★夜伽
次に目が覚めたときは、この時代で過ごせる最終日の朝となっていた。
俺はすっかり体力が回復したが、優里はまだ寝込んでいるとのことだった。
ただ、熱が下がり、おかゆも食べているとの事だったので一安心だ。
波美や葉菜、彼女たちの父親から聞いた話では、盗賊四人は藩の役人に連れて行かれたらしい。
庄屋の娘を誘拐するという大罪を犯したのだ、もう彼女たちの前に姿を現すことは二度とないということだった。
――昼頃になると、優里も元気になった。
彼女に会いに行くと……少しやつれてはいるが、ほとんど普段と変わりない優里に戻っていた。
「勇二さんと、少しでも長く夫婦として過ごしたくて……そう思ったら、体調も良くなりました」
と、彼女は嬉しい事を言ってくれた。
無理しなくてもいい、と言ったのだが……
どうしても、残された時間を俺と過ごしたいと言うことで、それは俺も同じだった。
そして、少しでも多く、この世界の美しい情景を目に焼き付けておきたかった。
俺の思いに対して、彼女はけなげに応えてくれた。
最初に出会った川原、彼女たちの氏神である水龍神社、美しい田園風景……。
ごく近場を回っただけで、これだけの素朴で、忘れられた日本の風景を見て回れる。
それも、とびきり可愛い女の子と共に……。
同い年ぐらいと言うことで会話も弾み、本当の恋人同士として過ごす事ができた。
夕刻、帰って来てから、俺と彼女は二度目の混浴をした。
少し恥ずかしそうではあったが……丁寧に背中を流してくれる彼女が、たまらなく愛おしく思えた。
その夜、俺と優里は、同じ床で一夜を明かすことになった。
薄明かりの中、襦袢のみを身につけた彼女の姿は、美しく、神秘的にさえ思えた。
そして俺達は、お互いに生まれたままの姿になり、同じ布団に入った。
最初は戸惑い、少し怖がってもいた彼女だったが……。
実は俺も経験がないことを告げると、少し驚いたような、少し安心したような……
そんな胸中を打ち明けてくれた。
……そして俺達は、結ばれた。
できる限り優しく接したつもりだったが……俺自身初めてだということもあり、彼女に嫌な思い、辛い思いをさせたのではないかと危惧した。
しかし、彼女は涙を浮かべながらも、笑顔を返してくれた。
そして、ただ一言、
「幸せでした……」
そう言って、手を繋いでくれた。
その後、少しだけ眠った……
――無情にもスマホのアラームが鳴り、俺と優里は目を覚ました。
夜明けが近い。
もうすぐ、ゲートが閉じられてしまう……。
俺と優里は、最後のお別れをするために外に出た。
「勇二さん……もう、元の世界に帰っちゃうんですね……」
「ああ……残念ながら……こっちの世界には来られなくなる……」
「そう……ですか……でも、私、勇二さんの事、忘れません……そしてもし身籠もっていたならば、大事に、大事に育てて……それで、勇二さんに負けないぐらいの……」
……そこまで話したところで、彼女はうつむき、何も話せなくなった。
俺は、たまらなく切なく、優里の事が愛おしくなって……衝動的に、彼女を抱き締めた。
「……勇二さん……」
「優里……俺、君の事が……好きだ……」
「……私も、勇二さんの事が……大好きです……」
ずっと思っていたことを、正直に話した。
彼女も、本当に俺の事を、そう思ってくれているのだろう。
平成に生まれた俺が、この三百年前の世界に来て、恋人ができた。
信じられないぐらい可愛らしく、名前の通り優しい女の子だ。
それなのに、もうすぐ、永久に会えなくなる……。
ふっと、神の化身・エルの言葉が蘇る。
現代の何もかもを捨てて、この時代に残ることを選択すれば……。
……しかし、そんな俺の考えを察したのか、あるいは、別れは逃れられないものと覚悟を決めたのか……彼女は、笑顔を見せてくれた。
「私、いつまでも勇二さんのことは忘れません。一生……いいえ、年老いて死んでしまったとしても……
私はずっと、勇二さんの事を思い続けます……だから、勇二さんも……三百年後の世界に戻っても、私の事、忘れないでくださいね……」
「ああ……忘れるものか……俺も、ずっとずっと、君の事を思い続けるよ……」
そして俺達は、夜が明ける寸前まで抱き締め合った――。
――現代に戻ると、あいかわらずエルは、ちょこんと座っていた。
「……無事、終わったみたいだね……」
「ああ……分かるのか?」
「まあ、ね。今まで黙ってたけど、ボクは君の記憶、読み取ることができるから」
「……なるほどな。神の化身なら、そのぐらいできても驚きはしない……」
「……その様子だと、まだ迷いがあるみたいだね。このままゲートを閉じるか、それとも三百年前に残るか……」
「……いや、いくらなんでも、向こうに残ることを選ぶと、こっちの世界で迷惑をかけすぎる……」
「……そっか、それを悩んでいるんだ……でも、それなら心配ないよ。ゲートが閉じたときに君が向こうにいたならば……君は、この時代にいなかったことになる」
「……この時代に、いなかった?」
「正確に言えば、この世界にいた痕跡を消すことになるんだ。あの写真、見てごらん」
エルに促されたまま、家族で映した写真を見てみると……俺だけ、その姿が半透明になっているではないか!
「ど……どういうことだ?」
「ボクなら、この世界で君にかかわった全ての人の記憶と、その痕跡を消してしまう事ができる。そうすれば、誰にも迷惑をかけないまま、向こうの世界に移ることができるよ」
「……エル……おまえは、本当に神の化身だったんだな……」
「いまさらだなあ……で、どうする? もうすぐ、ゲートが閉じる時間だよ」
――いよいよ、最後の選択だ。
俺は……。
1.三百年前に移る
2.現代に残る
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