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2-2 罠と独りと優しさ

初クエストから三日が過ぎた頃、僕たちが泊まっていた宿に、兵士が来た。


兵士の話を聞くに、どうやら僕たちを王室に招く為の準備が整ったようだった。


つまり、今日でこの宿屋からもお別れって事だな。


この宿屋ではいろいろな事があったな……。


あったのか?


あったよな!


うん、あった、あった。


さてと、今から王室に来いとの事なので、一応装備に着替えていきましょう。


「ナフタリア、ツクヨ! 今から王室に行くからちゃちゃっと着替えてくれよ」


「分かった」


「分かりました」


よし!


クエスト以来、ナフタリアもツクヨもちゃんとした女性になってきた気がする。


いやぁ、最初は王様に喧嘩を売ったこの僕が、まさか王様に招かれるなんて思ってもみなかったよ。


「「着替え終わりました」」


……早くないですか?


着替えるの早いよな?


もう少しかかると思ったんだけど、どうやら彼女達はもの凄く成長したようです。


この時の僕には、王室に行ってすぐに僕と彼女達との関係がぐちゃぐちゃになる事なんて知る由もなかった。



宿屋から王宮までかかる時間は歩いて30分くらいなので、そこまで遠くはない。


なので、王宮まで歩く事になるのだが、例えそこまで遠くはなくても、30分も歩くのは暇で仕方がない。


だから僕たちは王宮に着くまでの間、しょうもない話をして暇にならないようにした。


そんなこんなで僕たちは無事に王宮に着き、兵士に案内されながら、王宮の中に入り、王室へと足を運んだ。



そして今現在、僕はまんまと罠に引っかかったと言うわけなのです。


薄々は感じていた。


こんなのおかしいって。


でも、僕は欲に負けたのです。


家が手に入ると思って、浮かれていた。


だからさっきも言った通り、まんまと罠に引っかかりました。


「王様! どういうわけなんですか! 嘘をついたんですか! 僕は王様を信じていたのに」


そう、僕は王様を信じていた。


なのに、裏切られた。


「お前がワシの可愛い娘に手を出したからだろうが!」


ん? 僕が王様の娘に手を出した?


全く身に覚えがないんだけど。


「あの、それは人違いじゃないでしょうか?」


僕がそう言った事により、更に厄介な事になる。


「娘達よ、こちらに来なさい。」


そう王様が言うと、左にあるドアから二人の女性が出てきた。


その女性は、どちらも美人で輝いていたが、片方は車椅子に乗っていた。


多分、体が弱いんだろうな。


でも、今はそんな事どうでもいい。


今、僕は厄介な事に巻き込まれそうなんだから。


「あいつがお前達に手を出したんだよな?」


「はい、お父さん。あのハズレ勇者が私たちに手を出して来ました」


僕はこの人の声、どこかで聞いた事があるなとすぐに気がついた。


……あの人の声だと。


あの人とは僕たちが、初めて受けたクエストをクリアした後に来た、黒いフードを被っていた女性の事です。


まさかあれが王族の関係者ではなく、王族だとは思わなかった。


やっぱり僕は王族にとって要らない存在なんだろう。


だからあの時、僕を殺そうとした。


でも逃げられてしまったから、次はこういう手段で僕に手を出して来たってわけか。


「娘達がそう言ってるんだから、お前が手を出したのは間違いない」


冤罪にも程がある。


僕はむしろ、殺されそうになった被害者なのに。


やっぱり王族には、真っ当な人間はいないって事か?


嘘です。


マリアさんがいました。


「そうですか。なら、どうしたら許してくれますか?」


「許すわけないだろう。お前にはこの国から出てもらう。そして残ったお前の奴隷は、また過酷な奴隷生活に逆戻りだ」


「待ってください! この奴隷は俺のものにしてもいいですか?」


そこでなんで、神童が話に入ってくるんだよ。


「なんだ、勇者よ。この奴隷達が欲しいのか?」


「はい」


「そうか。お主にこの奴隷達を預ける」


「ありがとうございます! ……おい、お前ら、早くこっちに来い!」


なんで勝手に決めていくんだ?


展開が早すぎて、ついていけない。


だが、こいつらだけは僕の味方だから、勝手には決められない。


神童の言う事なんて絶対に聞かない。


そう信じてるから、僕は「おい、神童。こいつらがお前の所になんか行くわけないだろ」と言った。


でも、神童は「それはどうかな? 現に奴隷達は俺の方へ近づいて来てるだろ?」と意味の分からない事を言い返して来た。


「そんなわけな、い……は?」


僕はショックで足から崩れ落ちる。


何で?


ナフタリアとツクヨは僕から離れていく?


僕は味方だと信じていた人に裏切られた?


