第十六話:狂弐の心中
スランプで〜っす・・・。
かなりグダグダですが、お読み頂けたら幸いと存じます。
今回はシリアスなところが多いです。
−視点:狂弐−
小さな頃の自分が居る。
あぁ、俺は今夢を見ているのか・・・・・・。
小さな頃の俺は公園のブランコを漕いで楽しそうに笑っている。
あの頃は何も知らずに無邪気にはしゃいでたな。
この何の変哲もない生活がずっと続くと思っていた自分が居る。
それを冷めた目で見ている自分がいる。
景色が変わり、小さな自分と買い物袋を持った男の人とその隣を歩く女の人が居る。
『今日の晩御飯は―――の大好きなハンバーグにしましょう』
『ホント? じゃあ早く帰ろうよ! お星様とかお月様とか作るんだ!』
『ふふふ、転ばないようにね』
小さな頃の俺が二人の居た場所から走って振り向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつもここで目が覚める」
最近毎日見続けるあの頃の悪夢、ため息をつき重い体を起こして鏡をのぞく。
ずいぶんと、丸くなった自分が居る。
それを遠巻きに見てる心がある。
俺は、いったいなにを思い、なにを背負い、どこに向かって、日々を過ごしているのだろうか・・・・・・。
一階に下りて、顔を洗い、リビングに行ってコーヒーを入れる。
そうだ、今は二人分入れるんだった。
コーヒーを入れ終えて少しすると、紫色の髪をバンダナで隠した少年がリビングのドアを開けた。
「おはようございます」
「ん、おはようイャクウ」
その少年に挨拶を返し、キッチンヘ向かう。
彼に料理を教えるためだ。
彼の料理の腕はなかなかで教え始めて1週間しか立っていないのに、もう普通にこなすことができるようになっていた。
「できた」
「お〜・・・時間ギリギリだな」
「な、何とか間に合いました」
「それじゃぁ配膳よろしくな、俺は寝てる奴ら起こしてくる」
「はい」
素直に関心しつつ、褒めすぎないように言って二階へあがる。
そのまままっすぐ男子部屋に行き、寝ている二人を起こす。
最初は軽く揺すって、それでも起きないなら強めに、それでも駄目なら最終手段
二人を抱きかかえてそのまま後ろへ倒れる・・・バックドロップとか言ったかな。
ズドォーーン!!
「「ギャアアアアーーーーー!!!」」
「飯だ、さっさと行くぞ」
頭を抑えている二人の襟首を掴んで引きずってリビングに戻った。
途中階段でギャーギャー騒いでたがそんなもん無視だ無視。
リビングには俺ら以外全員がそろっていた。
俺が椅子に座るのを待って「いただきます」を言った。
それから程なくして食事を終えて俺は部屋に着替えに戻った。
今日はファントム・メロディーのライブの日で伊勢まで行かなければならない。
遠いのだが仕方ない。
着替えを済ませ、ギターを持ち、リビングに戻る。
リビングで色々と聞かれたがこっちは時間がねぇんだ。
軽くあしらって家を出た。
バンド仲間の篠追が車で迎えに来てくれていたので乗り込んだ。
「俺が最後らしいな」
「そだよ〜、でも、この面子で顔あわせんのもひっさびさだね〜」
「志乃、前見て運転してくれよ」
「丘ピン任せて!」
「誰が丘ピンだ!」
相変わらず賑やかだな、と思う。
車を運転しているのが篠追志乃このバンドのリーダー的存在、その隣に座ってるのが丘秀平、暴走しがちな志乃さんを止めるのが役目。
それで、志乃さんの後ろで俺の隣に居るのが雅奈七尾主に楽器の調整をしてくれる機械いじりの好きな変わり者だ。
ちなみに、今乗ってるこのスポーツカーも七尾さんの車で最高速度500キロの改造車だ。
「そうそう狂ポン、行きがけに澪継さんと華姫さんの墓前に花添えて行こうって話しなんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、お気遣いなく」
「了解、それじゃ飛ばすよ〜」
澪継と華姫が誰かはいずれ分かることだろうし、今ここで明かすことではないので伏せておこう。
「俺は寝るんで、伊勢ついたら起こしてください」
「え〜狂ポン寝ちゃうの〜? なんか最近起きた面白い話とかしてよぉ〜」
「嫌です、それにそろそろ高速道路入るんで起きててトラウマ増やしたくないですから」
そう言って即効で眠りの世界へ旅立った。
〜夢〜
一歩進むたびにカツーンと響く足音に耳をすまし、自分のいる場所を確認する。
どこだろう。
真っ暗で周りが見えないどころか、自分の足音以外何も聞こえない。
あぁ、そうか・・・ここは、俺の心の虚空の中か・・・
信じることを拒んで、弱い自分を隠して、自分を傷つけ、他人を痛めつけて、心にできた虚空を埋めるように何かを求め、埋められなくて捨てる。
そんなことをただひたすらに繰り返してくうちに、虚空はこんなにも広がっていた。
いつになればこの虚空を埋めることができるのだろうか・・・。
一歩進むたびにカツーンと響く足音に耳をすまし、自分のいる場所を確認する。
真っ暗で周りが見えないどころか、自分の足音以外何も聞こえない。
ここは俺の心の中、夢の続きを願う場所。
ここは俺の心の中、なくしたものを求める所。
弱い自分を心の闇のその奥深くに閉じ込めた、悪夢のループが心を蝕むのとともに聞こえるかすかな泣き声、『・・・・ここから出して・・・』・・・・・。
今日も俺は聞こえないフリをして、歩いてく。
〜夢終〜
うっすらと目を開けると見慣れぬ壁が見えた。
「お、丁度いいタイミングで目覚ましたね、狂ポン」
なぜか丘さんと雅奈さんが顔を赤くして他所を向いている。
車の中で寝ていたはずなのだが・・・。
「狂ポン、はい鏡!」
室内にあった等身大の鏡を俺の前まで持ってきた篠追さん。
鏡に映っていたのは、白い長めのスカートと淡いピンクのTシャツを着た女の子だった。
・・・・・・女の子!?
