はじめての『失敗』
「どうしたんだろう、なんだかいつもと違う」
次の日のレッスンがはじまってまもなく、栞は自分の身体の異変を感じた。なんとなく脱力感を感じるとともに、急速に尿意が高まってきたからだ。
《どうしよう、私、おしっこしたい・・・》
《トイレに行きたいって言い出そうか、それともレッスンが終わるまで我慢しようか》
みんなは黙々と作文を書き続けていて、教室はしんと静まり返り、鉛筆の音だけが響いていた。
《とてもこんな状況じゃ、それにまだはじまって30分も経ってないのに、トイレなんてとても言えない、でも最後まで我慢できるかな・・・?》
しかし、そんなことを栞に長く考えさせてくれる暇もないほど、栞の尿意は急激に高まっていった。
《やっぱり我慢できない・・・》
そのとき、ふと昨日までの情景が栞の頭をよぎった。
《みづきさんや、翔くんのように、私も、漏らしちゃうのかも・・・》
その恐怖心に苛まれ出したときには、もう栞の尿意は限界近くに達していた。
《だめよ、勇気を出して、先生に言わなくちゃ》
栞がそう決心したのも束の間、恭子先生が不意に栞を指名した。
「じゃあ栞さん、途中でもいいので読んでみてください。立って」
「はい・・・あ・・・」
尿意をかばうように栞はおもむろに立ち上がった。そのとき栞の身体に、突然、経験したことのないような猛烈な尿意が襲ってきた。それは「膀胱が苦しいけれど我慢できるレベル」の一線を越え、身体が自分の意思に関係なく漏らそうとしてしまうレベルに感じられた。
栞は、どうすることもできないまま、自分の作文を朗読しはじめた。
《もう・・・絶対トイレなんて行けない・・・》
《私、きっと、おしっこしちゃう・・・》
栞は、絶望と、激しい尿意と、これから起こる出来事への恐怖で、脚がふるえた。
「リーダーを任されて・・・クライアントからの要望を取り違えた私は、それに気づいていながら・・・」
まるで急激に水が入ったため、風船が弾力を持てず、十分広がることができないまま、その水が風船の出口をむりやり押し広げていく、そのような感覚が栞を襲った。栞は下半身に寒気が走り、思わず前かがみになった。
「なんとか、状況を、取り繕おうと・・・、あ、あ、あぁ・・・」
まるで絶頂感にも似た猛烈な尿意は、絶対に我慢できなかった。自然と、昨日の翔のように両脚をバタバタとすり合わせても、出口から少しずつ少しずつあふれてきた。
「ダメ・・・あっ・・・」
そしてついに栞が力尽きると、反射的に栞の身体が勝手に下腹部を力ませた。
あふれ出した水は、膨らんだ風船がしぼむように一気に勢いを増して下腹部からおしりに向かって温かく渦巻いたあと、短パンから伸びる両方の太腿を広く濡らしながら、床に落ち、広がっていった。
《ほんとに、漏らしちゃった・・・》
栞を中心にしながら、水の滴る音だけが教室中に響いていた。周りから、ひそひそ話す声が聞こえた。
ずっと黙ったままの栞に、恭子先生が声を掛けた。
「栞さん、失敗してしまったのね。分かったわ。でもまだ作文が終わっていませんから、朗読を続けてください」
限界まで我慢の末だったので、まだ膀胱から出きらない温かいおしっこが、栞のおしりをくすぐりながら、両脚を伝い続けていた。栞は、顔を赤らめながら、上ずった声で読み続けた。
「取り繕おうとしたものの・・・してしまったことは隠しようがなく・・・私は・・・」
身体を襲っていた切迫感が一気に緩み、楽になっていくのに代わって、栞を包みはじめたのは、形容しがたい空しさ、そして孤立感だった。栞は声を詰まらせ、泣いた。
《うそ・・・私がおもらししちゃうなんて。小学校のときだってどんなにおしっこしたくても、だいだいは我慢できたのに・・・》
生理的な苦しさから解放されたあとも、たくさんのおしっこでぐっしょり濡れた短パンからは、透明な滴が絶え間なく落ち続け、栞の太腿を伝っていた。どうしようもなく立ち尽くす栞に、恭子先生が雑巾とタオル、ブルマーの入った手かごを持って近づき、栞の短パンのホックに手を伸ばした。
《男の子たちも見てるのに・・・嫌・・・、嫌ぁ・・・》
その後栞に起こったことは、あまりに衝撃が大きく、栞は気が遠のき、意識が薄れ、倒れそうになった。