……いや、裏切られても仕方がないのかもしれない。


僕は人として最低でクズなんだから。


……そうだよ、何で忘れてたんだろう。


僕は人を死なせた最低でクズな人間って事を。


そもそも僕には、人と馴れ合う資格なんてないはずだろ。


ナフタリアもツクヨも、いずれ僕から離れていくって分かっていたはずだろ。


分かっていたはずなのに、どうしてこんなに辛いんだ?


どうしてこんなに苦しいんだ?


どうして言葉にもならない嗚咽を漏らし、泣いてるんだ?


……いつまで猫を被って生きてんだ?


もう猫を被って生きる意味なんてないだろ。


だって、もう彼女とは会えないのだから。


優香とは会えないのだから。


優香だけだったんだ。


こんな最低でクズで人殺しな僕に優しくしてくれたのは。


僕には優香しかいないし、いらなかった。


こんな辛く、苦しい思いをするんだったら、この世界になんて来ない方がよかった。


ずっと、優香と一緒に居たかった。


猫を被ってでも、優香とずっと一緒に居たかった。


……何が、みなさんを幸せにしてみせますよ!だよ。


出来るわけないだろ。


人殺しが、人を幸せになんかに。


僕の口から、醜い笑い声が吐き出される。


本当に醜い。


そして僕は立ち上がり、「お前らを絶対に殺してやる」と殺意をあらわにして叫び、王室から出た。


(ごめん、優香。僕にはやっぱり、誰かを幸せになんか出来ないんだよ)



僕には、いや俺にはもう何も残っていない。


俺は、独りだ。


「あの、大丈夫ですか? そんな所で寝転んでたら風邪引きますよ?」


誰だ?


誰だか知らないが、話しかけないでくれ。


それに俺、寝転んでたのか。


全く気がつかなかったな。


「聞いてますか?」


「何なんだよ、お前は。ウザいから話しかけてくんな。……俺は、人殺しなんだぞ! お前も俺に殺されるかもしれないんだぞ! 早く、どっか行ってくれよ。頼むから」


「人殺しは、そんな情けない顔で泣きませんよ。取り敢えず、うちに来なよ。今日は冷えるから」


「どっか行けって言ってんだろ! 」


「行きませんよ。あなたが私の家に行くって言うまではね」


「何で構うんだよ。何で優しくすんだよ。頼むから優しくしないでくれ。もう裏切られるのは嫌なんだよ」


もう、嫌だ。


優しくしてくれた奴は、みんな俺を裏切る。


そんな事されるなら、まだ独りの方がマシだ。


「裏切られるのが怖いですか?」


「あぁ」


「人が怖いですか?」


「あぁ」


「なら私と一緒ですね。私も怖いです」


「お前と一緒にすんな」


「早く行こっ!」


「黙れ」


「早く行くよ」


「黙れよ」


「お腹空いたから、早く行こうよ」


「黙れって言ってんだろうが! 1人で勝手に行けよ! さっきから頼んでるだろ! どっか行けって、優しくするなって。なのに、何で、俺に構うんだよ。……もう、やめてくれ」


「分かった。あなたがそう言うなら行くね」


早く行けよ。


その人はしばらくすると歩き始めた。


そしてその人の足音はどんどん遠くなっていく。


これでいいんだよな?


これで誰も傷つかない。


もし傷つく人がいるなら、それは俺だけでいい。


そう思っているうちに、だんだん眠くなってきた。


何かが近づいてきている足音がしたのだが、どうでもいいか、と思ったから寝ることにした。


「あれ、もしかして寝てしまったのかな? 今のうちに、お家に運ぼ」


こうして音無 雫はお持ち帰りされ、ベッドに寝かされ、朝までぐっすり眠ってしまった。



今は音無 雫が王室から出た後のこと。


「私はどうしてこんな所に?」


彼女達はどうやら、催眠術から抜け出す事が出来たようだ。


「やっと、抜け出せたか」


「しずくはどこに行ったんでしょうか?」


「何だ、知らないのか? 音無はお前らを置いて逃げたよ」


「しずくがそんな事をするわけがありません」


「確かに音無はそんな事はしない。でも、お前らから、音無を裏切った場合はどうだ?」


そこで、神童はニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「……あれは、夢ではなかったんですね」


「あぁ。音無が泣いていたのも、笑っていたのも、殺すと宣言したのも、全てさっきここで起きた事だ」


「そうですか。でもしずくは必ず戻ってきます」


「どうかな? 音無は戻ってくるどころか、この国に滞在する事が出来ないんだよ」


「それでも、私は信じてます」


こうしてナフタリア、ツクヨは主人を音無 雫から神童 優一へと変わり、彼女達の楽しかった生活は奴隷生活へと変わってしまった。
































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