2-4 レベル上げとロードと手紙と誓い
「おい、邪魔だ。俺を抱き枕にして寝るな」
「うぅぅ」
何でこいつ、こんなに安心して寝てるんだ。
男と一緒のベッドで寝てるんだぞ?
俺を信頼してんのか?
……こいつ案外可愛いんだな。
そういや俺、こいつの顔見るの、今日が初めてだな。
今までは、こいつを見向きもしなかったから。
……でも、こいつは俺の事を忘れてしまうんだよな。
こればっかりは、どうしようもないんだがな。
でも、こいつが覚えてなくても、俺は覚えてる。
忘れない。
こいつがいなければ、今の俺はいなかっただろうから。
だから、今だけは、こうしているのもいいのかもしれないな。
それからしばらく経った頃、ルナは起きた。
「起きたか? ルナ」
「おはよう、シズク」
「あのな、ルナ……ありがとう」
「どうしたの、急に」
「もう、二度と俺はお前とは会えないから」
「どうして、そんな事言うの?」
「……仕方がないんだ」
「シズク、私の事嫌いになった?」
「嫌いになれるもんならなりたい。そうすれば、悲しくなんかならない。お前の事を大切だと思っているから、俺は辛いし、悲しいんだ」
「そうなんだ。……ちょっと待っててね」
そう言って、ルナは走ってどこかへ行ってしまった。
……俺ってこんなに涙脆かったけ。
俺の頰に涙が伝う。
会えなくなるってレベルじゃないんだよな。
さっきも言ったけど、ルナは俺の事を忘れるんだから。
……くそっ、涙が止まらない。
たった三日の付き合いだったのになぁ。
「どうして泣いてるの? シズクが泣いてると、私も泣きたくなるじゃない」
ルナが戻ってきた。
最悪のタイミングでな。
泣いてるところなんて、見せたくなんかなかったのに。
俺は何とか涙を抑えて、「どうしたんだ? 俺に何か用か?」と言った。
「これを持ってきたの」
そう言って、ルナは俺にある物を渡してきた。
「これは?」
「これは私たちの一族に伝わっているペンダント。このペンダントは、好きな人にあげるものなんだ。だから、シズクにあげる」
「何で、俺なんかに?」
「会えなくなるんでしょ? なら今渡さないと渡せなくなるから」
「……そうか。この手紙は?」
「これは、まだ読んじゃダメ」
「分かった」
「シズク、私の事忘れないでね」
「あぁ、忘れない。じゃあ、そろそろ行くわ」
「うん。……あのね、シズク。最後の頼み、聞いてくれる?」
「分かった。それで、頼みって何?」
「ちょっとこっちに来て」
俺は、ルナに言われた通りにルナの方へ近づいていく。
そして今、俺とルナは向かい合って立っている。
「これが、最後の頼み」
そう言ってルナは、逆立ちをしながら俺を抱きしめ、そしてキスをした。
ルナの行動に驚いたが、俺も流れに従って抱きしめてあげた。
しばらくそうしているとルナは俺から離れ、「ありがとう」と満面の笑みを浮かべて言った。
俺は今、この近くで最も強い魔物が出る森の中にいる。
そこで俺は、レベルを上げるため魔物を倒しまくった。
木みたいな化け物のフォレスや、黒い狼のブラックウルフ、黒い熊のブラックベアーなどなど。
それで分かったんだが、ここら辺の魔物は二丁リボルバーで一撃だった。
それも、雷魔法を使って電磁加速させてない普通の状態で。
普通の状態っていうか、雷魔法が使えなかっただけなんだけどな。
「これくらいでいいか」
もうここら辺の魔物を倒しても、なかなかレベルが上がらなくなったから、切り上げた。
そして俺は、レベルが上がった事によって増えた《スキルポイント》で、初級雷魔法である《スパーク》と、使えそうな《スキル》を習得した。
今の俺のステータスの詳細。
音無 雫 15歳 ヒューマン 11月23日生まれ AB型
職業 治癒術師
レベル 47
【HP 760/760】 【MP 10784/10784】
攻撃 759
防御 760
敏捷 763
器用 767
魔力 10781
《スキル》 【再生】 【常時回復】 【状態異常無効】 【癒光】 【癒輪】 【省エネ】 【念話(特定の人のみ)】 【セーブ&ロード(1日3回)】 【叡智の図書】 【創造】 【錬成】 【成長】 【スパーク】 【敵感知】 【魔力感知】 【潜伏】 【千里眼】 【縮地】 【天歩】 【空間転移】 【常時MP回復】
《スキルポイント》 356
《加護》 神の加護(全ステータスを+100する。全ての《スキル》を強化する。《スキル》に【神降ろし】追加)
《祝福》 精霊の祝福(MPと魔力を+10000する。《スキル》に【蘇生】【魔力還元】 【全属性耐性】追加)
《武器》 妖刀村正 流天弐式 シャクラ ユピテル
《称号》 ハズレ勇者 神に気に入られし者
「やっぱ凄いステータスの伸びだな。【成長】をレベルが4になった時点で習得しておいて正解だったな」
【成長】 《スキルポイント》の上昇値を×3する。ステータスの上昇値を×5する。
「それでもあいつらの足元にも及ばないか」
あいつらとは、勇者の事だ。
「さぁ、行きますか。【ロード】!」
俺は光に包まれて、過去へ遡って行く。
「あなたに何も言う事はないわ、ハズレ勇者」
戻って来た。
前回は逃げたが、今回は逃げない。
「俺はハズレ勇者じゃない。むしろ、あいつらの方がハズレだろ」
「……あなた誰ですの? 先程までと、雰囲気が全然違う」
