カリウスの危惧
なんということだ・・・。
カリウスは任を終えて帰路の最中一人心の中で呟いた。
まさかオード将軍の愛娘があれほどの美姫だったとは・・・。
おそらくいままで表に出てこなかったのは純潔を
守るため、そして諸侯が取り合うのを防ぐためだろう。
そしてカリウスが見抜いたのは見た目や雰囲気だけではない
体の構造や人間では見抜けないような生命力。
「あの姫君から産まれる子はきっと丈夫な子になる。」
スタルフォスにとって名家に嫁ぐ女性に求められるのは
やはり跡継ぎを産むことだがそれに関しても
フローレンシアは文句無く合格点。
どんなに美しい姫も子を産めなければ最悪家に帰される。
その点フローレンシアは若くて美しく、気品に溢れており
性格も温和そうだ。 その上生命力に溢れている。
王太子に嫁ぐに当たってこれほどの逸材はそうそういまい。
しかしカリウスには一つの懸念があった。
「他の諸侯達は王太子に嫁ぐを良しとするだろうか・・・。」
スタルフォスにも当然派閥があり、必ずしも王の命令に従うわけではない。
ましてや跡継ぎの事、自身の妻のこととなると目の色を変える者も
めずらくないのだ。
スタルフォスは部族の戦士もたくさんいる。 騎士のような者もいれば
戦士として力と跡継ぎの為なら王にも逆らうものもいる。
その中でカリウスの頭に最初に浮かんだのは熊の獣人
ガロン族の戦士 エルルク。
巨躯と誇り高い性格からめったと揉め事を起こさないが一度決めたことは
たとえ王命でも曲げない愚直な性格。
物欲もほぼ皆無で狩りと戦いを生業とし精霊を深く信仰する
シャーマンでもあり、魔法と怪力を有する将軍格の一人。
しかしながらそれゆえに彼女を気に入り、褒章として望んだ場合
決闘以外で彼を諦めさせる方法はない。
次に黒豹の獣人 パンテル族の騎士 アルスウッド。
高い身体能力と高いプライド、好色な伊達男としてスタルフォスでは
手をつけた女の数は一番である。 その中には人妻すら含まれる。
アイツが美しい姫を前にして何もしないはずがない。
コイツは必ず揉め事をおこすだろう。
次はエルフの族長 ルーラ。
同胞の繁栄の為に必要とあらばどんな手を使っても
手に入れようとする困った人物。
神話や逸話を好むエルフの性格からオード将軍の一族の
血を自身の一族に混ぜようとすることは十分に考えられる。
美しいエルフには美姫を嫁がせるべきいう高いプライドも
彼女を見れば刺激されるのは想像に難くない。
最後に、これが一番の問題。
それは今俺の後ろにいる我が息子のことだ。
狼の獣人、ウォルター。
我が息子の中では唯一の独身で適齢期になっているが
今まではとんど女性に興味がなかったらしい。
しかし困ったことに美姫を直に見てから
様子がおかしい。 察するまでも無い、間違いなく彼女に
一目惚れしている。
いままで男性経験のある女性に言い寄られて辟易していた
アイツが初めて出会った生娘、その清純さに当てられたのだ。
マズイ、非常にまずい。 王太子は武に明るくない。
政治に明るく、商業や治世に置いては王として
跡継ぎとしてふさわしいが武術においてはギリギリの
ラインなのだ。 年齢もウォルターより一つ下で
姫君の婿候補の中で一番若い。
しかも先にあげた面々はそれぞれがこの戦いにて大きな戦功を
あげている。 何を褒章として望むかもわからない。
褒章は金品はもちろん、良縁なんてものもスタルフォスでも
めずらしくないのだから。