慌てて自分の格好を確認すると、鏡に映っているのとまったく同じ姿をしていた。
まぁ、鏡なのだから当たり前なのだが・・・髪をまとめていたゴムもはずされてばらけている。誰がどこからどう見ても女の子だ、それもかなり美人の。
たとえるなら、美しいの中に可愛いを踏まえた感じの美人だ。
なんかごっちゃになったな・・・・・・じゃなくて!
「なんで俺こんな格好してるんですか、しかもここどこですか」
今の今まで俺と顔をあわせようとしていなかった丘さんが、やっぱり俺と視線を合わさないようにしながら教えてくれた。
「ここは伊勢のライブ会場の控室で、その格好の原因はあれ」
丘さんが指さしたのは、控室の端の方で腹を抱えて笑っていた篠追さんだった。
俺は問答無用で篠追さんの腹を思いっきり踏みつけた。
「うげぇ」
変な声を上げて俺の見てくる篠追さんを、鬼の形相で睨む。
その顔をみた篠追さんはあろう事かこんなことを言った。
「鬼姫ちゃ〜ん、そんなに足上げたらパンツ見えちゃうよぉ〜・・・っあっはははははははははははは、は、腹いてぇ〜」
俺の堪忍袋の尾は完全に切れた。
そりゃもう修復なんてできないくらいにブチっと
「消えろぉおおおおおおお!!!!!」
俺の脚が完璧に篠追さんのわき腹に直撃した。
なにやらつぶれた蛙のような声をあげたが自業自得だ。
着せられていた服を脱ぎ自分が元着ていた服に着替えながら、なんでここに居るのか理由を聞いた。
「それは「丘ピンが運んだから」喋るな」
丘さんが転がっていた篠追さんに止めをさした。
ってか、こんなんでライブ大丈夫なのか?
俺が不安に思っていると雅奈さんが肩を叩いてきた。
「なんすか?」
「ギターの調整しておいた、確認よろしく」
「雅奈さん、あざっす」
ギターを手に取って引いてみると、自分でも驚くほどイメージどおりの音が出た。
やっぱり雅奈さんの調整は凄い。
俺は雅奈さんを見てガッツポーズをして親指を立てた。
「あと10分で始めるんで準備お願いしまーす」
そう声がかかった後、皆で楽譜を確認してステージにあがった。
「俺らのライブに来てくれてありがとぉ〜!!」
難なくライブも終わり、握手会だのサインだのをして俺は近くの川沿いで一息ついていた。
ふと反対側の川沿いを自転車を二人乗りした男の子と女の子が通りすぎて行った。
女の子は髪の毛がすごく長く、肌の色が凄く白かった。
俺も肌の色は白いが、あそこまでじゃない。
おそらくは長期入院していた子なのだろう。
なんてことを考えていると、篠追さんが迎えに来た。
「なにやってるさ、帰るよアーツ君」
「普通に狂弐と呼んでください」
今更だが、俺は本名を伏せてバンドに参加している。
もちろんメンバーは全員本名を知っているが、ファン達にはこう名のっている。
“ルアーツ”適当に思いついた名前を言っただけで、別段深い意味はない。
「すぐ行きますよ」
俺は車に乗り、今日歌った歌を思い返していた。
−大人になるため忘れた夢を 今思い出して抱きしめよう−
−僕らが捨てた大きな夢は まだ生きて僕らを呼び続ける−
−さあ思い出して 冷めた心に夢を灯して−
−踏み出す一歩は夢に向かって 弱音を吐くな!前を見ろ−
−灯した夢は 折れることなき剣になるから−
「・・・ン!狂ポン!もうすぐ着くから起きて〜」
いつの間にか寝ていたらしい。
目を覚ますと信号待ちで車は止まっていたが周りの2人はぐったりとしていた。
「高速道路だからといって時速250キロはやめませんか?」
「それは無理だにゃ〜俺っちの18番目くらいの楽しみだから♪」
はぁ・・・この人、なに言っても無駄だ。
狂弐も似たようなものなのだが、当人に自覚はゼロなのがお決まりだ。
「あぁ、ここでいいっす」
駅近くの公園でおろしてもらいそこから歩いて家まで帰えることにした。
別れ際に近々遊びに来ると言っていたが、こなくていいのに。
さぁて、帰って夕飯作らないとな。
普段は最強にて最凶の狂弐の心の中を書いて見ました!
なにやら黒い物がグルグルと渦巻いているようですね・・・。
さてはて、狂弐の秘密はいつになったら解き明かされるのでしょうか!!!
「・・・・・・あんたさ、性格悪いとか言われたりしないの?」
おやおや香織さん、その手の言葉は俺にとって褒め言葉でしかないですよ。
「そう、勝手に言ってれば変体野郎」
ひ、酷い! 流石にそれは傷つく・・・
「はいはい、でもこんだけ焦らしたんだからちゃんとあいつの過去も書くんでしょうね?」
モチのロンですよ!
「あ〜はいはい、あんたと話してると疲れるから帰るわ」
それでは俺もこの辺で!