★優里と混浴?
健全な高校生である俺は、彼女たちの申し出に戸惑いと興奮を隠せないでいた。
この美少女三姉妹の内の誰か一人が、俺の背中を流してくれる。
しかも、上半身裸で……。
彼女たちは、父親の容態を診てくれ、さらに食べ物など、珍しい物を運んでくれたことに対する『お礼』なのだという。
しかし……まだ確実に治ると決まったわけでもないのに、今日初めて会ったばかりの俺に対して、ここまでしてくれるものなのだろうか……。
と、ここで『お礼』という単語を思い出した。
最近、どこかで聞いたような……。
……って、最近どころか、今朝あの白ネコの『エル』が、お礼と称してこの世界へと続くゲートを作ってくれたではないか。
そうか、と俺は納得した。
現在のこの状況、エルがうまく事が運ぶように仕向けてくれているのだ。
タイミング良く水浴びしているところに出くわすのも、父親の病気が『脚気』だったのも……そういう状況の場所に、うまく誘導してくれたのだ。
ならば、彼女たちがこの魅力的かつ悩ましい提案をしてくれたのも納得がいく。
エル、GJ! お前はすばらしい奴だ、まさに神の化身!
そういうことならば、存分に満喫させてもらおうではないかっ!
となれば、迷うことはない。
俺は一番自分の好みであった美少女、優里を指名した。
すると彼女は、顔を赤らめ、少し嬉しそうな表情まで浮かべたではないか!
くっ……これはかわいい、やられてしまう。
そして俺は風呂場へと案内され、手ぬぐい一つ持って湯船に浸かっていた。
待つこと、しばし。
「お待たせしました、失礼します……」
日没間際で、やや薄暗い風呂場に、可愛い声が聞こえてきた。
それだけで脳内にアドレナリンが噴出するのが分かる。
いやいや、待て待て。そんなに話がうまいわけがない。
きっと何か変なオチが待っているに違いな――。
そんな予想を(良い意味で)裏切るように、彼女は上半身裸、下半身は腰巻きのみで浴室に入ってきた。
……眩しすぎて(薄暗いけど)、直視出来ないっ!
それぐらい、一瞬だけだが間近で見た彼女の裸は美しかった。
思わず、下を向いてしまう。
「あの……お背中、流しますから、出て来て頂いて構いませんか?」
そんな彼女の可愛い声に促されて、手ぬぐいで股間を隠しながら、俺は浴槽から出て、後ろ向きに椅子に座った。
「大きい背中……男の人って、凄くたくましい体をしてらっしゃるんですね……」
これって、褒め言葉かな。
まあこの時代、男性でも平均身長は155センチぐらいしか無かったと聞く。
俺は170センチ、現代ならば普通だが、ここではかなり大柄だ。
それなりに鍛えもしているし、そう映るのかもしれない。
「えっと……君は、男の人の裸とかって、見たこと無いのかな?」
……俺は何を聞いているんだ!
いけない、すぐ後に上半身裸の美少女がいると思うと、正常な思考が出来ていないようだ!
「はい、大きくなってからは、父以外は……男の兄弟はいませんし、お手伝いさんも女性の方が多いですし……」
彼女は特に気にせず、素直にそう答えながら、まず俺の背に湯をかけ、そして何かで擦り始めた。
この匂い……糠だ!
そうか、この時代石鹸なんかないから、糠袋で体を洗っていたんだ。
あんまり良い匂いはしないけど、小柄な彼女が一生懸命、丁寧に洗ってくれていると考えるだけで幸せな気分になれる。
……しかし、それから会話が続かない。
さっきは三姉妹揃っていて、特に波美が場を盛り上げていてくれたけど、大人しそうな優里と二人っきり、しかもお互いに異性の裸にはほとんど免疫がない。
そのうちに、彼女がもう一度背中にお湯をかけてくれて、
「あの……洗い終わりました……」
と小さく呟いた。
えっ……これで終わり?
いや、彼女の一生懸命さが伝わってきたし、一瞬だけだけど、綺麗な胸も間近で見えたんだ、良しとするかな……。
「あの……一緒に湯船に入ってもらっていいですか?」
……えええええっー!
い、一緒に湯船に……ですかっ!?
これもお前の成せる技か、神の化身エルよっ!
「あ、ああ……俺は構わないけど……」
ううっ……つい、そんな素っ気ない口調になってしまうっ!
「そ、そうですか? 良かったです……じゃあ、あの……先に入って、向こうを向いてもらっていいですか? 腰巻き、取りますから……」
うっぎゃあ、マジでっ!?
それって、あの、素っ裸っていうか、おーるぬーどっていうか、生まれたままの姿的な……。
って、俺、マジでパニック状態なんですけど。
なんだ、この娘……大人しそうに見えて、ぐいぐい来るじゃないかっ!
