EP.01 祈り──とある夜に
──お嬢様って、本当に冷酷よね。
──そうね。私なんて一度もお礼を言われたことがないわ。挨拶もしようとしないし。
──私もよ。いくら一度捨てられたとはいえ、無事に戻ってこられたのだから明るく振る舞うべきだわ。
──傷が未だに治っていないのならお医者さん紹介しようかしら?
──あんたの親、藪医者でしょ、やめなさいよ~。
──嘘嘘、冗談だってば。
少女は使用人達の陰口に心の中で怒っていました。
自分は普通なのに何故ここまで悪口を言われなくてはならないのだろう、と。
そして、赤の他人の使用人にどうして声をかけなければならないのか、と。
「あら、今日も綺麗だわ」
少女は微かに微笑み、儚げな顔になりました。
綺麗な満月の夜には必ずお祈りをすること──それが少女の習慣でした。
少女はいつからやっているのかは分からないけれど、やらなければならない気がしてずっと続けているのです。
「──いつか、愛しいあなたに会えますように」
──まあたやっているわ。
──でも、乙女らしくて素敵だと思うわ。
──そう? 15なのだから、現実を見るべきよ。
──何時までも夢見る乙女でいてもしわが増えるだけって?
──やめなさい、それは。私はね、お嬢様に幸せになってほしいだけだから。
──でも、それは押し付けの幸せじゃない?
──貴族に生まれたのだから貴族としての幸せを得るべきよ。
──よく分からないわね。本当に。
「私の、夢はいつ叶うの──? 」