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カリウスの危惧2

帰路の最中、崩落した教会の修繕に付き合うガロン族の中に

見知った顔を見つけた。


「精がでるな、エルルク。」


ガロン族は熊の獣人で皆巨体だが、その中でエルルクの体躯は頭二つ分大きい。

遠目から見てもすぐにわかる。 時折遠近感が狂うほどだ。


「精霊を崇める教会と聞いた、この国は精霊を信じている。」


そう言うと巨躯の獣人エルルクは掌を天に翳す。

すると青や赤、緑といった光が遊ぶようにエルルクの手に集まり

そして散っていく。


「ここの精霊は人を恐れない、心清らかな証。」


「やはり盟を結んで正解だったというわけだな。」


精霊に愛されるということは民の邪心が少ない証。

精霊に愛されていればその土地は豊かになる。


他国の人間であっても精霊を信ずるならばエルルクは助力を

惜しまないのだ。

そして助けてもらったからか、それとも元来人を疑わない性質なのか

村の人達はわずかな食料を惜しみなく提供している。


「暖かいな。」


不意に口をついた言葉にエルルクは口角を持ち上げる。


「お前も自然に身を任せれば精霊の言葉を聴ける。」


そう言うとエルルクは柱に使うだろう巨木を数本担ぐ

相変わらずびっくりするような膂力だ。


「そういえば・・・エルルクよ、此度の褒章は何を?」


「顔料に使う鉱石か・・・槍の穂先が欲しい。」


ガロン族は戦闘の際体にペイントを施す。

これはただの模様ではない、戦闘能力を劇的に上昇させ

勇気をもたらす身体強化の魔法。

それ故にただの顔料ではなく国で取れる特殊な鉱石を

使用するのだ。

もう一つの槍の穂先は単純に彼の使う槍が巨大故にドワーフで

なければ作れない一品だからだ。


どちらも最高級品だがそれについては俺に疑問を挟む余地はない。

むしろ欲しいものがはっきりしていてよかった。

しかしエルルクも独身、嫁と跡継ぎはいつだって歓迎している。


「カリウス」


「どうした?」


「将軍の娘・・・あれはただの花ではない、扱いに用心しろ。」


「なに?」


エルルクは俺の問いかけに返事をすることなく

教会の方へと歩いていってしまった。

食料の中から余剰分を村に残し俺は王都への帰路を

急ぐことにした。




「陛下、此度の戦の経過報告に参上いたしました。」


場所は変わってここはスタルフォスの王都 パルジャン。

様々な部族の住処の中心に位置するこの都市は人間の

作る都市と遜色ない唯一の都市。


王都の名は初めて様々な部族を束ねて国として纏め上げた

始祖パルジャンに因んでいる。


今の王族は虎の獣人が務めているが基本2~3代で種族交代

するのが通例となっている。


「ご苦労だったカリウス、ところで・・・。」


そういうと王はそわそわと何かを聞きた気に言う。

言わんでもわかるがそれは王太子殿下の妻となる女性についてだ。


「オード将軍のご令嬢のことでしょうか?」


「そうだ! どうだった?」


王は聡明にして誇り高いが如何せん親ばかが過ぎる。

世継ぎが欲しいのは知っているが孫なんか出来た日には

どうなることやら。


「気品、美貌、作法、全てにおいて合格点かと。」


「そうかそうか・・・これでご先祖様に申し訳が立つというものだ。」


王はそう言うとため息を漏らした。 

王にとって世継ぎの存在は非常に重要だ。

それから幾つかの報告を纏めていると王宮をパタパタと走る

音が響いてきた。


「父上! 商人からの報告書を纏めました!」


少女と見紛うような可憐な少年、何を隠そう彼こそが王太子である。

虎の如き勇猛さは猫科の愛くるしさに化け、体が柔軟である

以上に思考が柔軟ではあるものの全くの非力。

体も小さく、溺愛したい気持ちはわからんでもないが

天はまさしく二物をお与えくださらなかった。


商人との交渉を纏め、復興に関する財源の確保など

非凡だがそれ故に惜しい。 なぜ王の半分ほどの武威も

もてなかったのか・・・。


俺の視線に気付き小首をかしげる姿はご婦人の寵愛を受けている

が反面男どもからは子分扱いされている。





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