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失敗から学ぶほんとうのこと

「栞さん、このセラピーでは、失敗はいつ起こるか分からないものですよね。だから意味があるの。最初から分かってて失敗するなんて、そんなの失敗なんかじゃありません。何の意味もないです」


恭子先生の言葉に、栞は背筋が凍った。そして先生が続けた。


「それになんですか? 自分からおもらし? それもわざと? そんな悪いことを? みんなの前でわざとおしっこ漏らすなんて、はしたない。それこそ女性として、恥ずかしいことだと思わないの?」


普段「失敗」という言葉を使っている恭子先生が、あえて恥ずかしい「おもらし」や「おしっこ」という言葉を使って栞を蔑み、栞の行動を責めた。


「そういう勝手な行動は許されません。栞さん、今日おもらししてもそのままでいなさい。着替えもないわ。おしっこでパンツを濡らした恥ずかしい格好のまま、街を歩いて、電車に乗って帰りなさい」


栞はショックを受けた。激しい罪悪感と、恥ずかしさのため、泣きだした。


「先生・・・」

「泣いても先生は、知りません。頼むならみんなに頼みなさい」


栞はその場でしばらく泣きじゃくっていた。


《いったい、私、どうしたらいいの?》


周りのみんなが固唾をのんで栞の様子を見守っていた。

栞もその気配に気づいた。そして、しばらくして栞は顔をあげ、涙を拭って、みんなに声を掛けた。


「お願いです、みんな。誰か、私に力を貸して下さい」

「どうしたらいいの?」

「私、もうすぐ、おもらししちゃう。だから誰か、拭くものとか、着替えになるものとか・・・ありませんか? お願い、翔くん、あかねさん、みさきさん」



栞は思った。今までこれほど自分から人に助けを求めたことあっただろうか。

会社にいたときには、絶対に助けを求めなかった。そればかりか、人との接触を避けていた。

だから自分に自信がなかった。


「栞さん、私のハンカチ、よければ、使ってね」

「私のも。タオルハンカチだから、身体を拭いても、雑巾にしてもいいわ。あと先生、昨日私が失敗して、穿かせてもらったブルマーを今日洗って持ってきてるので、栞さんのために渡していいですか?」

「いいですけど、誰が着替えさせるんですか? 自分で着替えてはだめです」

「翔くん、私のお世話、お願いしていいですか?」


栞が、頬を赤らめて翔に言った。翔が微笑んで答えた。


「僕が栞を着替えさせます。先生、それでいいですよね?」


栞はうれしかった。そして気がついた。人を信頼すること、『助けを求めれば、助けてもらえる』ということを忘れていた。


昔の自分は、最初から最後まで自分で対処しようとしていた。自分だけじゃ解決が困難だとわかっても助けを求めようとしなかった。そしたら限界を超えてしまったとき、自分自身がつぶれてしまった。


『私、もう限界なの。お願い、助けてくれる?』


その一言が言えなかった。でも、言えたとき、どんなに楽なのかって、今気がついた。


そう言ったところで、『限界』そのものが緩和されるわけではなかった。しかし、限界に達しても、自分がつぶれなくてよくなる、そういうことなのだ。


《『失敗』はする。それは間違いない。でも、みんなが助けてくれる。だから『失敗』しても苦しくないんだ》



「みんな、ありがとう・・・。あ、もう・・・」


椅子に座ったまま発した自分の声が力尽きるようにしゃがれた瞬間、安堵とともに膀胱が自分の意思と無関係に収縮し、栞は失禁した。生理的な解放感とともに、おしりに温かさが広がり、椅子の下で水が滴り落ちる大きな音が続いた。しかしそこに空しさや孤立感は全くなかった。


激しかった苦痛からの解放ののち、やがて肩に触れた翔の手に促されるようにして立ち上がると、自分の身に濡れ纏っていた衣服が脱がされ、風が身体を包んだ。


タオルがふんわりと、そして力強く、自分の濡れた素肌を包み込むようにあてがわれた。男性にお世話をされるのはもちろん恥ずかしかったが、栞にはその一部始終が、これまでで一番温かいものに感じられた。


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