのに。しずくはそんなに私たちを外で寝させたいんですか?」
「ナフタリア、嘘つくな。寝袋はちゃんと三つ用意してるじゃないか! それに、別に俺は外で寝ろ! なんて言ってないからな」
泣くなよ。
反則だろ。
泣き止ませるには、これしかないか。
「分かった、分かった。俺と同じ寝袋で寝ていいから、泣くな」
そう言って、俺は3人入れるくらいの大きな寝袋を【創造】した。
はぁ、こいつらって仲がいいのか、悪いのか、どっちか分からないんだよな。
今はもう深夜。
ナフタリアもツクヨも寝ている時間。
そして俺は今、テントの外へ出て、魔力駆動二輪を造っている最中だ。
魔力駆動二輪という概念はゲームにしか存在していない為、造るのが難しい。
だが、造らなければ明日も歩かなければならない。
それは、絶対に嫌だ!
というわけなので、頑張っている。
魔力駆動二輪のイメージは出来上がっているんだが、そのイメージに合うような鉱石と素材を【創造】するのに時間がかかる。
一々【叡智の図書】で鉱石と素材の特性を調べて、それから【創造】するから、時間がかかるんだ。
それからしばらく時間が経ち、必要な鉱石と素材は【創造】出来た。
後は、それを【錬成】するだけだ。
……完成した。
何時間かかったのかは分からないが、完成した。
それで、魔力駆動二輪を造ってたら、副産物で魔力駆動四輪も造ってしまった。
魔力駆動二輪と魔力駆動四輪は文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪だ。
二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識して、デザインした。
まぁ、完全に俺の好みなんだけどさ。
そして、俺に合うように黒をベースにし、所々に紫紺のラインをペイントした。
車輪には弾力性抜群のゴムを用い、各パーツはハディ鉱石を基礎にノブロ鉱石で表面をコーティングし、車輪にだけ魔力を流すとコンパクトになるコパトー鉱石を混ぜ込んだ。
どんな攻撃を受けても壊れる事はない耐久性を誇り、エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、魔力を直接操作して駆動し、速度は魔力量に比例する。
更に、この二つの魔力駆動車の車輪に仕掛けを施してある。
その仕掛けとはどんな悪路でも進めるように、車輪を変形出来るようにし、その変形した車輪から魔力を放出し、浮遊出来るようにした。
それで、車輪がどのように変形するのかというと、魔力を流しコンパクト化した車輪を横向きにして車体にしまうという風に、だ。
そして俺は魔力を直接操作する為に、【魔力操作】を習得した。
魔力駆動二輪と四輪を造り終えた俺は寝ようとしたのだが、出来なかった。
もう朝になっていたからだ。
……今から朝ご飯でも作るか。
「眠いな」
そう言って俺はテントの中を覗き、愚痴った。
「こいつらなんて幸せな顔で寝てんだ。俺は眠たいっていうのに」
まぁ、いいか。
こいつらの寝顔を見るだけで、頑張れるような気がする。
今日も1日頑張るぞい!
……何言ってんだ、俺。
ここは王室。
「シズクさんはどこに行きましたか?」
「お母様? オトナシくんならさっき王室から出て行きましたよ」
「……」
「どうかしたんですか、お母さん?」
「あなたたちには言いますけど、シズクさんは、最後の希望の光だったんですよ?」
「勇者だから、希望の光なのは当たり前何じゃないですか?」
「違います。シズクさんは最上級職の更に上の職業である神職になる可能性がある人なんですよ。だから、愛想をつかれないように私がお金を渡したりしたのに、あなたたちは」
「「「……」」」
「シズクさんがもし魔王達と手を組んだ場合、この世界は破滅しますよ。そこの勇者3人
シズクさんを連れ戻しに行ってください! 抵抗したら、痛めつけても構いませんから」
こうしてシズクの逃亡劇が始まったのでした。