どうしてトイレに行かなかったの?
「あら、みづきさんが戻ってないわ。栞さん、ちょっと見てきてくれる?」
「はい」
「きっと、書架のほうだと思うから」
栞はレッスンの途中で恭子先生にそう頼まれ、席を立った、今日セラピーに通いはじめたばかりの栞は、書架の場所がよく分からないまま、貼紙の表示に沿って書架のコーナーへ向かった。
薄暗い書架のコーナーは、奥のほうに窓があって、みづきはその下で、薄日に照らされながら壁を背にしておしりを床につけていた。濃い目のスキニージーンズを穿いた美しい両脚をくねらせて、苦しそうだった。具合でも悪いのかな、と栞は思ったが、みづきの意識ははっきりしているように見えた。
「みづき、さん? どうしたの? 具合でも悪いの?」
「ううん、なんでもないわ・・・ちょっと休んでただけだし」
みづきが、栞に見つかって、少し慌てたように答えた。
栞のあとを追うようにして、恭子先生がやってきた。先生と言っても自分より少しだけ年上の、まだ若い女性だが、数多くの経験を積んでいそうで、話し方にも貫禄があった。
「あら、みづきさん、こんなところにいてはだめね。レッスンの途中ですから教室へ戻りましょう。さ、立って」
「あ、でも・・・私・・・」
そう言いながら脚をしきりに内側にくねらせる様子を見て、栞ははじめて、みづきがすごくおしっこを我慢しているのだということに気がついた。
《どうしてトイレに行かなかったのだろう。そういえばトイレってどこ?》
「みづきさん、もし・・・」
栞がそう言いかけたそのとき、
「あっ、や・・・イヤぁーっ」
切ない叫び声がした瞬間、透明な水が、みづきのジーンズのクロッチのあたりからシャワーのようにあふれ出すとともに、彼女のおしりの下をゆっくり広がっていった。
《おしっこしちゃった・・・》
びっくりした栞は、しばらくその衝撃的な光景に釘付けになった。でもすぐに、見てはいけないと思い直し、慌ててその場をあとにして、教室に戻った。
数分後、みづきが恭子先生に連れられて、教室に入ってきた。
「イヤです、こんな格好。着替え、ほかにないんですか?」
みづきが、哀願するように先生に訊いた。上はもともと着ていたブラウスにカーディガンのまま、下はエンジ色の、おしりをすっぽりと包む肉厚のショーツのようなものを穿かされていた。
「みづきさんは知らないんですね。ちょっと前まで、体育のときには皆当たり前のようにブルマーを穿いていたのに」
「ずっとこの格好なんですか?」
「これからみづきさんの衣服を洗濯して、それが乾くには時間がかかるでしょ? だから今日は最後までこの格好です」
「でも・・・恥ずかしいです」
「それはみづきさんが、失敗したからでしょ?」
みづきが泣きべそをかきながら発した言葉が、栞の疑問をそのまま代弁していた。着替えるにしても、もっとほかに服があってもよさそうなのに、と。みづきと同じくブルマーを穿いたことのない栞にとって、その格好はとても恥ずかしいものに思えた。
みづきは長い両脚に手を添えながら、心もとなさそうに席に着いた。