「あ、ああ……」
口ではあいかわらず素っ気ないが、正直、心臓は爆発寸前だ。
言われたとおり先に湯船に入り、壁の方を向く。
ごそごそと音が聞こえ、そして隣に静かに入ってくる感触がある。
……いや待て、ここまで来て、実はタヌキやキツネに化かされているんじゃないだろうか。
日本の昔話なんかだとよくあるシチュエーションじゃないか……。
「もういいですよ……」
というか細い声で、俺は正面を向いた。
すぐ隣に、ムチャクチャ可愛くて小顔の美少女が座っている。
あまり広くない浴槽、肩が触れあっている。
……本物だ、タヌキやキツネじゃない、本物の女の子……。
薄暗い上に、ゆらゆらと揺れる水面に拡散されてよく見えないが、確かに腰巻きは外している。
完全に、生まれたままの姿で並んで湯船に浸かる俺と優里……。
「……できました……私、男の方と、並んでお風呂に入れました!」
嬉しそうにそう声に出す優里……って、え?
「それって、どういうこと?」
「あ、ごめんなさい……あの……父上に、言いつけられていて……あの、勇二様と必ず並んで湯船に入るように、って……」
……はっ?
「あの……詳しく教えてもらっていいかな?」
「はい……あの……私、実は一月ほど前に、お見合いしたんです……」
……なんかいきなり、話飛んだな、この娘、天然かな?……って、ちょっとその内容、衝撃的なんですけど。
「でも、お相手の方、怖そうなお顔で……私、震えて、一言もしゃべることができなくて……それで、上手くいかなかったんです……そうしたら、父上が私の事、『大事に育てすぎた……あまりに若い男を遠ざけすぎた』っておっしゃって……」
「……うーん、そりゃあ、今まで若い男とほとんど話すらしたこと無いのに、いきなり見合いなんて、無茶だろう」
「はい……それで今日、私が、勇二様と話しているのをみて、ちょうどいい機会だからもっと親密になるために、もし背中を流す相手として選ばれたら、一緒に湯船に入りなさいって言われてて……」
なるほど……父親の言いつけだったのか。
「そういうことだったのか……でも、理由はそれだけかい?」
俺としては、少しでも俺の事、気に入ってくれたのかなと期待してそう尋ねたのだが……。
「……さすが仙人様ですね、隠し事、できないです……実は父は、勇二様の事、誤解しているようで……」
やっぱりこの娘、少し天然だ。ちょっとカマかけるだけで全部しゃべってくれる。
「私達は、勇二様が消えたり、現れたりするのを見ているから仙人様と分かっているのですが、父はそう思っていないようで……『あの方は、間違いなく身分の高いお侍か、公家の方だ』って言っていて……めずらしい食材とか、医術の道具も、近くに御家来の方が大勢いらっしゃって、持ってきてくれるのだと。それと、七日でいなくなるというのも方便で、実はこの地方に逗留されるのが七日なのに違いない、と。その間に気に入ってもらえれば、玉の輿に乗れるかもしれない、なんて言っていて……」
……あの父親、恐るべき想像力だ。
病床にありながら、そこまで考え、策略を立てて、この美しい娘を送り込んできたのか。
俺が本当に高貴な身分で、嫁探しをしているならば、コロッとやられるところだ。
「一月前の突然の見合いといい、父は、自分の死期を悟って、焦っているのでしょう……だって私達の誰一人、花嫁姿を見せることができていないのですから……」
……なるほど、そういう事情か。そう聞くと……なんか、可哀想な気もする。
「……大丈夫だよ。絶対とは言い切れないけど、君の父君は、十中八九、良くなる。あれは典型的な脚気の症状だった。他に病気を併発していれば分からないけど、数日以内には見違えるほど元気になると思うよ」
「えっ……本当なのですか? 気休めではなくて?」
「……なんだ、気休めだと思っていたのか? 本当だよ」
「……だったら、嬉しいです……花嫁姿、見せてあげられるかも……」
ぽっと頬を桜色に染める彼女。本当にかわいい……。
「なるほど、だいたい事情は分かったよ。でも……他にも隠していること、あるんじゃないのかい?」
ここはもう一段、カマをかけてみる。
「いえ、あの……父に言われたことは、それだけです……」
「……そっか……でも、よく頑張ったよ。父君に命令されて、嫌だっただろう? 今日会ったばかりの男の背中を流した上、一緒に湯船に入るなんて……」
「い、いえ、そんな事無いです! 勇二様、お優しそうですし……あの、勇二様は嫌でしたか?」
「まさか。三人の中から君を選んだ訳だし……今もこんなに仲良く話できて、嬉しかったよ」
「そうですか? 良かった……気がついたら、こんなにおしゃべりも出来てる……昨日までの私からすれば、信じられない……こんな素敵な方の隣にくっついていられるなんて……私、幸せです……」
嬉しそうに語る彼女の表情は、今までで一番可愛らしく見えた。
刹那、トクン、と新たな感情が芽生えるのを感じた。
それは、裸の美少女が、体をくっつけて隣にいるというシチュエーションに対する興奮だけではなく、もっと純粋な感情……。
これは、まずい、と俺は直感した。
今日会ったばかりのこの娘のこと、本気で好きになりかけている……。
しかし、その恋愛は決して成就することはない。
わずか一週間で、現代とこの地を繋ぐゲートは、閉じてしまうのだから……。