「雰囲気が全然違う、か。それはよかった。俺は、上手く隠せていたようだな。さてと、お前にはこれだけ言っといてやる。お前が誰かなんて俺には分かってるし、これからお前が俺にする事も分かってる。とな」
「う、嘘を言うとは、みっともないですわよ」
「あっそ。嘘だと思ってるなら、勝手に嘘だと思ってろ。ナフタリア、ツクヨ帰るぞ」
「はい!」
「ナフタリア!この人は私たちが知ってるしずくさんではありません」
ツクヨはそう言った。
「その通りだ、ツクヨ。今の俺は、お前らが知っている俺じゃない。別に無理について来なくてもいい。今の俺は、お前らの主人でも何でもないんだからな」
「え? それってどういう意味なんですか?」
「そのままの意味だ。分かっているだろ? 」
「分かりません! だって今も私たちはこの奴隷刻印によって、しずくに縛られているはずです!」
「じゃあ、試してやるよ。ナフタリア、自分を殴れ。……どうだ? 全く強制力を感じないだろ?」
このセーブ時点に遡る前のナフタリアやツクヨの主人は神童になっているはずだ。
だから、今の俺はこいつらの主人じゃない。
「どうしてですか? しずくは私たちを見捨てたんですか?」
「見捨てられたのは、俺の方だよ。ナフタリア」
これは本当の事だが、こいつらに見捨てられたわけではない。
「ツクヨ、しずくは嘘をついていますよね!」
「いえ、しずくさんは嘘なんてついていません」
話の途中だが、敵感知に反応があるな。
魔物の数は、10、20、いや40か。
囲まれてる。
「話の途中で悪いんだが、魔物に囲まれてる」
そう言った瞬間、魔物達は姿を現し、襲ってきた。
「ど、どうして、こんな所にゴブリンキングがいるんですの?」
「知ってんのか? 王女さん」
「何故あなたが私の正体を知っているのかは後にして、ゴブリンキングは、人間のレベルでいうと、70前後。私たちでは絶対に勝てない」
「じゃあ、逃げればいい」
「逃げれるなら、とっくに逃げてるわよ」
何、この王女さん。
足がプルプル震えているんだけど。
よっぽど怖いんだろうな。
……もし、ここで助けて上げたら、あんなめんどくさい事にならなくて済むかな。
「じゃあ俺があのゴブリンキングっていう魔物倒すわ」
バンッ!
俺はシャクラをレッグホルスターから抜き、【スパーク】を使い、手に雷を纏わせてから撃った。
シャクラから放たれた電磁加速した弾丸は、ゴブリンキングの頭に命中し、脳をグチャグチャにしながら貫通し、後ろの木に激突した。
ちなみに電磁加速した時の弾丸は、秒速3.4kmで直進する。
「おぉ、威力が段違いだ」
「「「?」」」
「あれ、お前らどうしたんだ?」
彼女達は、口をポカーンと開けて突っ立ってた。
どうやら彼女達は何が起こったのか分からなかったようだ。
「か、か、かっこいいです! それ、私にも造ってくださらないかしら?」
何、この王女さん。
なんで、目をキラキラしてこっちを見てくるの?
嫌なんだけど、造りたくないんだけど。
「何お前。さっきまでとキャラ違くない?」
「き、き、気のせいでしょ」
「気のせいなわけないだろ」
「造ってくださらないなら、当初の計画を実行するだけかしら」
「あっそ。早く帰ろうぜ、ナフタリア、ツクヨ」
「あ、はい」
「分かりました」
俺たちは冒険者ギルドに行って報告をしてから、宿屋へと帰り、俺は今、泣いてます。
「あの、しずく? どうして泣いてるんですか?」
「泣きたくて泣いてるわけじゃない。泣かされたんだ」
「この手紙にですか?」
「あぁ。読んだら泣かされた」
「私も読んでもいいですか?」
「読んでも意味ないと思うが、読みたいなら読んだら?」
「はい。そうさせてもらいます」
俺が泣いてしまったのは、ルナからの手紙を読んだからだ。
ルナの手紙の内容はこうだ。
「オトナシ シズクくんへ
手紙なんて初めて書くので、何を書いていいのかよく分からないから、今シズクに言いたい事をこの手紙に書きたいと思います。
えーと、私は、シズクに感謝しています。だって、初めてだったから。初めて、私と話をしてくれたから。シズクは気づいてると思うけど、私は奴隷なんです。だから家族以外、私となんか話をしてくれない。でも、シズクはそんな私と話をしてくれた。最初は、どっか行けとか、うざいとかたくさん言われたけど、途中からは、面白い話とかたくさんしてくれたし、生きる意味を教えてくれた。でも私は最初、シズクが嫌いでした。奴隷でも何でもないのに、生きる意味がないって言ってるのが、とても腹立たしく思いました。でも、実際はシズクにも辛い事があったんです。勝手に一人で腹を立たせてごめんなさい。……いつからかな。シズクといるだけで、胸が苦しくなり始めたのは。……多分、この手紙を読んでいる時には、私とシズクはキスをし終えていると思います。私は、勇気を出してキスをしたと思いますから、忘れないでくださいね。それと、結構シズクって、大胆なんですね。だって、私を抱き枕にするぐらいなんですから。ちょっと照れちゃいますね。まだまだシズクに言いたい事はありますが、いっぱい書くと、シズクが困りますから、そろそろ終わりにしますね。では、最後にシズクに言いたい事があります。私はあなたにとっては大切な人の一人なのかもしれませんが、私にとってのシズクは、とても大切で大好きな人です。あなたが私の主人なら楽しくていいのにな。
シズクのルナより」
絶対に奴隷制度なんて、無くしてやる。
絶対にだ。
首にかけていたペンダントを握りしめてそう誓った。