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なんにもしたくないけど動かなくてはならない。でないといつまでもご飯が食べられないのだ一人暮らしというのは。
だけど動けない。さっき仕事から帰ってきて障害物満載のベッドの上に座り込んだら、そのまま立てなくなった。どこまでも体が沈んでいくような心地さえした。
髪の毛からヘアゴムやヘアピンをむしり取り、そのへんに投げた。ヘアゴムは必要だったのだと気づき、探したけれども、すでに部屋のそこここに積み重なる障害物に同化しており、見つからなかった。
今日もよく働いた。空恐ろしいほどに。分析結果を持っていくたび「えっもう出たの」と営業が驚く。頭が冴えているのが自分でもわかる。
その反動が一人になってからどっとくる。こんなに疲れているのだから外で食べてくればいいのだろうが、会社を出たあとで自分を保つ自信がない。一目散に帰宅する。
ようやく重い腰をあげて台所に立つ。玄関の扉を開けた瞬間に感じる何らかの匂いは、しばらくすると鼻が慣れるのかわからなくなる。だけど主な発生源であるここに立つと、さすがに空気の色が違うようだ。思い切り息を吸いこむ。くさいと思い、不快だと思うことに、ほっとする。
さてこれから料理をしなくてはならないのだけれど、台所には山ほどの障害物があって、それをどかすのが面倒でたまらないので一番上にあった鍋だけをしぶしぶ洗う。流しの中山積みになった障害物の中に食べ物の滓を含んだ水がたまってゆく。これを放置するから匂うのだとはわかっているのだけれど。
即席麺を作って、鍋から直にすすった。使える食器など残ってない。
あさましい食事のさなかにも、視線はいつしか部屋の一角に吸い寄せられてゆく。この部屋で唯一、きれいなものがある場所。普段の感覚からすれば目の玉が飛び出るような価格のブランドものドレスと、似たようなのが堆積のどこかにあるはずなのだけれど見つからなかったので買った靴とバッグ。ブランドがひとめでわかるアクセサリーも。すべて明日のために。