それぞれの事情
うれしいですけどそうじゃありません!
女の戦場ですが殿方と武を競う訳じゃありません!
しかも私の話聞いてくれてたんでしょうか!
嫁ぐって三回は言葉を入れたのにどうしてこうなったのでしょう・・・。
きっと戦場に赴く気持ちとかそれっぽいこと言ったからでしょうか。
頭を抱えてしまいたくなる気持ちでいっぱいでしたがそんなご先祖様の
お陰なのか私の心はかなり落ち着いていました。
考えもつかない場数を踏んだ将軍とはいえあれほどの
暢気というか大雑把な人達の血が流れているのだから
私もきっと大丈夫でしょう。
幾分和らいだ気持ちと共に霊廟を後にすると
侍女達が心配そうに霊廟の入り口で待っていました。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
マリーを筆頭に侍女として私を支えてくれたメイド達が私を心配して
くれています。 きっと他国の、それも亜人に嫁ぐ私が重責と見知らぬ
土地に赴く緊張と心細さに苛まれていると。
「不安が無いといえば嘘になりますが大丈夫です。」
ご先祖様から勇気をいただきましたから、と答えると幾分か
メイドたちも元気を取り戻した様子。
将軍家は度重なる戦乱にも関わらず皆老衰か老齢に至っての病死。
戦場で倒れたことはありません。
なので私もきっと戦いに遅れをとることはないでしょう。
私はこの程度でめげるほど柔い心はもっていません。
「それではお嬢様、着替えを・・・。」
「ああ、マリー、そのことでお願いがあるのよ。」
私は将軍家の娘、スタルフォスの方々にお父様やご先祖様が
侮られることだけはあってはなりません。
「お嬢様、本当によろしいのですか?」
「ええ、むしろ将軍家の娘として恥ずかしくないわ。」
私がマリーに頼んだ服装、それは準儀礼用の軍服。
将軍家は当主の留守に代わって妻が王宮に参上することがありました。
その際オード家の女性は平時ならばドレスを、戦時ならば
この軍服を着て王宮だけでなくときには戦場へ繰り出したといいます。
儀礼用の最低限の装飾を施しつつ、大腿や肩などの急所を守る鉄板を貼り付け
ドレスコードを満たすように作られたオーダーメイドの一品。
スカートでなく鎧を意識して作られたズボンとブーツにも細かい刺繍と
装飾が施されています。
オード家は始祖様の御令嬢が女傑であったことから以降の正妻には
鎧とこの準儀礼用の軍服が嫁入り道具として送られていました。
私が今回賜ったのは祖母様のもの。 よく祖母様から若かりし頃に
そっくりだと可愛がっていただきましたがまさか体つきまでそっくり
になるとは思いませんでした、若干胸がキツイですが。
着替えが終わって少しするとなにやら外が騒がしいです。
窓から様子を伺うとどうやらお父様と部下、それに狼やクマの顔もしくは
その耳を持った多数の兵士達が我が家の前に集まっているようでした。
「出陣は近いようですね。」
私がそう言うと皆は緊張した面持ちで窓の外を見つめています。
「それではそろそろ姫君を御呼びいただけますかな。」
狼の頭を持つスタルフォスの将軍 カリウスがオード将軍にそういう。
この戦争に参加したのは優秀な跡継ぎが望めるであろう女子を
こちらに嫁がせるという条件があったからで義理もなにもない。
カリウスは目の前の男性が歴戦の猛将であるから敬意をもって
いままで黙っていたがこちらが条件を満たした以上今度が
サマル帝国が義理を果たすべきなのだ。
それがたとえたった一人の跡継ぎであったとしても。
「カリウス将軍、そう慌てますな・・・何のために我が屋敷にむかっていると?」
「これはご無礼を・・・。」
そういわれてはカリウスも納得せざるを得ない。
カリウス自身も娘を持つ身である。 嫁に出す父親の気持ちがわからんでも
ないのだが。
それと反して兵士や他の貴族や武官達はオード将軍の愛娘に対して
少なくない期待を抱いている。
ボークリンデは獣人を卑下するきらいがあったがサマルはそうではないし
今回の件で目敏い商人などがスタルフォスに商談を求めて入国準備を始めている。 食料の輸入や建材の輸出など今ならいくらでも稼ぐ方法がそろっていからだ。
スタルフォスの貴族や大臣にとっても今回の戦争は非常に有意義となった。
賠償金の一部と新しい貿易相手が見つかっただけでなく王太子のお后も
今回の戦いで得られた。
スタルフォスは戦いで得られたものを非常に重要視する。
それ故に商売や他家との婚姻などは不得手であったが今回の戦争に参加した
お陰でそのすべてを得られた。
とくに王太子殿下のお后を戦争に参加したことによって得られたという
結果がすばらしいのだ。 戦争の戦利品として得た婚姻ならば
他の領主どもも納得しようし、跡継ぎが生まれれば地位は磐石となる。




