三姉妹
前話で(2.指示通り、ゆっくりと振り向く)を選択した場合の続きです。
恐る恐るゆっくりと振り返ると、そこには右手に短刀を構えた、着物を着た美しい娘が立っていた。
「見かけぬ顔だな……ひょっとしてこの村の者ではないのか」
「あ、ああ……別の町から来て、森の中をうろうろしている内にここに辿り着いた」
「だろうな……この辺りの土地は代々剛田部家が治める土地であって、武士といえども許可無く立ち入ることは許されていない。相応の罰を受けてもらわねばならないな」
「そ、そんな……」
あまりに一方的な説明に、俺はちょっと涙目になった。
「まあ、そうはいっても知らなかったのであれば仕方が無い。罰金を支払えば、初回は見逃してやっても良いが……貴様、金持ちなのか? 見たところ、刀さえ持っておらず、髷も結えぬ貧乏武士のように見えるが」
「あ……うん、まあそうなんだ……」
俺の情けない台詞を聞いて、彼女ははあ、っとため息をつき、短刀を下ろした。
「まったく……こんなところまで入り込んで覗きをするとは、不届きではあるが剛胆な奴だと思ったんだが……貴様、名は何という?」
「沖田勇二、だ」
「……ほう、名前だけは立派だな。それで、どこの生まれだ」
「美海町って言うところだけど……知ってるかな?」
「みうみ……いや、聞いた事無いな……この松丸藩に、そんな名前の町あったかな……いや、貴様ひょっとして、他の藩の出身か!?」
それに対して、俺は何も応えることができない。
「まさか、脱藩者か? だとしたら、通行手形は持っているんだろうな?」
「……いや、何にも持っていない」
「……なんということだ……それでは貴様、死罪にせねばならないじゃないか……」
死罪って……えっと、死刑!?
これは……なんかやばくない?
「……さて、どうしたものか……」
彼女が困り顔になったのを見て、俺はピンと来た。
この娘は、本気で俺を罰するつもりはないんじゃないか……。
そこで、一芝居打つことにした。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「貴様……動くなと言っただろう?」
彼女は短刀を構え直した。
「いや、君に危害を加えるつもりはない。実際、武器も持っていない。確かに、通行手形も持っていないけど、それは関係無いんだ」
「……どういうことだ?」
「俺は実は、仙界から来た仙人なんだ。だから通行手形なんか必要無いし、必要があれば仙界に瞬時に帰ることもできる」
俺は自信たっぷりに演技を続けた。
そのあまりの変わりように、彼女は少し戸惑っているようだ。
「出任せを言うな。仙人などと……そんな者がいるはずがないだろう?」
「本当だよ。ここからほんの少し歩けば、仙界とこの地を結ぶ門がある。そこに行けば俺が言ったことが正しいと証明できるよ」
「戯言をいうな。斬るぞっ!」
彼女は威嚇モードに入った。うーん、これは逆効果だったか……。
まさにその時。
「まって、姉さん!」
と、可愛い声が聞こえてきた。
ふと、その方向を見ると……先程水浴びをしていた少女二人が、こちらに歩いて来るではないかっ!
ただ、いつの間にか着物をしっかり着込んでいるが……。
やばい、間近で見ると、二人ともムチャクチャ可愛い……。
「その方、仙人様とおっしゃっているじゃないですか。しかも、ほんの少し歩けば証明してくださると。ならば……そうしていただいた方がいいんじゃないですか?」
髪の長い娘が、そう援護してくれる。
「ユリ……お前、水浴びを覗かれてたんだぞ?」
「あ、はい……でも、殿方は皆さん、そうされるのが普通なんでしょう? 仙人様なら、この土地のしきたりなど、知らなくて当然ですし……」
頬をわずかに赤らめてそう援護してくれる、ユリという名の美少女。
うう、なんていい娘なんだ……。
「ナミ姉ちゃん、私もこの人、本当に仙人様なら、お役人様に引き渡したりしたら罰が当たると思います……」
と、髪の短い方の娘も、初対面で、しかも裸を覗いていた俺の事を庇ってくれる。
ああ、俺、こんな純粋な娘達に対して、なんて酷いことをしてたんだろう。
「……ハナまでそんな事いうのか。まったく、これだから箱入り娘っていう奴は……なら、まあ、仕方が無い。貴様の仙術とやら、見せてもらおうか」
やった! うまく乗ってきてくれた!
やっぱり、このナミっていう娘も、俺が殺されるところまでは望んでいなかったんだ!
ふう、言ってみるもんだな。
通じなければ、全力で逃げようと思ってたんだが。
俺は美少女三人を引き連れ(言い忘れていたが、ナミも美人だ)、森の中へと入っていく。
ナミは一応、短刀を構えたままだが、もう殺気はない。
それどころか、
「逃げたければ、勝手にどこにでも行くんだな」
とアドバイスまでしてくれる。
正直、脱藩者とか、関所破りをしたかもしれない人間になんか、関わり合いたく無いんだろうな……。
「着いたよ。ほら、あれがゲート……つまり、仙界とこの地を結ぶ門だ」
「……何もないではないか」
「えっ……ひょっとして、あれが見えないのか?」
と、楕円形の光り輝く空間を指差したが、三人ともきょとんとしている。
そうか、これ、俺にしか見えないんだ……多分、使えるのも俺だけだろうな……。
「……約束通り、実践してやるよ」
俺はそう言い残すと、数歩歩いて、ゲートを潜った。
「……おかえりニャ。早かったニャ」
そこには、ちょこんと座るエルの姿があった。
「……ふう、無事戻れたか……けど、またすぐ行かなきゃならないんだ」
「ニャ? なんか事情があるのかニャ?」
「ああ、女の子を三人も待たせているんでね」
「……ニャハハ。なるほど、こんな短時間なのにうまくやっているようだニャ」
「いや、そういう訳じゃないけど……とにかくまた行ってくる」
「行ってらっしゃいニャ」
……そしてもう一度、俺はゲートを潜った。
案の定、そこには目を丸くした三人の娘達が立っていた。
「……本物です、本物の仙人様ですっ! 初めて見ましたっ!」
一番かわいい、長い髪のユリが、大げさに驚いてくれる。
「……いや、これは見事だ……本当に忽然と姿を消して、そしてまた唐突に現れた……まさに仙術!」
ナミも絶賛してくれる。
「すごいです……仙人様、仙人様……」
一番年下のハナに至っては、もはや俺を神様か何かのような敬いの目で見つめていた。
美少女三人に褒められ、ちょっと機嫌が良くなった俺は、もっと驚かそうとスマホで彼女たちの事を撮影し、その画像を見せた。
自分達が、まるで生き写しのように小さな板に表示される。
彼女たちのその驚愕たるや、先程の瞬間移動を上回るものだった。
「姉さん、この方なら……ひょっとしたら、私達の事、助けて頂けるかも……」
「あ、ああ……沖田殿、先程は大変失礼した。貴方はまさに本物の仙人様だ。それで……無礼は承知で、お願いしたいことがあるんだ……」
ナミは深々と頭を下げた。
ここまでされたら、俺としても協力せざるを得ないだろう。
……って一体、何をさせられるのかな?
イラストは現在「身売りっ娘」シリーズのものを流用していますが、近日中に差し替わる予定です。その場合も、大体のイメージは変更ありません。




