少女の水浴び
再び森の中に出現した俺は、わずかに聞こえる水の流れる音の方へと歩いていた。
たぶん、小さな川が存在するに違いない。
……数十メートル進むと、その音は徐々に大きくなっていき……気がつくと、藪の向こうに、結構大きな川の流れを見つける事ができた。
と、そのとき、わずかながら声が聞こえた。
若い女性の声だ。
まさか……と思って、藪の中から川原を見渡してみると……。
いた……女の子が二人……しかも、素っ裸だった!
辺りを少し警戒しながら、浅瀬で手ぬぐいを使って身体を洗っている。
距離にすると、三十メートルぐらい離れているだろうか。
こっちは藪の中なので、まったく気付いていないようだ。
女の子の一人は長い黒髪で、胸もそれなりに大きく、かといって太っているわけではなく……ちらりとこちらを見たその表情は、可憐で、今まで見たことがないほどの美少女だ。
歳は、俺と同じぐらいだろうか。
もう一人は、髪は短めで、すこし子供っぽい顔つき。
俺より少し年下ぐらいだろうか……こちらもなかなかの美少女だが、「かわいさ」の方が先に来る印象だ。
二人とも、ちょっとおどおどしながら体を洗っているところをみると、大人しい性格なのだろうか……って、そんなことよりっ!
健全な男子高校生である俺が、同じぐらいの年代の女性……それも、裸の女の子を二人も見てしまった。しかも、二人ともかなりの美少女だ……。
ずっと彼女が出来たことのない俺にとって、それは初めての衝撃だった。
鼓動がバクバクと爆発しそうな程高まっているのが分かる。
緩やかに流れる川面に、二人の少女達の影が映る。
黒髪からこぼれる水滴、何か二人で会話して、少しだけ浮かべる笑顔。
今日ほど自分の目が良いことを、神に感謝したことはなかった。
……って、あの白ネコ、自分の事を神の化身だとかなんとか言ってたっけ?
ということは、彼女たちもあのネコが創り出した幻影なのかな……。
そんな下らないことを考えながら、美しい彼女たちの裸体に見入っていると……。
「動くなっ!」
と、背後から殺気を帯びた声をかけられ、肩をびくんと跳ね上げさせてしまった。
しまった、俺ともあろう者が、初めての興奮に夢中になってしまい、背後に人が立っていることに気付かなかったのだ。
「少しでも妙な動きを見せたら、斬る。のぞき、か……男って奴はまったくもってだらしないな。だが……ここがどういう場所が知っての狼藉か」
よく聞いてみると、若い女性の声だ。
しかし、かなり迫力と殺気を帯びており……妙な動きを見せれば斬る、という言葉も単なる脅しではないようだ。
落ち着いている言葉使いも、こういった場面に慣れているような印象を受けた。
「きゃああぁっ!」
俺と背後の女性に気付いたのか、体を洗っていた少女二人は慌てて逃げていった。
「両手を挙げて、ゆっくりとこちらを向け。ゆっくりと、だぞ」
背後から、あいかわらず凄みを利かせた声で指示が出た。
天国のような光景から、いきなり命が危うい場面になってしまったが……どうしよう?
1.全力で逃げる …… (このままこの話の続きをお読みください)
2.指示通り、ゆっくりと振り向く …… (次の話に進んでください)
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(1.全力で逃げる)を選択した場合
俺は、思い切って全力で逃げることにした。
刀で脅されているという状況もそうだが……『のぞき』している現場を見つかったことが、余りに情けなく、ショックだった。
このまま警察に突き出されたら、どんな屈辱的な仕打ちを受けるか……いや、ここって江戸時代だから、警察なんかいないんだっけ? でも、それなりの役所はあるはずで、ひょっとしたらもっと酷い目に遭うかもすれない。
藪の中に飛び込み、そのままダッシュして川原まで駆け出す。
ちらりと後を振り返ると……ゲッ! 短刀を右手に持った若い娘が、全力で俺を追いかけて来るではないか!
向こうは着物を来ているとはいえ、こちらも慣れないワラジ、思うようにスピードが出ない。
(やばい……追いつかれたら戦いになるかもっ!)
こちらは素手で、向こうは短刀。
しかも相手は、先程の物腰から、結構戦いに慣れている印象も受けた。
なんとか、走りにくい川原を、慣れないワラジながら全力で駆け抜ける。
……毎朝のロードワークの成果が出て、徐々に彼女を引き離し、やがて完全に撒くことに成功した。
そしてほうほうの体でゲートのある位置まで戻り、無事現代に帰還することができた。
「……おかえりニャ。早かったニャ」
そこには、ちょこんと座るエルの姿があった。
「……はあ、はあっ……危なかった……」
「何があったニャ? 詳しく教えて欲しいニャ」
好奇心旺盛な自称・神の化身に、俺は起きたことをありのままに話した。
この白ネコには嘘はつけないし、そもそもネコだ。情けない話だが、まあいいか、と思っていたのだが……。
「ニャハハハハハッ!」
ネコの癖に、大爆笑しやがった。
「やっぱり、キミは面白いニャ。いきなりやらかしたかニャ!」
うう……ネコに馬鹿にされた。
「……ひとつだけアドバイスするとすれば……向こうでは、裸を見られるなんて今ほど深刻な事じゃないよ。そもそも銭湯は混浴だし、行水なんかも、女性でも裸でするのは普通だったニャ。ま、それをジロジロみるのはあんまり良くないけど、それで処罰されるなんてことは無いはずだニャ。女の子達だって、それほど気にしないはずだニャ。ま、少しは嫌われたかもしれないけど」
うう……エルよ、お前は慰めてくれるのか。いい奴なんだな……。
「で、どうするニャ? ゲートは開いているから、一週間内だったら何度でも行く事はできるけど?」
「いや……もういいや。覗きしているところを見つかって、逃げ出してきたんだ。情けなくて、もう戻れない……それに、ちょっとだけとはいえ、いい思いも出来たし」
いい思いとは、もちろん女の子達の裸を見られたことだ。
「ニャハハ。そっちが本音だな。ま、キミが良いならボクもそれでいいよ。じゃ、ボクの恩返しはこれで完了だね。かなりもったいない気はするけど……ゲート、閉じるニャ」
「ああ……そうしてくれ」
――こうして、俺の短いタイムトラベルは終了し、元の平和で、刺激のない生活が戻った。
あの少女達、俺の事、話題にしているかな……。
そう考える度に赤面したが、それもすぐに思い出さなくなった。
その後、エルと出会う事もなく、今回の一件は俺の人生にとって、大した影響を与える事はなかったのだった――。
――(False end No.001 )――
『2.指示通り、ゆっくりと振り向く』を選択した場合の続きは次話となります。




